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魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
第1章 魔都奔走編 〜英雄の始まりと歌姫の目覚め〜
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第4話 〜目覚めの予兆〜 ②

 今日は討伐クエスト本番。その緊張のためか、ソフィアはいつもよりも若干、早く目が覚める。窓を開けると、外はまだ暗さが残っており、心地の良い早朝の風が身に染み込む。


(きっかけが……大事。)


 レイナの言葉を思い出し、軽くキュッと握った拳を見つめる。


(今日、変われるのかな……私……。違う。これじゃダメ。もっと自信を……。)


 ソフィアは、思考を変えてみることにし、少し考える。


(今日変われなくたっていい。きっと変わろうと思う、その気持ちが大切なんだ。まずはきっかけ。きっかけを今日は掴もう!!)


 いつになくポジティブな考えをしたソフィア。今までの不安な気持ちは若干和らぎ、不思議と心の底から熱い気持ちが登ってくる。この気持ちはしばらく、いや今日のクエストが終わるまでは枯らせてはいけない。そう思い、少し早いが冒険者協会へ向かうことにした。


 宿から歩いて20分。ようやく冒険者協会のある噴水が見えてきた。できるだけ協会に近いところに宿を取ろうと思ったのにこれだ。もうギルドに入ったことだし、早いところ寮なり賃貸なり、家と呼べる場所を借りよう。そう、ソフィアに決意をさせる。


 協会に近づくと、何やら不思議な歌が聞こえる。その歌声は妙に心地がよく、体から魂が抜けてしまいそう。そう思わせる位に綺麗な歌声だった。噴水を超えると、ようやくその声の主が見えてくる。緑色の髪をした、ソフィアよりも少し背が高めの女性だ。見るからに高級そうなドレスを身にまとい、協会の周りに咲く、花や草木に水を与えている。


「lalala……lala……lalala……」


 しかし、本当に心が惹かれる歌声だ。ソフィアは、近くのベンチに腰掛け、何も考えずにその歌声没頭していた。


 しばらくすると、水やりを終えたのか、よしと!という掛け声とともに、その歌声は止んでしまう。実はソフィア、歌を聞くのや歌うことが大好きなのである。今の歌は凄かったと称賛の声を送るため、その女性の元へ近づく。しかし、近づいた時に起こった反応は思いもよらない反応だった。


 ソフィアの近づく音に気づいた女性は、勢いよくバッ!!と振り向く。すると、少し驚いた表情で数秒間固まる。


「えと……さっきの歌なんですが……」


 ものすごく素敵でした。そう声をかける前に、何故か、顔中を触られた。その後、女性から何故だか心配の声をかけられる。


「あなた……大丈夫なの……?」


「だ、大丈夫っ……て?」


「さっきの、聴いてたのでしょう?」


「は、はい……」


 すると、その女性は目を細め、顎に手を当て何かを考える。


「あなた、どちら?」


 どちら?えーと、魔法研究所のソフィアです?って答えればいいのか?質問の意図が分からず、少し硬直してしまう。


「えーと、どちらって言うのは……?」


「ふぅん。知らないならそれでいい。では失礼」


 すると、女性は、協会の中へと戻っていく。しかし、今日は変わろうと決意しているソフィア。いつもは自分の言葉を飲み込んでしまうが、今回はしっかりと自分の意見を告げる。


「あ、あの!私、ソフィアって言います!!あなたの歌声、とっても素敵でした!!」


 あぁ、言ってしまった……。と、少し後悔していると、その女性は、ソフィアの方へと帰ってきた。


「あなた、ソフィアって言うのね。いい名前だと思うわ。特に、ソから始まるのがいいと思う」


(ソから始まるのが……いいの?)


