表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
第1章 魔都奔走編 〜英雄の始まりと歌姫の目覚め〜
25/68

第4話 〜目覚めの予兆〜 ①

 ここは、マグニア城の地下に存在している、とある魔法研究室。そこには、ネロとイヴがいた。


「イヴ。どうなんですか?彼女は?」


「彼女……って、ソフィアちゃんのこと?」


 ネロは無言で頷く。


「あの子はねぇ……。多分違うんじゃないかな?」


「と言いますと?」


「ほら、あたし初日。あの子の事誘拐したじゃない?」


「自覚はあったのですね」


「で、そん時色々な事を実験してみたのよ。そらもう、あんなことから……そんなことまで……」


 イヴはじゅるりとヨダレを軽く垂らすと、ネロは黙ってハンカチを投げる。


「サンキュー」


 ネロから受けとったハンカチで上品に口周りを吹くと、そのまま話をつづける。


「でもね、それらしい反応とか予兆とか、なぁんにも起きなかったわけ。泣かせてもダメ。怒らせてもダメ。イ……喜ばせても、苦しませてもダメ。ありとあらゆる感情を弄ってみたけど、全部だめだったわ」


「今なんて?」


「本当にソフィアちゃん、あの【歌姫】ってやつなの?あなたが昔言ってた、世界の破滅、または希望を呼び寄せる存在ってやつ」


(……何も無かったことにするつもりですか。)


「あくまで可能性ってだけの話ですよ」


「この間の試験のこと?」


「そうです。それと、過去に歌姫として謳われたもの達。この長い歴史の中で、ふと現れては消え、様々な偉業や災害を起こしてきた人。彼女等には共通点がいくつかあるのですが、それがソフィアさんにも当てはまるんです」


「ほほぅ……」


「先ず1つ目は、声が美しく容姿が端麗であること」


「既に2個出ちゃってるけど?」


「あくまで体の構造的な話です。彼女は見ての通り、誰が見ても容姿端麗と言えるでしょう。それに、自信がなそうに喋りますが、私個人的には声が綺麗と感じました」


「まぁ、そこは私も納得よ」


「次に2つ目ですが、魔力の濃度が異常に高いところです」


「濃度?量じゃなくて?」


「ええ。様々な文献や、個人の調査の結果の下、私が出した仮説です。まあ、彼女等が使用していたと言われる魔法の威力、効果の事を考えると、ほぼ間違いないでしょうね」


 ……………………

 ちなみに、魔力量と魔力濃度についての補足だが、体内で保有・作成できる量のことを魔力量。一定の魔力量に対し、どのくらい魔法が使えるのかが魔力濃度である。

 なお、魔力量が多ければ多いほど、複数の魔法を一度に沢山使えたり幅広い様々な魔法が使える。それに対し、魔力濃度が高いと、1つの魔法に対し、威力を高めることが出来る。

 ……………………


「ソフィアさんが見せてくれた魔法。あのゴーレムの核にびびを入れた魔法。彼女の魔力量を鑑みる限り、濃度は他の方よりも一線を画していると言えるでしょう」


「なるほどねぇ……。確かにゴーレムの件に関しては納得が行くけど、それでも要は、可愛くて声が綺麗で魔力濃度が高いってことでしょ?そんなの結構いるわよ?」


「まあまあ、そう焦らずに。次で最後です。まぁ、これに関しては偶然と言えなくもないのですが」


「と言うと?」


「彼女達の周りには必ず、何かしら悲しい過去があるようです」


 そう言うと、ネロはとある資料をイヴに差し出す。


「これは?」


「私がソフィアさんの村について調べたものです」


「あらまぁ、あの娘も結構大変な思いしてるのねぇ」


 その資料には、一夜で滅ぼされた街で、唯一生き残った少女の情報が書かれていた。


「先程も言いましたが、あくまでもこれは仮説。あなたもご存知の通り、歌姫は世間一般から忌まれている存在。ですのでくれぐれもこの件はご内密に」


「勿論わかっているわよ。大事な可愛い可愛い後輩。そんなの手放すような行為なんてしないわ」


「……。そんな卑しい発言で、納得してしまわせるあなたが私は心配ですよ」


「余計なお世話よ」


「では、彼女のこと任せましたよ」


「りょーかい」


 そう言うと、イヴは資料を手に持ち、ネロの研究室を立ち去る。



 そして現在、太陽が頭の真上を照らしている時間帯。とある草原で、全長約5m程の大きな亀のようなモンスターを討伐している、十数人の集団がいた。前衛で戦う者が8人。後方で支援しているのが5人である。


