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魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
第1章 魔都奔走編 〜英雄の始まりと歌姫の目覚め〜
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第9話 〜創星会〜 ②

「ほらほらほら!どうしたよ、Sランクギルドの冒険者さんよ!」


(くっそ……、コイツやりにくい。まるで僕の戦い方を知ってるみたいだ。)


 目の前にいる創星会と思わしき男。こいつがなかなか曲者で、ティルは自分のやりたい動きが出来ずにいた。相手はティルの近接戦闘を警戒してか、常に距離を取るように立ち回り、無駄な攻撃はしない。そんな逃げることを目的とした動きを貫いていた。


「へッ!まだまだこんなもんじゃないよ!」


 ならばこちらも負けていられない。ティルはそう叫びながら剣に炎を纏わせると、男の元へと突っ込む。


(へっ、それでこそ!だが……、)


「こちとら、そんな甘くないんでね!」


 男はティルの突進を警戒し、風の魔法を利用しティルへの減速をしつつ後退する。がしかし、男の逃げた先は高さ10mを超える壁。逃げ場も無ければ反撃の体勢も出来ていない。


(よし!取った!)


「いいの?そっち壁だよ?」


「だからだよッ!!」


 すると今度はティルではなく、自分自身へと風を引き起こし、体を上へ上へと運ばせる。そのまま壁へ足を密着した後、地面に対し垂直のまま姿勢を整えると、そのまま壁を思いっきり蹴る。結果、男はティルから距離を取ると同時に逃げ道の確保に成功する。


(くそっ、逃げる気か?いやこの方向!ソフィアだッ!)


 ティルは男の逃げた先、ソフィアへのカバーのため、右手に持つ炎を纏う剣を咄嗟に投げつける。


 キンーーーー、ドッゴーーーンッ!!


 常人よりも早い動きなのにも関わらず、頸動脈を正確に捉えた1本の剣に、男は防御の姿勢を余儀なくされる。そして、その見た目に似つかわしくない想像以上の質量に、男の軌道は強制的に書き換えられ、レンガ造りの建物へと激突する。


「ぐは……。くっそ……」


(あっぶなかった……。もう少しでソフィアが危険な目にあってたかも。)


 一方ソフィアはと言うと……


「一体、あなたは冒険者になって何がしたいの?」


「それは……」


「あなたはなぜ、あの子と共に冒険をしたいの?それはあなたの本当の気持ちなの?」


「……はい」


「はっ、嘘よ。そんなの。あなたはただただ流されて生きてるだけ。今だってこれからだってずっとそう。あなたは常に周りの人に流され動かされ、利用されるだけ」


「…………でも」


「でも?だって?あたしが聞きたいのはそんな言葉じゃない。あなた自身の意志のこもった言葉を聞かせなさい」


「わ、私は…………」


 そんな己の確信を着くような一言に、ソフィアは言い返せない。


「いい?あなたが今足を踏み入れようとしてる世界はね、命を扱う世界なのよ。それも1人や2人じゃない、もっと計り知れない数のよ。そんな世界にはね、アナタのような何も持たない、自分の意思すら持てない人はね、ハッキリ言って邪魔でしかないのよ」


「…………」


 私には何も無い……。そんなこと分かってる。嫌という程分かりきってる。そう、私はただただ流されるように生きてきた。


 だってしょうがないじゃない。


 生き抜くことに必死だったのだから……。


 それ以外のことなど、考えられる余裕はなかったのだから……。


 忘れてしまいたい過去からは逃げられず、1歩進む度に反響し、鼓膜へと帰ってくるのは聞こえるはずのない声。今まで生きてきたのは、そんな出口の見えない暗闇に覆われた一本道。


 しかしあの日、あの不思議な遺跡で手にした一筋の光。ついに見つけた出口を彷彿とさせる希望の光。これだけ手離したくない。手放してなるものか!!絶対に!!そう思える程の大切な何かを、あの日私は見つけることができた。


「悪いことは言わないわ。今すぐ冒険者なんかやめて、どこか小さな村で暮らしてなさい。あの小さな冒険者とね」


 あの冒険者とひっそり暮らす。それはそれでありかもしれない。


 しかし、あの日見た背中。見た目は小さくとも、大きく、広く、そして何よりも輝いて見えた背中。それは絶対に絶やしてはいけない、ワタシダケノヒカリ。


 ならば止まってはいられない。アタシは何があっても前に進む。そう。何を捨ててでも。


「嫌だ。私は進みたい。私は変わりたい……」


「無理よ。あなたは変われない。だってあなたは、あなたのその歌は……」


『人を殺す歌』それは呪いの言葉。かつて無垢な少女に投げられたその言葉は、少女を過去に捕える足枷となる。


 いくら事故とはいえ、私は幾千人もの命を奪った。それは変わりようのない事実。しかしその事実が、私の歌が『人を殺す歌』という事を決定づけると共に、私が大好きだった歌を心の奥底へと閉じ込めた。


 それでも……。いつか、いつかは……。


『聞きたいんだ。君の歌を』


 その一言を聞いた時、足の枷が一瞬軽くなった気がした。私はまた歌っていいんだ。生きてていいんだ。そう思えた気がした。


『いつか、僕の為に歌って欲しいんだ』


 これはとある冒険者と交わした約束。その約束をした時、私も前を向いて生きると誓った。いつか過去を乗り越え、その人向けてに心を込めて歌う為に。私の歌を人を殺す歌ではなく、『みんなを救う歌』にする為に。私の光となってくれた事への恩返しの為に。



