第6話 〜冒険者の祭典〜 ⑤
「おい!あっちに人影だ!」
「みろ!指輪持ってるぞ!!」
「やっちまえぇ!!」
ここはフラウィウスの北西部にある門。近くにある他の他の門も調べてみたが、やはりここが1番少ないようだ。
「お〜やってんね〜」
「うわぁ、また襲われてるよ」
「よし、3時だ。行くぞ!」
「了解!」
レオーネの合図でネコ科のモンスターにまたがる。
(おぉ。意外ともふもふ……。)
そんなそそられる毛並みに、思わず首を撫でてしまう。
ゴロゴロゴロゴロ……。
「オワッ。怒ってる!?」
「ハハハッ。安心しな、ただ喜んでるだけだ。意外と気性が荒いやつだと思ってたけど、意外と甘えんぼなんだなそいつ」
(へぇ。そうなのか。)
「じゃあ、よろしくね」
ティルはレオーネの言葉を聞き、首の付け根を擦りながらそう言うと、ライオンもそれに答える。
ガルルルル♪
「おいおい。じゃれつくのはいいけど、時と場所を選べ?ほら、行くぞ?」
「はいッ!!」
こうして2人は、大会参加者が群がる激戦区へと一直線に向かっていく。
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「ん?何だあれ……?」
「2匹のライオン?」
「なぁんでこんなところにあんなモンスターが?……いや、よく見ろ、あれは予選の参加者だ!!指輪つけてやがるぞ!あいつら!!」
「よっしゃ!今度こそ、俺が奪ってやる!!てめぇら。邪魔すんじゃねぇぞ!」
「うるせぇ!お前はすっこんでろ!」
ガヤガヤガヤガヤ……
「おいティル!分かってんな!コツは……」
「均等に近からず遠からず!できるだけまばらに!」
「よし!それじゃぁ……投げろ!!」
「了解!!」
今か今かと指輪を持つ者を待つハイエナたち。そこに、2頭のライオンから左右へ何かが投げられる。
「なんだありゃ……」
高く投げられたそれは、太陽の光に反射されキラキラと輝く。
「教えて欲しいか?んならこれやるよ!」
レオーネはそう言うと、ハイエナのひとりにパシッと何かを投げる。
「え?これ。指輪?」
「あー!あそこに指輪持ってるやついるぞー!!」
「は?……え?アギャッ!!!」
最初の犠牲者の登場とともに、先程投げられたものは本戦へと進む為の指輪だと認知される。しばらくすると、2人の投げた指輪を中心に9個の群れができる。
「うわぁ。想像以上ですね」
「そうか?あんなもんだろ。モンスターにまたがるアタシら。指輪を拾った見ず知らずの冒険者。あんたならどっち狙う?」
「そりゃあ、後者の方を」
「そういうこと。まあ、あいつらはただの外野だ。ほら、前を見ろ」
ティルは前方を確認すると、進行を妨げる2人の冒険者がいた。
「ありゃ見た感じだと、戦いたがりの類だ。森でやったヤツらよりかは手強いはず。気をつけろ?」
「もちろん!こんな所で躓いてちゃ、本戦なんて勝ち残れないよ!!」
「ハハハ!それもそうだな!」
こうして2人は街の方向へと真っ直ぐ進む。
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「おいあんた、あれどうするよ?」
「あ?やるしかないだろ。お前なんのためにここに居んだよ?」
「だな。で?どっちがいいんだ?」
「俺はそうだな……。じゃあ、あの女を貰うかな」
「分かった。なら俺はあのガキを貰う」
「へっ。ガキだからって油断すんなよ?」
「お前もな!」
こうして2人を待ち構える冒険者。しかし、その戦闘はすぐに終わる事となる。
「おら!来いよ、女ァァァァァ!!」
レオーネは男のその言葉を聞くと、高く飛び上がりライオンから降りる。その後槍を構えながら落下し、目の前に飛び下りる。
「ほう?かっこいい登場じゃねえか。じゃあ初めッ……」
「うっせぇ。前振り長ぇ」
レオーネは着地した瞬間槍を突き刺し、男の攻撃範囲を絞る。その後、不意を着く形で男の顎に一蹴り。着地から指で数えられる秒数で、己よりも数倍体の大きい男の意識を落とす。
「なっ馬鹿な……」
「余所見禁物!!」
ティルもすぐさま、もう1人の男の元へとたどり着き切りかかる。
「は!甘ぇよ!!」
男はティルの攻撃に反応し、がら空きになった首元を狙う。
(読み通り!!)