 ソフィアが少し戸惑うが、目の前の女性は、そのまま続ける。


「私は【エニュレーゼ】。あなた、冒険者のようだけど、良かったらどこのギルドか教えて貰えないかしら」


「は、はい。私のギルドは、【魔法研究所】です。ついこの間冒険者になったばっかりの、新人です。よろしくお願いします」


 ソフィアは、一度唾を飲み込み、自分のギルド名を告げ、腰を90度に曲げる。すると、目の前の女性、エニュレーゼは、ソフィアの頭をポンッと撫でる。


「なるほどねぇ。あの変態メガネのところの……。そういえば、あなたどこかで見た顔だと思ったけど……。それに、さっき冒険者なりたてって……」


「はい。この間の試験で……」


 すると、エニュレーゼは、ソフィアの顔をこれでもかと覗き込み、そうだ!と手をポンッとつく。


「あなた、あの噴水の頂点に向かって魔法を打ってみなさい」


 え?今なんて言った?魔法を打つ?この街中で?と、ソフィアの頭の中では、いくつも疑問が浮かび上がる。


「大丈夫。まだ朝早いし、言い訳は私がしておくから」


「わ、分かりました……。そこまで言うなら……」


 と、合意の応答をかえすと、ソフィアは杖をかまえ、噴水に向け光の槍を放つ。


 シュンッと、噴水の水を切ると、ソフィアが放った光は空気中へと霧散する。その光景を見た女性はソフィアに向け質問を投げかける。


「やっぱりそうよね……。あたしが見間違えるはずないもの……。ねえ、あなたにひとつ聞いてもいいかしら?」


「な、なんでしょうか」


「あなた、どうして【アイオライト】の勧誘を断って【魔法研究所】なんかに入ったの?」


 ソフィアは、予想外の質問に、驚きの表情をエニュレーゼに見せつける。すると、エニュレーゼは、ソフィアの顔に対し、反応を見せる。


「あら、言ってなかったわね。私、アイオライトの特別団長補佐をやってるのよ。実質のナンバー2。で、理由を聞かせてもらえるかしら?」


「ある人との、約束で……」


「ある人?」


「はい。あの試験、冒険者の試験で出会った、とても大切な人です。私は、その人と冒険をするために、魔法研究所に入りました」


「なら、その人がいなかったら、うちに来ていたと?」


 その質問に対し、ソフィアはコクリと頷く。


「ふ〜ん。そういう事ね。つまりは男ってか……」


「い、いや、そんなわけでは……」


「別にいいわよ。その人、大切な人なんでしょ?」


「……はい」


「なら、その人のこと、大切になさい。あなたはその人を選び、その人は、あなたを選んだのだから……」


「私が……選んだ?選ばれた?」


「ごめんなさいね。そこはあまり気にしなくてもいいわ。ただの先輩としてのアドバイスよ」


「それって冒険者としての?」


「それもそうだし、特に人生のよ」


 エニュレーゼは、人差し指を下唇に当てながら話す。


「……分かりました」


「それと、最後にもう一つだけ聞いてもいいかしら」


「はい。なんですか?」


「あなた、協会に用事があるみたいだけど、もしかしてなにかのクエストに行くの?」


「そうですが……」


 ソフィアは、今日自分が参加するクエストの内容を話した。


「なるほどねぇ。わかったわ。ありがとう。じゃあ、今度こそ失礼するわ。また会いましょ。ソフィアさん。今度はあなたの歌声を聞かせて欲しいわ!」


「は、はい……。もし、歌えたら……」


 そう言うと、エニュレーゼは協会の2階へと消えていった。


 協会の中で待つこと1時間程。約束の時間が近くなるにつれ、協会の中は徐々にに人が増えていく。すると、入口の方に見覚えのある人が現れる。


「お!おっはよ〜♪ソフィアちゃん!来るの早いね〜!」


「レイナさん、おはようございます!」


 ソフィアは、満面の笑みで、挨拶をかえす。


「お!その顔いいね〜。昨日とはまるで別人みたいだよ。その調子でクエストまで続けてみよ〜!」


「はい!」


 と、ソフィアは笑って返す。その後、時間が来るまで雑談を続けた。そして、メンバーが揃うと東門まで移動し、軽いミーティングを行う。


「いいかい?みんな!今日はこのクエストの決行日。目標は【ラージュタートル・大地種(突然変異の可能性あり)】だ!この被害にあった人達は、口を揃えて魔獣と言っていたが、僕達なら大丈夫!今までだって簡単に討伐出来てたんだ!今回だって勝てるはずさ!!」


「おうよ!」


「もちろん!」


「あたしもよ!!」


 メンバーは、己とお互いを鼓舞し合い、雰囲気は熱さを増していく。


「それに!今日は急遽、あのSランクギルドの【アイオライト】、監督員として、とある人が参加してくれることになった!現地集合という形になるが、あの、エニュレーゼさんが来る!!」


「「「「「まじかよ……あの……」」」」」


(あの人、マグニアだとみんな知ってるのかな……というか、私が言ったからだよね……。それって完全に職権乱用では……。まあ、みんな喜んでるならいいけど。)


「じゃあ、これより出発する!!全員生きて帰るぞ!!」


「「「「「「おう!!」」」」」」


 そう、ソフィア達は各々の思いを1つにすると、大地亀の変異種?の目撃された場所へと向かって行った。

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