「人を殺すう……」


「違う……」


 何となく分かる。頭では理解できなくとも、直感がそう言っているのだ。


 今ここで、心の奥底から溢れてくるこの言葉を叫べば、いつかきっと後悔する。目の前のこの人と、いつか本気で殺し合うことになる。そして、私の今までの平穏は、いつか必ず破綻することになると……。


 でももう止められない。止められることなどできるものか。そう、体の細胞全てが叫びたがっているのだから。私は今日変わる。今までの弱気で生きる私はもう要らない。だからこそ叫ぶ。今この瞬間、生まれ変わるために――――。



「違うッ!!もう私の歌は命を奪う歌なんかじゃないんだッ!!今はそうかもしれない!!けどッ、いつか、いつかみんなの為に、希望を必要としてる人の為に歌うんだッ!そう、言ってくれる人がいるから!そう、信じてくれる人がいるから!そう、約束したのだから!!だから私は進むっ!!あそこにいる、誰よりも大きな冒険者と一緒に!!」


「そう……。もう既に手遅れだったのね……。なら」


 目の前の女は、両手を掲げ魔法を唱え始め、


「あなたを殺す」


 そう宣言すると共に、生成した槍状の光をソフィアへ放つ。


「そう簡単にはやらせない」


 ソフィアも負けじと、片手で作り出した光の壁で槍を相殺する。


「やはり、その魔法。あなたもそうなのね」


「なんのこと?」


「別に。今知らなくても嫌でも知る事になるから。まあいいわ。あそこまで言ったんだもの。ご褒美に教えてあげる」


 すると、今度は光の槍ではなく、手のひらサイズの小さな火の玉を生み出す。そして……


「LaLaLa――――――」


 目の前の女性は綺麗な歌声を披露する。


「何を、歌って――――」


 ドキン――――――。


 なんだろうか、あの火の玉は。何の変哲もないただの炎の魔法。だけどそんな火の玉に今まで感じたことの無い……、いやあの時、あの遺跡の最深部で感じた恐怖に近い何かを思い出す。


(あれは、きっとただの魔法なんかじゃない。もっと別の何かな気がする。)


 するとソフィアは、先程の壁とは比べ物にならない強固な壁を作りだす。


「甘い!!」


 女はそう叫ぶと同時に炎の玉を発射する。


 グッ――、パリン――――――。


 炎の玉は、光の壁にぶつかると一瞬だけ押し合う。その後ソフィアが作り出した全力の壁は、硝子の破裂音と共に為す術なく弾けて消える。


「嘘…………」


 女の発射した魔法は壁を突き破った後も、スピードが落ちる事なくソフィアへと向かう。


(足が……体が……。)


 目の前へと迫り来る恐怖に体を動かすことが出来ない。真っ先に思い浮かぶのは死――――。


(何とか、避け――――)


「どぉーーりゃ!!」


 すると、聞き覚えのある声。いつも助けてくれた、あの声と共に、その魔法は別の方向へと弾き飛ばされる。


 グァァァァッ!!


「いぃっチィ〜〜。お前手加減してやんなって」


「うるさいわね。アンタも避けれたでしょ」


「へへ。まぁね〜」


「大丈夫?ソフィア?」


「うん。何とか……」


「じゃあ最後は……、なんだ?あれ」


 ティルは空を見上げると、何か白い煙のようなものが上がっているのを見つける。


「おい、あれ」


「ええ。戦うのはここまでね」


 2人はそう言うと、逃亡を再開する。


「ソフィア!行くよ!!」


「うん!!」


 ・

 ・

 ・


「おじちゃん、あれ」


「ええ。どうやら準備が終わったようですね。で、避けてください」


「へっ!?」


 すると、どこからともなく1本の刃がおじちゃんと呼ばれる男の首を狙う。


「ほぅ……。まさか貴方のような方に出向いて貰えるとは……」


「別に、そんな大した人間じゃないさ」


「そんなご謙遜を。時には複数の精霊を操る精霊術師。時にはどこからともなく現れ、誰も姿が見た事の無いという世界指折りの暗殺者。どちらも素晴らしい肩書きです」


「ッたく……そんなの褒められたもんじゃねぇしな……。それに精霊術なんてただの後付けだし……」


「らしいですね。どうやら良い先生を持ったようで」


「先生?……俺、そんな公言してるつもりないんだけども……」


「ふふ、さすがはあの『魔術師』と歌われた方のお弟子さん。実に心強い」


「あ?一人で何言ってんだ?あんた」


「いえ、お気になさらず。こちらの話です」


そんな二人の会話が続いていると、後ろから空気の読めない少女の声が響く。


「え?ジェイル?どしt……あ、ヤバっ。言っちゃった」


「……準備、頼みました。時間は5分あればいいですね?」


「何を――――」


 ジェイルは何か瓶のようなものをナナミに渡すと、ナナミは光とともに姿を消す。


「なるほど、これがマグナさんが言ってたヤツか。確かに、全く同じ魔法だな」


「では、失礼――」


「チィッ。めんどくせぇな!!手合わせとか言っときながら逃げてんじゃねぇよ!」


 こうしてマグニアの一角にて、壮大な追跡劇が始まるのであった。


第9話 「創星会」 〜完〜

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