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魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
第1章 魔都奔走編 〜英雄の始まりと歌姫の目覚め〜
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第7話 〜獣の女王〜 ①

今回は、ほぼ日常パートになります。

では、お楽しみをっ!

 魔国一のお祭りである、魔国武闘祭も3日目。コロッセオの客席は観客で埋め尽くされている。そんな中、冒険者同士の一対一の戦い、魔国武闘祭の本戦が開催されていた。


 本戦のルールは簡単。相手を戦闘不能にさせるか、ギブアップを宣言させること。相手を殺す以外ならなんでもありの、デスマッチのような試合形式の戦いだ。


 次は、ティルの本戦初の試合。ティルは、会場の西側に位置する入口にて、試合開始に向け待機していた。


「ま、お前の強さなら大丈夫な相手だろ。そんな、緊張しなくてもいいぞ?好きなようにやってみな?」


「……はい!」


 ハイドはティルの背中に1発、アドバイスと共に手のひらで喝を入れる。ジーンと背中の痛みが消えていくと、入口の向こう側から選手を紹介するアナウンスが流れ始める。


「東側に構えるは、パイル選手!!そのずば抜けた素早さを武器に、華麗に予選を突破した男ーー!そしてそして、西側はこの選手ーーッ!なんとなんとぉ!?最年少で、あのSランクギルドに入団した冒険者、ティル選手だーーー!予選では数々の冒険者を圧倒し、会場をわかせた男ーーーッ!」


(ん?湧かせた?もしかして、あのモニター……。全部中継されてたのかな?)


 そんな、アナウンスが響く中ティルは会場の中心へと歩く。


「おい、お前。ティルと言ったか?どうやら冒険者になりたての子供みたいだが、このステージに立った以上手加減はしない。悪いがこの勝負、勝たせてもらうぞ」


「へ!やれるものならやってみな!!」


「ではでは〜、両者武器を構えて……、レディーファイトッ!!」


 アナウンスの掛け声とともに、初戦の相手の男。パイルは、ティルに剣先を向けながら一直線に突進する。


(嘘……この人……)


 ティルは、パイルのある点に驚きを隠せなかった。


(本当に僕のこと見てる?いや、まさかね……。)


 そう。パイルの突進は相手の不意を着く為の、いわば初見殺しに近いような突進だった。しかし、普段からハイドとサシでの戦いをしているティルには、簡単に見切れるほどのスピードだった。


 ティルは落ち着きながらパイルの剣を受止め、下方向に受け流す。その後、崩れた体勢を支える右足を蹴っ飛ばすと、パイルは為す術なく前へ前へと転がり続ける。


「くそ!やるな、少年!油断したが、勝負はこれから……、あれ?どこいった?」


「はい!おしまい!」


「……は?おまっ、いつの間に?」


 ティルは、ずっこけたパイルの背後を取り、後ろから首元に剣を突きつける。更に、パイルの持っていた剣を奪い、遠くの方へと投げ捨てた。パイルは自分の勝ち筋が無くなったと思うと、両腕を上にあげる。


「ま、参った……」


「おおっと!!ここでパイル選手降参の宣言!開始から約8秒!ティル選手の速攻勝ちだーーー!」


 ウォーーーーーーッ!!


 ティルの鮮やかな勝利に、会場は大きな盛り上がりを見せる。


(フゥーー。何とか勝てた。案外行けるもんだね!)


 ティルは自分の勝利が高々に宣言されると、入場した西口へと帰っていく。


「お疲れさんっ。まぁ、疲れる程戦ってないか」


「そうですね。ちょっと簡単すぎて拍子抜けでした」


「おいおい、いいのか?そんなこと言って。本番はこれからだぞ?本戦はな、案外ラッキーで出場出来るやつが毎年居るんだよ。だからアイツみたいな奴が1回戦で当たることはよくある話だ。だから2回戦。実力で勝ち上がったやつと戦う、2回戦からが本番だからな?油断はするなよ?」


「了解です!」


 ティルは【本番】の2文字を聞き、やってやる!という顔でハイドに答える。


「よし、いい顔だ。せっかくの祭りなんだ、楽しんでこいよ」


「はいっ!!」


「じゃああれだ。2回戦の相手は俺が見とくから、お前は外でも歩いてろ。ほら、ソフィアちゃんも退屈してると思うしな」


 こうしてティルは、明日の2回戦に向け、調整と共に祭りを楽しむことにした。


 現在12時30分。コロッセオの入口で待っていると、観戦客で混雑する中、ソフィアと思わしき人が見えてくる。


「おーい!こっちこっち!」


 ティルはそう言いながらソフィアに向け手を振る。すると、どうやらソフィアもこっちに気づいたようだ。が、ソフィアは『なにしてんの?』と言いたげな顔をしてくびをかしげる。


