第6話 〜冒険者の祭典〜 ④
「ここは……」
ティルは目を覚ますと、どこか懐かしく、見覚えのある真っ白な空間にいた。
「やぁ。またまたあったね」
「誰ッ!?」
背後からかけられる声に思わず、剣を構えながら振り向く。そこに立っていたのは、顔の見えない女性のシルエットだった。
「おいおい。そんなに怖がらないでくれよ」
「あなたは……」
その質問をした瞬間、頭に若干痛みが走る。
(なんだろう……。僕この人と何度かあってる?確か、名前は……。)
「お?さすがティル君。私の見込んだ男だ。だんだん板に付いてきたねぇ。まぁ、そうだよ。私は貴方の愛しい愛しいステラ様でございますよ」
(やっぱり、知ってる名前だ。)
「もうちょい反応欲しいなぁ……」
そんなティルの反応にステラは、どこかガッカリしたようなジェスチャーをとる。
「というか、ここはどこですか?」
「前にも言ったろ?君の心の中さ」
「いや、そう意味じゃなくて……」
「言いたいことは分かる。でもこれ以上のことは教えられないよ。今のティル君にはね」
(む〜。うん。分からん。さっぱりだ。)
「そもそも、僕はどうやってここに来たんですか?」
「それはねぇ。ひ・み・つ♡」
(うわぁ。いたいなぁ。それ。)
「おぉい。聞こえてるよ?それ」
「はい。何となくそう思いながらやりました」
「ほほぉ?ま、いいや。それは置いといて、偶然の産物だけど、せっかくここまで来たんだ。1つアドバイスをあげよう。例の如く、ここから出たら忘れちゃうんだけどね?」
「絶対?」
「うん。絶対。じゃあ、アドバイスね。まずティル君、星の声って聞いたことある?」
(星の声?)
「成程ねぇ。その様子だと無いみたいだね。実はね、この星。みんなが地球と呼んでいるこの星はね、凄くピンチの状態なんだ」
(何それ。そんなスケールの大きいこと言われてもよく分からんぞ?)
「まあまあ、最後まで聞いてくれよ。そんな地球だけど、ある1人の男によってギリギリ均衡が保たれてるんだ。だからね、君にはいち早くその人の助けになって欲しい。もしこの人が失敗して、均衡が崩れてしまったら……」
「しまったら?」
「地球上の生物は、まず間違いなく滅びるね。人間なんて、今の形を保っていられなくなると思うよ?」
「は?」
「まぁ、そう慌てなさんなって。よっぽどの事がなければこの均衡は崩れないから。でも、これだけは確実に言える。君の行動、決断、選択肢次第で星の運命が変わる」
(そんな事言われてもなぁ……。)
「じゃあ僕は何をすれば……」
「そうだなぁ。強いて言えば、好きに生きろ!!かな?」
「へ?」
「多分ね。その人は君のことをよく知ってる。そして頭がものすごくキレる。だからこそ、君が好きなように生きれば、何とかなるように立ち回るはずだよ」
「ちなみにその人っ……」
『てのは?』そう言おうとすると、急に体に力が入らなくなる。
「どうやら時間切れみたいだね。君が次に来た時、その質問を覚えてたら教えてあげるよ。それじゃあ、元気でねぇ〜♪」
そして、だんだん意識がなくなり、視界がぼやけていく……。
・・・・・・・・・・・
チュンッチュンッ。
洞窟の外から聞こえてくる鳥のさえずりにより目が覚める。
「……ん〜。重い……。なに……これ?」
そっと目を開けると、逞しい二つの太ももが、顔と腹に乗せられているのに気付く。
(寝相……すごいな。)
ティルは、レオーネが起きないようゆっくりとその足を下ろし、朝飯の準備をする。魔法で木に火をつけ、昨日の残りの肉を火にかける。すると、肉の焼ける匂いに誘われたのか、レオーネも目を覚ます。
「あ、おはようございます」
「ん……?あぁ?あ、そうだったな。おう、おはよう」
レオーネは寝ぼけていたためか、見慣れない周りの景色、昨日あったばかりの少年に対し、戸惑いながら挨拶を返す。