ティルはニヤッと笑い、刀身で攻撃を受止めそのまま地面へと受け流す。男は体勢を崩し、よろけながら前方へと倒れ込む。その後、ティルは体を一回転。遠心力を利用し、男の後頭部を地面へとシュートする。
(やっぱハイドさんにしごかれてる分、成長してるのかな?)
なんて考えながら街へと走る。
「やるじゃん!あんた!」
「そっちこそ!」
「街までおよそ300m!行けるか?」
「もちろん!」
その後も、迫り来る冒険者達をバッタバッタとなぎ倒し、止まることなく爆進撃を繰り広げる。
そしてようやく……
「ついたァッ!!街だ!!」
「バカっ叫ぶな!ハエが寄ってくんだろ!!せっかく街の中が楽なコース選んでんのに!!」
「すみません……」
「反省は後でしな!今はコロッセオに向かうのが先!」
「はい!!」
こうして2人は、本戦へと進むための目的地、コロッセオへと向かうのであった。
一方その頃コロッセオでは……。
「おーー!すげぇ!なんだあのねーちゃん!大男を一撃!?なんつー蹴りだよ!」
「あのガキも負けねーぞ!見たかよあの動き!なんつーか、その……すげぇ!!」
(ほう?あいつら……。場所は北西の方か……。誰よりも早くこの会場を抜け出した2人。腕試しでも行くか……。)
そう。コロッセオに浮かぶモニターには、この予選の全ての範囲が、定期的に切り替わりながら映し出されていた。そして、Sランクギルドの面々が集うVIP席でもその話題で持ち切りだった。
「あの娘、どこの子?ネロ、あんた知ってる?」
「いえ……、初めて見ました。あの実力なら噂がたつはずですが。どこかのギルドの隠し球でしょうか?」
「ふ〜ん。そうなんだ……」
「ん?アンタ引き抜きでもするつもりか?」
「ありっちゃありね。スタイルよし。戦闘力よし。顔よし。まさにうちのギルドにピッタリよね」
「ただ、なんでハイドのとこのちびっ子と一緒にいんだ?」
「まさか、あの子のこれ?」
アイオライトの団長【メイア】は、小指を立てながら当事者の師匠であるハイドに聞く。その質問はソフィアの耳に入ったのか、ソフィアもハイドをガン見する。
「あ〜。それは無い。理由はないけど絶対だ。見た感じ、もっと別の感情だな。顔がそう言ってる」
「へぇ〜。それって?」
「ありゃ……。多分戦ってみたいって顔だな。恋愛感情的なのは無さそうだ。多分な?」
(なんだぁ。)
ソフィアはその言葉に、『ホッ』と安堵のため息がこぼれる。
「良かったじゃん……」
イヴは小声でソフィアの腕を肘で突く。
「そ、そんなんじゃないですから……。ほ、ほら。なんか戦闘始まる見たいですよ?ティルの」
「そうね〜」
今会場の画面に映し出されているのは、ティルとレオーネ。そして、コロッセオで生き残った者の1人、【プロード】と名乗る男が対峙している映像だった。
(この人、多分強いな。)
「ティル、気をつけろ?コイツかなりやるぞ」
「うん。そうみたいだね」
「どうした?来ないならこっちから行くぞ?」
そう言うと、男は素手でこちらへと走ってくる。レオー槍で応戦するも、男はひらりと身をかわし、そのままこちらへと向かってくる。
(狙いは僕ってことかい!)
ティルも武器を構え、待ち構える。すると、男は体で何かを隠しながら魔法を唱える。
「ティル!構えろ!」
レオーネには何が見えたのか、大きな声で注意喚起を受ける。
(分からないけど、注意はしとくか……。よし!来い!)
