第6話 〜冒険者の祭典〜 ②
(はぁっはぁっ。凄い人混み……。昨日よりも凄い。私もティルと一緒に宿を出ればよかったな。)
そんな軽い後悔をしながら約束の場所へと急ぐ。昨日の夜、宿の叔母さんから受け取った手紙。イヴからソフィアに向けられた手紙だ。そこには明日の集合の旨とともに、1枚の地図が同封されていた。
「おー、いたいた。ソフィアちゃんこっちこっち」
「すみません。想像以上の混み具合で……」
「まぁ、ソフィアちゃんも初めてなんだっけ?この祭り来るの」
「はい。魔国に来たのは今年が初めてで、噂には聞いてましたが、本当に凄いです」
「確かに。初見だとびっくりするよね。これ。それじゃぁ、行こっか!」
イヴはそう言うと、『関係者以外立ち入り禁止』の目印がある階段を上る。
「ほら、ソフィアちゃんも早く早く!」
「でも、その看板……」
「大丈夫よ!アタシ今年のゲストだし。それにあなたもSランクギルドの人間なのよ。たまには権限を使いなさいなって。使えるものは使う。じゃないと生きるの辛いよ?」
「は、はぁ……」
そんな問答の後、イヴは優雅に階段を登っていく。ソフィアも、若干周りをキョロキョロしながらイヴの背中を追いかけて進む。そしてここが最上階だろう。階段を登りきった先に豪華な扉が見えてくる。
「おっまたせ〜♪」
イヴが扉を開けると、そこには今まで見たことのあるメンツが揃っていた。どうやらここは、Sランクギルドの控え室のようだ。冒険者試験の時に見かけたあのおじさんや、エニュレーゼ。ネロやハイドなど、他にも見た事ない人がいるが、おそらく全員三大ギルドの者だろう。
「相変わらず鬱陶しいな。あんた」
「うるさいよ。Aランクは黙ってな」
「はぁ?あんただってAラン……」
イヴは何故か誇らしげに胸を張り、胸を強調させながら腕を組む。
「あんたッ……」
「おう?来るなら来なさいよ」
そんな一触即発な空気が流れ始めると……。
「「やめなさい」」
2人の人間、エニュレーゼとネロの一声によりその場に静寂が流れる。
「2人が仲良いのは分かりましたから。早く座りなさい」
「は〜い」
「あなたも、もう少し団長としての自覚を持ちなさい。旧友と久しぶりに会って興奮するのもわかるけれど。自重なさい」
「へいへ〜い」
(仲、いいんですね……。確かに、あんなイヴさんは初めて見ましたけど……。)
そんな慌ただしい部屋他所に、その部屋の窓の外にはコロッセオを埋め尽くすほどの人が集まっていた。観客席はもちろん、闘技場をもほとんど埋め尽くす程の冒険者が集まっていた。そして、魔国最大の祭りのメインイベントの開始のアナウンスが始まる。
「お前たち……覚悟は出来てるか……」
そのアナウンスは先程まで、盛り上がっていた会場に静寂をもたらす。会場にいた人達は思わずゴクリと唾を飲み込む。
「年に一度のマグニア最っ高のイベント!!【魔国武闘祭】。盛り上がり尽くす覚悟!できてるかーーッ!!」
ウォーーーー!!!
「おいおいおい!?そんなもんなのか!?マグニア最高のお祭りってのはよーーッ!!」
ウォーーーーーーーーーーーッ!!!
「いいぞ!!ブラザー達!それじゃぁ、開催のカウントダウン行っくぞーーーーーー!」
10!!
9!!
・
・
・
2!!
1!!
そして、カウントダウンが終わると同時に、空高くひとつの魔法が打ち上げられる。
雲ひとつない、晴れきった青空に打ち上げられた魔法は、虹色の光となり空中へと霧散していく。
(魔法って本当に凄い。こんな綺麗なのもできるんだ……。)
「これより!【魔国武闘祭】!!開幕だーーー!!!じゃあ、早速ルール説明!!激励とか式辞とか、そういうめんどくさいのは今年はなし!!じゃあいくぜ!!」
(おいおい、何かこのノリ、見たことあるぞ。)
「まずは予選から!!今年の予選は……、名付けて、【生き残れ!レッツsurvive128!!〜トレジャーハントを添えて〜】!!ルールは簡単!範囲はこの戦場の街【フラウィウス】から半径20キロ!この範囲のどこかにある、本戦への出場をかけた切符を掴み取れ!!」
説明と共に外側を囲うように、3枚の大きなスクリーンが現れる。そこには、指輪と不思議な色合いの宝箱が映し出される。どうやら指輪はあの宝箱に入ってるらしい。
「なお、制限時間は明日の21時まで!決勝トーナメントの受付は明日の15時から開始!!説明は以上!!それでは……【魔国武闘祭】開始だァーーーッ!!」
ウォーーーーーー!
アナウンスの終了と共に、観客席と会場に大きな歓声が鳴り響く。そんな中、会場の雰囲気に飲まれることなくコロッセオの外へと走る人が十数人程いた。
(いやいや、そんなのしてる場合かよ……。早いところこの街出て宝箱見つけよ。ん?あれは……。)
一方、コロッセオ上部のVIP席にて……。
「ふ〜ん。アンタのところの新人、なかなかやるじゃん?」
「当たり前よ。あれでもうちの期待の新人よ?」
「なんであんたが誇らしげなんだよ……」
「別にいいじゃない。私だって無関係じゃないのよ?」
「まぁな」
そんな【アイオライト】と【魔法研究室】の交流が行われる中、隣のもう1つのギルド【魔法国騎士団】の方から重めな雰囲気が漂ってくる。
「じゃ、俺散歩行ってきま〜す」
「どこへ行くつもりだ?マグナ」
「別に。今のあんたから離れられたらどこにでも。そんじゃ〜」
マグナイルはそう言うと、扉をパタンッと閉めどこかに行ってしまう。
「はぁ〜。ったくしょうがねぇな〜。おい、ハイドよ」
「ん?どしたすか?」
「お前んとこに入ったあの子。わざわざ俺のギルドを蹴ってまでそっちに入ったんだ。しっかりと育てろよ?もし腐らせたら分かってんな?」
「そんな心配いりませんよ。ハイドはこれでも人をよく見る方です。ハイド程適した人材はいませんよ」
「なんすか、2人共。俺重圧で死にますよ?」
「ガハハ。お前さんがそんなタマかよ」
(ティル凄いな。なんだかんだ言って、みんなに期待されてるんだ。私も負けないようにしないと!!)
そんな、ソフィアがティルに負けないと意気込む一方、ティルは荒野を駆け回っていた。
(いやぁ、にしても半径20kmか。広すぎだなぁ。何とか地図は貰えたけど……。まぁ、とりあえず進みますか!)
ティルは決勝トーナメントへのチケットを目指し、荒野の奥へと消えていく。




