第4話 〜目覚めの予兆〜 ③
「クッソなんでこんなことに……」
「オイ!リーダーどうするよ!これ!」
「とりあえず、ソフィア君の対応が終わるまでは防御!それまで耐えろ!!」
13名居たメンバーの内、戦える状態なのは既に5名。現在は前衛がリーダーのザーラス。大盾の男と、もう一人、ショートソードを構える男の3人。後衛は、ソフィアとレイナの2人と、危機的状況を迎えていた……。
時は遡ること1時間前。
「急遽あなた達の監督官を努めることになりました。エニュレーゼと申します。ところで、リーダーはどなた?」
「私が、リーダーのザーラスです。本日は、どうぞよろしくお願い申し上げます」
「ええ。よろしく。それと、今回の件、私は死傷者出ぬよう配属された身。ギリギリまで手を出さないよう司令が出ておりますので、皆さんそのつもりで」
「わかりました!ギルドの期待に答えられるよう、全力で励みます。みんな!いいな!!」
「「「「おう!」」」」
一同はエニュレーゼと合流した後、目的の大地亀の元へと移動する。しばらく地図の印を目指していくと、いつも見た亀よりも、一回り大きい大地亀が見えてきた。色も若干違うし、恐らくあれが今回の討伐対象だろう。
「では、私はここであなた達を見ています。なお、今回の討伐依頼。冒険者の能力判定に大きく関わるとのことですので、皆様、精一杯頑張ってください」
「「「「ハイッ!!」」」」
こうして、大地亀・変異種(以下、大陸亀)との戦いが始まった。
この変異種、今までの大陸亀とは違い、魔法を頻繁に使用してくる。大陸亀の近くに行くと、魔法で地震を起こされ、こちらが体勢を崩したところを狙ってくる。そのおかげで中々懐まで踏み込めない。やがて、こちらの体力がじわじわと削られる。そんな状況が続く。
「クソ……なかなか近づけないな……」
「まだ何とかなりそうだけど、この状況、時間の問題じゃないか?」
「そうだな。このままだとこっちが消耗させられて終わりだ。1度、1度でいいからあいつを怯ませ、こちらの流れに持ち込めれば……」
「あの地震が厄介だよなぁ」
(恐らく前衛の私達では、あいつの魔法に勝てる魔法は無い。後ろのメンバーの魔法は、突風を起こす魔法、大地を隆起、沈降させる魔法。そして、ソフィア君の光の魔法か……。)
「済まない。ここ任せられるか?」
「リーダーどこへ?」
「作戦の相談だ」
「あまり遅くならないでくださいよ?」
「心配するな。直ぐに戻る」
「了解!!」
そして、ザーラスはソフィアの元へと走る。
「ソフィア君」
「なんでしょうか?」
「君の魔法、目くらましに使うことは可能か?」
「目くらまし、ですか?」
「見ての通り、やつの魔法が厄介すぎて、近づくことが難しい。そこで君の光魔法だ」
ソフィアはコクリと頷く。
「今この場所で光属性の魔法が使えるのは君だけ。何とかならないか?閃光弾のような魔法とか使えないか?もし無理そうなら、別の方法を考える」
「わかりました。やったこと無いですが、やってみます」
「ありがとう。助かるよ!でもそうだな……制限時間は15分だ。それ以上待つのは厳しい。それまでにやってくれるか?」
「了解!!」
「いい返事だ!じゃあ頼んだ!!」
ソフィアは、昔のこと。今は亡き、母の言葉を思い出す。
「いい?ソフィア。魔法は想像力よ?歌う時に気持ちを込めて歌う。場面を想像して歌うのと一緒」
(お母さん……。ううん。今はダメ!魔法に集中!)
ソフィアは、閃光弾のような光を強くイメージする。目を瞑り、深呼吸し集中する。すると、案外簡単に魔法は完成した。両手の先では、今にも破裂しそうな光かバチバチと音を立てている。しかし、その光をどう動かそうとしても、手の上から離れることは無かった。
試しに、前方へと離してみるが、その光は手から離れるとほぼ同時に破裂する。
キーーーーン!!
「キャッ!」
光と同時に甲高い音が、ソフィアの耳を襲う。
(だめ、これじゃ。私なんか近づくことすら出来ないし、たとえ使えたとしてもあの巨体。あのモンスターを怯ませるくらい大きな音を出したら、私が持たない。どうにかして、遠い場所から……)
遠い場所。その言葉にソフィアは、何かを思いつく。
(光の槍とこの光。どうにか組み合わせることが出来たなら……。いや、これしかない。残り10分。完成させてみせる!!)