そして、男の魔法が顕になる。
「じゃぁ、死んでくれるなよ!!」
「は!?大剣!?」
男が振り向くと、その両手には真っ黒な大剣が握られていた。ティルは何とか受け止めるも、予想外の攻撃に構えが甘くなり、後方へ大きく飛ばされる。
(びっくりしたけど、何とか……。いや、まだか。)
ティルは飛ばされながらもその男、プロードの追撃を横目で捉えていた。
(うん……。下手に反撃するのは危険そうだ。)
プロードはそのままティルの着地地点を狙い、大剣を振りかざす。しかし、流石のティル。無理な体勢からでも体のしなやかさでカバーし、受身を取りつつその攻撃を躱す。
(まずは、レオーネとの合流だね。)
ティルは剣に炎を纏わせ、プロードのめスレスレを狙い、怯ませつつ距離をとる。
(!?コイツ、全く怯んでない。むしろ笑ってる?)
幸い、プロードは追ってこなかったため、そのままレオーネと合流する。
「大丈夫か?怪我は?」
「うん。何とか。でもあいつ、想像よりも強い」
「なら、やることはひとつだな」
「それって?」
「そりゃ……」
レオーネはそう言うと、対峙する強敵に目掛け、持っていた槍を思いっきり投げる。
「ふんっ。そんな攻撃で……」
プロードは槍を大剣で弾く。が、大剣で弾いたのが運の尽き。槍を弾く際、大剣が死角になり冒険者の姿を遮ってしまう。体勢が整う頃には、既に追いつけない場所へと離れてしまっていた。
(…………。これは無粋だな。)
手に握られていたのは、現代を想像させる遠距離型の武器、銃だった。懐から取り出されたそれは、2人の冒険者に向けられるものの、硝煙をあげることなく仕舞われる。
(やるなら、本戦でだな。)
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「おい、どうだ?追ってきてるか?あいつ」
「ううん。大丈夫みたい。それより、良かったんです?あの槍」
「ああ。あんなの、どこにでも売ってるような、やっすい槍だよ。それに、運営が拾ってくれるだろうさ」
「ふ〜ん」
その後も、2人を狙う冒険者が何人も現れた。が、どれもこれもあの男の足元に大きく及ばなく、ティルとレオーネに軽くあしらわれるだけだった。
そして、コロッセオの前。受付の前へと到着する。最後に立ちはばかるは、今まであった中で1番大きな大男。プロレスラーのような格好をした男だ。
「へっ。そこのガキと女……。指輪置いて帰りな。出なきゃ……」
「出なきゃ?」
ティルは躊躇せずに男の顔面に膝を入れる。
「どうなるのかな?」
レオーネはティルの膝蹴りが入ると、体を回転させながら、その遠心力を使いみぞおちに蹴りを入れる。
「ぐはぁッ……」
ティルとレオーネのコンビネーションにより、男ははるか後方へと吹き飛ばされる。そしてついに……。
「これ!お願いします!」
「俺も。これよろしく」
2人は指輪と冒険者手帳をカウンターに置く。
「ティル様。レオーネ様。おめでとうございます。それと、お疲れ様でした。これで無事、予選突破となります。では、指輪をはめ、そちらの台座に手をかざしてください」
「はーい」
台座に手をかざすと、指輪に数字が浮かんでくる。
「5?」
「アタシは16だ」
「ありがとうございます。そちらは、本戦トーナメントで使われる番号になります。番号は最初が1、最後が128と順番に並んでおり、その指輪と対応した場所にエントリーされる仕組みになっております」
「それじゃぁ……」
「そうだな。あたるとしたら4回戦になるな」
(3回勝てば、レオーネと戦える!)
「それでは、本戦の開始は明日からになりますので、今日はもう帰って貰って大丈夫です」
その後2人はコロッセオの外に出る。
「おいティル」
「ん?どうかしました?」
「アタシはアンタと戦ってみたい。アンタもそうだろ?だから、絶対に負けんじゃねぇぞ?」
「もちろん!そっちこそ負けないでくださいね!」
「あったりまえだ!そんじゃ、4回戦で待ってるぜ!」
「うん!」
こうして無事、予選を突破した2人。今度は仲間ではなく、ライバルとして言葉をかわし、この【魔国武闘祭】の 表舞台へと進んでいくのであった。
第6話 「冒険者の祭典」〜完〜