 ――――――――――――――――

 ラージュタートル・地陸種(以下、大地亀)

 巨大な体を持つ亀型のモンスターの内、地上に生息する魔獣。動きが遅く、防御力が高い。また、地属性魔法を使うのが得意で、1発1発の魔法の威力は低いが、これでもかと言う程に魔法を使える。一般の冒険者は、その防御力を活かした持久戦に持ち込まれると、逃げの選択を迫られることも少なくない。

 また、弱点はお腹とハッキリしており、ひっくり返して魔法でドンッというのがオーソドックスな戦い方である。

 ――――――――――――――――


「よし!これで最後だ!決めるぞ!!」


 そうリーダーの男が叫ぶと、ある一人の女性を除き、後方で支援しているメンバーが前衛に対し魔法をかける。


(私も、やらないと……。)


 ソフィアも支援魔法を使おうとするが、あの日、自分の生まれ育った故郷での事故が、ソフィアの頭の中にフラッシュバックする。


 ・・・・・・・・・・


 ここは、とある辺境の街。世帯数はゆうに100を超え、近隣の町や村とは比べ物にならないくらい発展していた。しかし、その街はたった一夜にして、1匹の悪魔。人の魂を好んで食す生き物の手により、滅ぶこととなる。そう、たった1人の少女を除いて……。


【助けて……お姉ちゃん……。】


【や、辞めろ……。クソッ。体が……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!】


【あなただけでも逃げるのよ!!早く!ソフィア!!】


【違う。違う違う違う……。これは、私のせいじゃない……。私は……ただ……みんなの為に……。】


 少女は、たった1人、建物が倒壊し、火の海で溢れる、そんな街を歩く。もう少しで街を出られる。そう思った瞬間、街の長。顔がシワだらけの白髪の老婆に足を掴まれる。


【お前のせいじゃ……この町が滅んだのも。お前の両親が食い殺されたのも。村の若人が戦えなくなったのも!!全てお前のせいじゃ!!この、呪われた歌声が……。】


【わ……たし……が…………。】


 ・・・・・・・・・・


「ちょっとあんた!何ぼさっとしてんの!!」


 その声でソフィアの意識は戻る。


「すみません。あ、ありがとうこざいます」


 しかし、ソフィアは意識を前衛に向けるも、支援魔法を使うことが出来なかった。


(なんでだろう……。なんであの時私は、ティルに……。)


 前衛の男のうち、身軽な男性が大地亀の注意を引きつけ、誘導を開始する。


「こっちの準備OKだ!!」


「あいよ!!」


 大盾を持つ男が合図をすると、先程まで大地亀を引き付けていた男は、合図のする方へと向きを変える。その後、大盾の男と大地亀の距離が近くなると、身軽な男はその縦の後ろへと隠れる。大盾を持つ男はタイミングを見極め、盾に対し魔力を込めると、大地亀の頭に縦をぶつけ衝撃を与える。


 すると、大地亀はあまりの衝撃に2歩、3歩とよろめきながら後退する。


「ナイスッ、2人とも!今だ!魔法組頼む!!」


 リーダーの男、ザーラスがそう言うと、2人の魔法使いが魔法を放つ。1人は地面を大地亀の前足が着いてる地面を隆起させ、体勢を崩させることに成功する。

 もう1人の魔法使いは、大盾を持つ男の方から大地亀の方へと強風を発生させる。そして、その風を利用して大盾の男が大地亀の懐に入り込むと……。


「ドッコイショッ!!!」


 すると、大地亀は見事にひっくり返り、弱点である自分の腹を露わにする。


「最後頼んだよ!!」


 その声を聞くと、支援魔法を掛けなかった女性、ソフィアがトドメの一撃を放つ。天から大地亀の腹へと一直線に落とされた光の槍は、軽々しく腹を貫き、一瞬で大地亀を気絶させる。