ソフィアは、モンスターのいる方向とは別方向に向け、思いつく限りの方法で魔法を連発する。魔法を連発する度に、喉になにか違和感を覚える。
「リーダー?あれ、どうしちゃったんです?」
「気にするな。多分あれが、一発逆転の狼煙になるさ。そう信じるしかない!!」
「あれがねぇ」
ソフィアの魔法による可能性を見出したザーラスは、今戦うメンバーにむけ叫ぶ。
「いいか!後10分! 10分耐えろ!!そうすれば必ず俺たちの方に風が吹く!!」
「「「「了解!!」」」」
そして、その時は訪れる。大陸亀と戦うメンバーは、ソフィアを信じて戦い続ける。地震を耐えながら、猛攻を凌ぎ、ソフィアを待つ。すると、上空で、光と音が鳴り響く。
ピカ!!キーーーーーーーン!!
ソフィアは、魔法を完成させたのだ。そして、ソフィアから、他メンバーに対して叫び声が聞こえる。
「みんさんっ!!!!いけます!!!!!」
「おい!聞こえたか!みんな!ソフィア君の魔法をサポートするよ!!」
「「「「おう!!!」」」」
「レイナ。君はソフィア君の補助だ。いいな?」
「任せな!!」
レイナはソフィアの元へと急ぐ。
「やるじゃん!さっきの。今作ったの?」
「何とか!」
「いいじゃん!その顔!昨日のソフィアちゃんとは大違い。150点よ!!」
「ありがとうございます!」
そして、ソフィアは魔法を唱え始める。すると、ソフィアの前にはいつもの光の槍が形成されるが、先程作っていた光のようなバチバチ感を持っていた。
「レイナさん!準備出来ました!」
「みんな!!!ソフィアちゃん、準備出来たって!!離れて!!」
レイナがそう叫ぶと、メンバーは大陸亀から距離をとる。その様子を確認すると、ソフィアは全力で、目の前のバチバチと唸る、光の槍を放つ。
「行っけーーーーー!!」
シュンッーーーバチバチッ!!
ソフィアから放たれた光の槍はやがて、大陸亀の顔面へと向かい、そして……。
ピカッ!!パァーーーーーーンッ!!!
激しい光と共に、強烈な音が、大陸亀を襲う。殺傷力は全くないものの、どのくらいの音と衝撃だったかは、爆発地点から来る衝撃波が物語っていた。
――――――――――――――――
遠距離閃光魔法【ブライト・バン】
形成した光魔法を対象の元へと放ち、特定の箇所で爆発させる閃光魔法。音と光に割を振っているため、ダメージはさほどないが、広範囲による耳鳴り、視力の奪取などにより、身動きを制限させることが可能。なお効果と範囲は、使用者の技量、魔力量による。
――――――――――――――――
「うそ……こんなのあり?これ、即興で作ったの?ソフィアちゃん……」
「はい、そうですッ……。コホンッ……」
喉が傷ついたからだろうか、ソフィアの口から軽く血が吹き出す。
「ちょ、大丈夫!?ソフィアちゃん!?」
「はい……。恐らく、大きな声を出したのが久しぶりだったので……」
「まったく……、無理しないでね」
「は、はい」
ソフィアがえへへ、と苦笑いを返すと、ザーラスからの指示が出る。最後の突撃の指示だ。
「みんな!!今だ!!いくぞ!!!」
そう言うと、最後の力をふりしぼり、全員で大陸亀を襲う。ここからは、いつもの大陸亀の戦法と同じ。こちらの攻めの手を止めず、ひたすら攻撃する。そうすることで、大陸亀の魔法を放つ隙を与えず、体勢を崩させるように立ち回るだけである。
しかしながら何故だろう、疲れ切っているはずの前衛メンバーは、今まで以上にない動きとコンビネーションを見せる。恐らくソフィアの魔法に感化されたのか、俺達も負けてられない!そんな思いがひしひしと伝わって来る。
そしてついに……。大陸亀の弱点を露出させることに成功する。
「「「ウオーーーラァ!!!!」」」
「いまだ!頼む!!」
ソフィアは、最後の魔法を、自身の最高の力で、光の槍を放つ。
ヴヴィァーーーーー!!!