現在、朝の7時。朝飯を済ませ、コロッセオまでの作戦会議を行う。
「どうします?これから」
「そうだな。んじゃティル、あんたはどう考える?」
(どうだろう。もしかしたらこのまま受付時間開始まで待機でいいのかもしれない。でもどうだ?もしここに別の人たちが来たら?その人達が僕らよりも強かったら?その場合、ほぼ確実に予選敗退だ……。)
ティルはその後もじっくりと考える。そして、とあるひとつの意見を思いつく。
「指輪の収集?多分、他の人から奪うことになるけど……」
「おぉ。んで、その心は?」
「自分達より強い相手への交渉材料」
「それだけか?」
「後は……取らせた事をあえて見せて、狙いを僕達からその人に向ける。とかですか?」
「惜しい、それだと60点」
「と言うと?」
「お前、相手が数人のことしか想定してないだろ?」
(……そうか。)
「フラウィウス周辺。ですね!」
「正解。じゃあ、今度はそれを踏まえてどうする?」
「うーん。それは……」
(恐らく街の近くに行けば混戦は必至。てことは戦う時の先が読めない。僕より弱い人もいれば、強い人もいる。弱い人が邪魔で強い人に遅れをとるかもだし、逆もまた然り。うーん。)
「はい。時間切れ〜。まあ、ティルの考えること、だいたい分かるぜ。とりあえずそこは、着いてからのお楽しみってことで」
「ほーい」
「じゃ、とりあえず10個だ」
「10?そんなに?」
「もう少し少なくてもいいが、こんくらいあった方が……そうだな」
レオーネはためを作り、人差し指を立てながら言う。
「面白い!!」
(……。レオーネは何を思いついて、何を想像してるんだろう?)
「作戦は決まったし、ティル。ちょっと地図見せてくれ」
レオーネにそう言われると、ティルは床に地図を広げる。
「ふーん。街から見てざっくり東側全域が砂漠地帯。南西が荒野で、北西の街寄りが岩場。奥まで行くと森エリアか。アタシらがいるのは真西か。となると……」
「森。ですね」
「そうだな。街からは遠いが、指輪を奪うならここが適してる」
「だけど、そうなると……」
ティルが思い浮かんだのは、フラウィウスについてからコロッセオまでの距離だ。フラウィウスは高い外壁に囲まれており、5つの門がある。目的地のコロッセオはフラウィウスの中心よりも、やや南側に位置している。そのため、それぞれの門からコロッセオまでの距離にはバラツキがある。
「森の方から街に向かうと、コロッセオから1番遠い門になりますね」
「なら丁度いいな……。よし!指輪狩りは森で行こう」
「丁度いい?」
「アタシを信じなって。大丈夫だから」
「まあ、僕は案が思いつかないんでいいですが」
「じゃあ決まりだな。とりあえず、3時間はここで待機。10時頃になったら森へ出発。そこで3時間程【指輪狩り】。13時半になったら森を出て、1時間半かけて岩場に隠れながらフラウィウスを目指す」
「了解!!」
こうして2人は、本戦に進むための道筋を決め、出発の準備を進める。
「よし、じゃあ行くか!」
「はい!」
こうして2人は、更なる指輪を集めるため、ここから北に位置する森へと向かう。
・
・
・
洞窟から真っ直ぐ森に向かった2人。道中、流石に1人位なら予選参加者と出会うと思っていたが、そんなことは無かった。
「ん〜おっかしいな。こんな開けた道で一人も出会わないのか……。もしかしたら、街周辺。意外ときつくなるかもな」
「確かに、ここまで来てないってことは、それ程周辺に固まってるってことですからね」
「まぁな。それだけだといんだけどな」
ティルはレオーネのその発言に、なんの意味が込められてるのかを考える。
「いいよ。気にすんな。ちょっと最後きびいなってだけ。じゃアタシは上から探すから、地上は任せた」
(きびい?)