 その後、ザーラスがトドメを指し、無事大地亀の討伐に成功する。


「みんな、お疲れ様〜!」


「おうよ!こんなんなら明日も余裕だな!」


「だな!」


 そんな明るいムードに、少し気の緩んだ空気が流始める。その流れをせき止めるかのように、ザーラスは手をパンッパンッと叩く。


「おいおい。気ぃ抜かれちゃ困るな。いくら勝利したとはいえ、ここはまだ戦場だよ。せめてそういうのはマグニアに帰ってからにしてくれ」


「お、おう……悪かったな」


「分かってくれればいいさ。他のみんなも、いいね」


 ザーラスがそう言うと、各々了解の合図を返す。


「じゃあ、今日はもう明日に備えて、帰るか!」


「「「「おー!」」」」


 そして、マグニアに到着すると一同は、冒険者協会へと真っ先に向かう。


「えと……今から何が……」


 若干戸惑うソフィアに後ろから声がかかる。


「明日もし、死んでも悔やまないための宴会だとさ」


「は、はぁ……」


「あなたも参加した方いいわよ?あいつら、勝手に酒飲んで酔っ払うし、勝手に自分から奢りまくるから、実質タダ飯よ?」


 ソフィアは、数秒間考え答える。


「いえ、私は……」


「いいから、いいから!さっさと行くよ!ほらっ!」


「ちょ、ちょっと……」


 ソフィアは、拒否の答えを出し切る前に、無理やり協会へと押し込まれる。


 宴会が始まり、約1時間ほど。やはりと言っていいのか、前衛の男達はこれでもかと言わんばかりに酒を飲みバカをする。周りの冒険者たちもそれを見て盛り上がり、更なる馬鹿さを見せる。


 その様子を見ながら、ソフィアは隅の方で適当に注文したホットパイを口に運ぶ。


(みんな、すごいな。私なんて……)


 そんな思いにふけっていると、軽いボディタッチとともに、女性が座る。


「男って、本当に馬鹿よねぇ。明日は、危険なクエストだってのに、こんな酒盛りなんかしちゃって」


「あなたは……」


 隣に座ったのは、あの時ソフィアの意識を戻してくれた人。そして、この場に無理やり連れ込んだあの女性だった。


「そういえば名前名乗ってなかったわね。あたし、レイナよ。よろしく!」


「私、ソフィアです。よろしくお願いします」


「あなたさ、自分に自信ある?」


「……特には」


 レイナはため息を着くと、ソフィアに向け話す。


「え〜うっそだだ〜。そんなナイスなバディしてるのに〜?」


「そんなことは……ないです」


 レイナと名乗る女性は、1口、目の前の料理を、胃袋へと入れると、ソフィアにアドバイスをする。


「あなたに1つ教えてあげる。いい?別にね、元気がなくたって、自分に自信がなくたって、卑屈になったって構わない」


 ソフィアは、黙って頷く。


「だけどね?それは日常までの話。それを戦場に持ち込んではダメ。だからいい?戦場では胸を張りなさい。仮にもあなたはあそこに選ばれた人間なの。もっと自信もっていいはずよ?」


「なるほど……」


「まぁ、そんなすぐに変わろうったって上手くできないのもわかるわ。だからさ、明日はいっぱい人いる訳だし、練習がてら、やってみなさい!」


「わ、分かりました。やってみます!」


 ソフィアのその元気を見たのか、レイナはウンウンと頷く。


「それでよしよ!まずはきっかけが大事なんだから!じゃないとね、いつか大切な人を見殺しにすることになるんだから……」


 そう言い放つレイナの目は、少し寂しげな目をしていた。


「あの……」


「スンッ。ごめんね。雰囲気だいぶ壊しちゃったわね。それじゃあ、明日一緒に頑張りましょ!」


 その後、これ以上飲むなというレイナの制止により、すぐ様飲み会は終わりを迎えた。


(明日、やってみよっか!!)


 若干の希望と、過去の苦い思い出、その両方を胸でかみ締めながら、ソフィアは自分の宿へと帰って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