あまりの威力に、大陸亀は奇声を放つ。だが、そんな様子を見ながら、監視を行うエニュレーゼは、悲しげな顔で言う。
「……惜しかったね。異常事態発生よ」
すると、大陸亀はひっくり返った体を暴れさせながらら、問答無用で大地を揺らす魔法を唱える。
――――――――――――――
上級地属性魔法【アース・クエイク】
地属性魔法の上級魔法。魔力のある限り、周囲の地面を隆起、沈降を連続で行う。揺れによる自由の奪取や、大地同士がぶつかる衝撃でダメージを負わせるなと、広範囲に対し強力な効果を持つ魔法だ。
――――――――――――――
幸い、大陸亀はソフィアの魔法による視力の低下、ひっくり返っていることによる平衡感覚の損失から、死傷者が出ることは無かった。
その後、エニュレーゼの援助の元、一旦距離をとる事が出来たが、それでも戦える人間は半分以下になってしまった。
そんなこんながあり、今に至る。
「ソフィアちゃん!ここ、任せてもいい?私、あの3人の支援に行く」
「わかりました!!お気をつけて!!」
「うん!ソフィアちゃんもね!」
そう言うと、レイナは大陸亀と戦う3人の元へと駆けていく。
ソフィアは、レイナの期待通り怪我人の処置を完了させた。ソフィアの処置の適切さ、それとソフィア自身の強力な治癒力により、全員死ぬことなく、後遺症を残す人間もいなかった。
(じゃあ、私も援護に……。私は、変わるんだ。)
ソフィアは、大陸亀に苦戦する4人に向け、杖を向ける。過去のトラウマによる手の震えを必死に抑える。
(私はできる……。あの時も使えたんだ。それに私が支援魔法を使えたら、こんな状況になってなかった……かも。)
ソフィアは深く集中し、魔法を発動させようとする。すると、いつの間にか後ろにいたエニュレーゼから、静止の声がかかる。
「それはダメ。そんなことしたら、あの4人が死んでしまう」
「えっ……」
「そんな魔法。まともに受けて耐えられる人間なんて限られてる。もし、それを受けて平気な人が居たのなら、それはその人が特別なだけよ」
エニュレーゼのその言葉に、もしかしたら、自分の魔法でティルを殺していたかも。その考えがよぎり、胸の当たりでバクりと心臓が動く。
「その魔法、扱うには今のあなた、未熟すぎよ」
「で、でも……私変わりたいんです。それに、何とかしないとみんなが……」
「あなた、無理しすぎよ。あの女の子が言ってたはずよ?キッカケが大切だって」
「何故それを?」
「今はいいでしょ?別に。まあ、今後は薄めて使うなり、新しい魔法を取得するなり、頑張りなさい」
エニュレーゼは、ソフィアの質問を軽くいなすと、大陸亀の方を見つめる。そして、ここが幕引きだと感じたのか、戦う4人の元へと向かう。
「ごめんなさいね。これ以上の戦いは危険だと判断し、これからは私の番です。みんなは下がって」
「ですがまだッ!僕達は戦えます!」
「あなた、ギルドの評価を心配ているの?なら心配入らないわ。そもそもあの変異種。恐らくAランクギルド相当の討伐対象よ。それをあと一歩まで追い詰めた。あなたの起点と今回のチームの協調性。わたしなら相応の評価を押すわ」
「しかし……」
「無理なのはあなたも分かっているでしょう」
「……はい」
「ここは何も言わず引いてくれるかしら?」
「分かりました」
エニュレーゼの指示に従い、ザーラス達は安全地帯へと避難する。
「大丈夫なんでしょうか……あの人」
「それは無駄な心配だと思うよ」
「エニュレーゼさん。あの人は、【万雷の魔女】って呼ばれてるすごい人なの」
「まあ、見てればわかると思うよ」
そんな事を話していると、エニュレーゼと大陸亀の戦いは始まった。
まず、先に動いたのはエニュレーゼ。エニュレーゼが指を鳴らすと、そこから半径1km程の円形の魔法が展開される。
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論理的魔法回路【ロジカルエリア】
雷属性が付与された魔法を、周囲に張り巡らせることにより、ありとあらゆる魔法的事象、物理的事象を感知することが出来る。そして、特定の場所に対し条件を指定することにより、その情報と条件が一致した時、自動的に魔法を発動させることが出来る。
なお、この魔法を使用する際、情報の収集と条件の変更を、たった1人で行わなければならない。その為、並大抵の冒険者は脳内の処理が追いつかず、魔法が不発したり、脳に後遺症を残したりと、使用できるものは限られる。
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【万雷の魔女】の戦い方は、圧倒的で美しく、終始目を見張るものがあった。大陸亀と対峙している魔女は、右手を前にかざしながらゆっくり前に進むだけ。魔女が進むと、その度に雷魔法が大陸亀の四肢へと放たれ、無理やり1歩ずつ後退させる。