レオーネは、ティルに心配無用の旨を伝えると、木の上へと軽々しく登っていく。それに合わせ、ティルも茂みに潜みながら、他の参加者を探す。
しばらくすると、1人目の獲物が現れる。見た目は狩人。周囲を警戒し、弓を構えながら 探索している。ティルは目を凝らしながら観察する。
(うぅん。スキはなさそう。弓ってことは遠距離は相手の間合いだな。近づくまで待つか。ん?あれは。)
ティルは、その男が指輪を嵌めているのに気付く。その後、音を立てないように木の上に向かいジェスチャーを行う。すると、レオーネはその男をしばらく見た後、ティルに向けゴーサインを出す。
(了解!)
そうレオーネに返すと、男に向かい走り始める。
「誰だッ!ん?子供か?子供だからとて、容赦はしないぜ!」
(そら、どおも!!)
男はティルの姿を確認すると、すぐ様弓矢を放つ。ティルはその全てを捌きながら近づく。
「お前!なんなんだよその動き!じゃあこれなら!」
そう言うと、男は手をティルへと向け、炎の玉を連発させる。
(炎ね。それなら……。)
男の放った魔法は3つ。ティルは、最初のふたつを右へ左へと軽々しく躱し、さらに前へと進む。そして、ティルは己の攻撃の間合いに入ると、最後の玉をあえて剣で受け止める。
「は!?」
目の前の少年が、自分の放った魔法を剣に纏わせた。そんな異様な光景を目にした男は、その場に立ちすくむことしか出来なかった。
「ごめんね!」
ティルはそう言うと、男の首元で寸止めさせる。
パタンッ……
男は自分が死ぬ。そう勘違いすると、そのまま気絶し倒れる。ティルは男が完全にのびたのを確認し、人差し指から指輪を拝借する。すると、その様子を見ていたレオーネがこちらへと歩いてくる。
「お疲れ〜」
「おつかれ様です」
「こいつも馬鹿だよな〜。意気揚々と指輪なんかはめちゃってよ。そんなん僕を襲ってくださいって言ってるようなもんだろ」
「もしかしたら、戦いたい人かも知れませんよ?」
「な訳。ならわざわざこんなとこ来ないでコロッセオ残るだろ?」
「確かに。そりゃそうか……」
「ま、あれだ。読み通りそこそこ人いるみたいだし、チャチャッと集めんぞ!」
「おー!」
その後、2人は森の中をひたすら駆け回る。
これは、とある予選参加者の話だが、ある祭りの予選2日目。その冒険者は、森の中を探索していたとのこと。すると何故でしょう。数分おきに、森の至る所から人間の悲鳴が聞こえてくるではありませんか。この森には何かいる。そう感じながら私は探索を続けました。そして、しばらくすると、私の番が訪れました。
タッタッタッタッ…………。
ガサガサガサガサ…………。
地面と木の上、その両方からおぞましい気配を感じたんです。私は勇気を振り絞り、ゆっくりゆっくりと後ろを振り向きました。すると、私が目を覚ましたのは医務室のベットでした。あれが化け物なのか魔物なのかは分かりません。ですがあの森にはいるんです。人の域を超えた、おぞましい化け物に近い何かが……。
この話は後に、マグニアを代表する怪談として語られることとなる……。
・
・
・
「よぉーし。これで何とか集まったな。10個。ほら、こんくらいは、持っとけよ」
そう言うと、レオーネはティルに指輪を5個渡す。
「……これは?」
「それはなぁ……」
レオーネは、卑しい顔をしながらティルに作戦を説明する。
「えぇ……、それせこくないですか?」
「いんだよ。アタシは面倒事が嫌いなんだよ」
ティルはレオーネの作戦に若干気が引くも、岩場を進み街へと戻っていく。そして、岩場の終わり。再び荒地が見えてくると、レオーネから静止の声がかかる。
「ティル。ちょっ待ってろ」
レオーネはそう言うと、今来た方向とは別の方向へと姿を消す。しばらくレオーネを待っていると、後ろからレオーネの声が聞こえてきた。
「待たせたな!」
「レオーネさん……何やって……。は?」
(百獣の……王……。いや、女王様?)
ティルは2頭のライオンの首根っこを掴むレオーネに驚きを隠せなかった。
いやぁ、投稿遅れて申し訳ありません……。しかも、④で終わるって宣言したのに……。
次の話でこの話が終わる予定です。日曜日には絶対に投稿します。本当に本当です。では、また日曜日に会いましょう!!