(どうしたんだ?なんだろう……あの顔は。)


 すると真後ろから、両肩に力強い衝撃が加えられる。


「よっ!またあったな、ティル」


「ん?あ、レオーネさん。どうも」


「さんはいらねーよ。もう。呼び捨てで構わねぇさ。んで?あのねーちゃんはどちらさん?お前のこれか?」


 レオーネは小指を立てながらティルに聞く。


「あの人は僕の仲間。パートナーだよ」


 その言葉を聞き、ソフィアは何か思うところがあるのか、少し残念そうな顔をしていた。


「あんたも大変そうだな……。俺はレオーネ。よろしくな」


「あたしはソフィアです。あなたは確か……、予選の時にティルと一緒にいた方ですよね?」


「あぁ。やっぱり映ってたか……。ならもっと豪快に行っとけば楽だったかもな。ま、そういうこった。一先ずよろしくな」


「はい。こちらこそ♪」


 こうして予選の縁もあり、レオーネと一緒に3人で祭りを楽しむことにした。とりあえず3人は腹を満たすため、近くにあったレストランに入る。


「では、注文はいかが致しますか?」


「私は、この【オススメランチセットA】をください」


「僕は……。この【剣闘士のハンバーガー】セットで

 」


「アタシはそうだな。一先ず軽く済ませとくか」


 レオーネはメニュー表をパタッと閉じると、注文を伝える。


「この【フラウィウス限定ビッグホーン・ブルのステーキ1kg】で。と……どうすっか。んじゃレアで」


「1キ……。はい。かしこまりました」


(1キロか……。どんくらいの大きさなんだろう。)


 ティルはソフィアの顔を覗いてみる。すると、口をポカンと開け、レオーネを見つめていた。


「ん?どした?2人とも」


「いえ。レオーネさん。よく食べるんですね」


「そうか?こんなもんだろ。冒険者なんて。むしろあんたら食わなすぎじゃないか?」


「ハハハ……」


 そんな雑談を繰り広げていると、目の前に注文した料理が置かれる。


 ソフィアの前に置かれたのはオシャレな洋食。暖かいコーンスープにグラタン。それと、色とりどりに盛り付けられたサラダと、見たことの無い美味しそうなフルーツと、女性受けが良さそうなセットだ。


 ティルの頼んだハンバーガーは、見るからにヘビーなハンバーガーだった。バンズの数は4枚で、3種類のパティが使用され、これでもかと言わんばかりのとろけたチーズが挟まれていた。また、所々に挟まれてる野菜は、見るからにみずみずしく、新鮮さを感じられる物だった。


 そして……。


「ではこちら、ビッグホーン・ブルのステーキ。レアの1kgになります」


 店員さんが料理名を話し、ティルの顔よりもでかい皿がドシンと置かれる。


(おわッ!でっか!!これ食べんの!?)


 本当に全部食べ切れるのか?そう思いレオーネの顔を見てみると、ヨダレを垂らしながらステーキを見つめていた。


 こうして3人は祭りについて話しながら昼食をとる。ティルはハンバーガーを食べながら、レオーネの食事の速さに驚いていたが、何か嫌な気配を感じたため、口に出すことは無かった。


 その後3人はコロッセオ付近の店を一通り回った後、モニタのある広場にて試合を観戦していた。本戦で行われる試合はどれもこれも面白く、目を見張るものがあった。そして、1回戦が全て終了する頃には、辺りは暗くなり、徐々に人が捌け始めていた。


「んじゃあ、そろそろ解散にすっか!」


「そうですね。時間もちょうどいい感じですし」


「うん。明日に備えて休みたいしね。確か2回戦と3回戦があったはずだし」


「それもそうだな」


「それじゃぁ、あし……いや、明後日!会場で!!」


「あぁ」


 レオーネはそう言うと、こちらに背を向けながら手を振り、人混みの中へと消えていく……。


「レオーネさん、強いんですか?」


「うん。かなり強いよ」


 ソフィアはティルの顔を見ると、思わず微笑んでしまう。その真っ直ぐ前を見つめる瞳にどこか、なんでもやってしまいそうな力強さ。そして、何か期待に膨らんでるような、無邪気な気持ちを感じていた。


「じゃあまずは、明日の試合、勝たないとですね!」


「うん!もちろん!!」


 こうして2人も明日に備え、祭りの余熱を感じながら、宿への帰路へとついていく。


金曜日は、獣の女王②を更新予定です。

サブタイトル的に、どんな回か分かりましたよね?

そうです。あの人とのbattleがメインです。

気合い入れて描きます!!

ちなみに、毎日投稿week1発目に持ってくる予定です。

ではまた、金曜日にお会いしましょう!!

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