「私の認識だと、あのモンスターは雷に耐性があると思ってたんですが、何故効いてるのでしょうか?」
「……傷口、じゃないかな。僕達がつけた傷口」
「傷口、ですか?」
「そう。恐らくあの距離から、正確に傷口に対し魔法を当ててるんだよ」
「多分、それだけじゃないわ」
「それって?」
「筋肉って電気で動くの知ってる?脳から送られた電気でね。ほら、強い電気に触った時って動かなくなったり、勝手に動く時とかあるでしょ?それと同じよ」
「馬鹿な!そんなこと出来るはずない!あの巨大だぞ!いくらなんでも無理が」
「できるのよ。あの人は。あの人、エニュレーゼさんは、相手の体の構造さえ把握出来ば、どんな人間だって操ることが出来る。もちろん電気で無理やり動かしてるわけだから、意識はそのままね。だからこその魔女なのよ。今回はそれが亀相手って訳」
「そんなバカな……」
そして、このクエストの終了は訪れる。エニュレーゼはソフィア達との距離を確認すると、【ロジカルエリア】を解除する。そして、大陸亀の四肢に魔法を放ち、その場に留まらせ、両手で何か青い玉のような魔法を2つ作る。
エニュレーゼが左手の青い玉を投げると、その玉は大陸亀の口の中へと吸い込まれていく。その後、大陸亀から離れると、右手の玉は赤色に変化し、エニュレーゼはそれを投げる。
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双雷玉【ソウライギョク】
マイナスの雷の力を持つ青い玉と、プラスの雷の力を持つ赤い玉を利用する魔法。二つの玉が一定の距離まで近づくと、各々が反応し激しいアーク(放電)を発生させる。なお、威力の大きさは、玉同士の力の差により変化する。
それぞれの玉は、マイナスへの力が強まるほど青くなり、プラスへの力が強まるほど赤くなる。また、雷の力が0になると白い玉になるらしいが、それは【万雷の魔女】でもかなりの集中力が必要とのこと。
――――――――――――――
エニュレーゼがソフィアたちの元へ戻ると、手短に指示をする。
「気をつけて。来るわ」
すると……、
ドッゴーーーーーーン!!!
大陸亀の方向。いや、正確には大陸亀の中から発生した落雷のようなものは、激しい衝撃波と共に大陸亀を襲う。その余波はピリピリと肌を撫で、いかに強大で凄まじいものだったのかを感じた。
「ま……マジか……」
「う、嘘……」
あまりの光景に、ソフィアとザーラスは驚きを隠せない。大陸亀の方を見ると、胸にはポカリと穴が空いており、その傷は黒く焼き焦げ、肉の焼けた香りが周辺に広がる。
「では、これにて本依頼は達成されたものとします。後始末の方、レイナ。よろしく頼みますよ?」
「はーい」
そう言うとエニュレーゼは、マグニアの方向へと歩いていく。そんな様子を横目に起きているメンバーはレイナを見つめる。
「あれ?言ってなかったっけ?あの人、私のおば……」
すると、レイナの目の前に一筋の稲妻が走る。
「お?何よ。言ってみなさい?その続き」
「わ、わわ、私のお姉さん的、存在です」
「よろしい」
その後、エニュレーゼの姿が見えなくなると、隣からホッと息を吐く音が聞こえた。
「はぁ〜。死ぬかと思ったァ〜」
レイナは緊張が解けたからか、尻から地面に崩れ落ちる。
「ものすごい殺気でしたね……。あの人とは知り合いなんですか?」
「うん。ちょっとした親戚ってとこ。あの人起こると怖いんだよね〜。今みたいな感じで」
「あはははは……」
ソフィアとレイナが話をしていると、後ろからザーラスが歩いてくる。
「君達、話してるのはいいが、あれの片付け始めるぞ。さっきギルドの人呼んだから、到着するまでに終わらせたい」
「はい♪」
「はーい」
その後、作業は2時間程行われ、解体した肉や皮、内蔵などは新鮮さが長持ちするよう処理し、無事ギルドに引き渡される。そのついでにソフィア達も搭乗し、マグニアまで送ってもらった。
「じゃあみんな!お疲れ様!!」
「おう!おつかれさんっ!!」
「はい、お疲れ様です♪」
「やぁっと終わったよぉ」
本来であれば、この後打ち上げをする予定だったらしいが、怪我人もいるということもあり、後日行われることになった。
さすがに疲れた。今日は早く帰って寝よう。そう思ったソフィアは、いち早く宿へと戻る。
(いつかわたしも、あんな風に戦えたら。1歩でも進むんだ。前に!!)
そう、今後の期待を胸に込め、1人夜の1本道を歩いていく……。
第4話 「目覚めの予兆」 〜完〜




