第1話 〜魔法研究所という場所〜 ②
先程の謎の手ほどき?を受けたティルは、ハイドに案内され東区の北東部辺りに来ていた。
「そういえば、ソフィ……。あー、あのもう1人居た女の子はどうなったんですか?」
「あー、あの子ねぇ。多分もう着いてるんじゃない?あいつの気分にもよると思うけど」
「あいつ?」
「そ。良い奴なんだよ?ただ、ちょっとマイペースが過ぎると言うか。めんどくさいというか。ま、気にしなくても大丈夫だろう」
「は、はぁ」
しばらく歩いていると、周りの店よりも一際目立つ、大きな二階建ての店が見えてきた。見た目は黒を基調とした木造建築で、一言で表すと貫禄のある老舗だ。
「よっし、着いたぞ」
「ここ……店?」
「そうだ。うちのギルドの資金源のひとつ。ギルドはここの奥にある。とは言ってもただの窓口に過ぎないけど」
「な、なるほど?」
と、ティルはハイドと共に店のドアをくぐる。中はやはりと言っていいのか、小綺麗に整頓され、見たこともないような魔道具がズラっと並んでいる。そして、入口の正面にはカウンターに佇む、1人のおばあちゃんが居た。
「おいっす。ばっちゃん。元気してた?」
「おい小僧。誰がババアだ。あたしゃまだ現役だよ。舐めてると捻り潰すよ。で、誰だい?そこのひよっこは」
「こいつ?ああ。団長の推薦その1」
「ほぉん。この子がねぇ。どれ、手を見せてみな」
ティルは言われるがまま老人に手を差し出す。すると老人はメガネをクイッとさせた後、ティルの手の至る所を触り始める。
「これはねぇ……。ふぅん、坊や、今いくつだい?」
「15です」
「その歳でねぇ。そんでその目。なるほどねぇ。あのメガネ、一体何考えてんだか」
「どした?ばっちゃん」
「うるさいね。ほれ、さっさと行きな」
「あいよ」
ハイドは少し悲しげな顔をしている老人を置き、店の奥にある扉の方へと歩いていく。
「ほら、こっち」
「はい」
ハイドが扉を開けると、先程までの老舗のような見た目とは違い、何かの研究所のような見た目の一本道に出る。長さは約20m程で、両脇には均等な感覚で3本づつロウソクが置かれている。そして、道の先には取っ手のない扉と、そのすぐ横に何かを読み込ませるような機会がある。
「いいか?俺から離れるなよ?死ぬから」
「死ぬ!?」
「そ。この道は基本客用とか、案内用の道だからね。侵入者対策に色々やってる。例えばそこのロウソク、このカードの近くにいないと問答無用で体から魔力を吸い取られる。
しかも、タチの悪いことに魔力の消費効率は最悪。さらにこの道、外部から魔力が入ってこないように密閉された状態になってる。だから基本侵入者はあそこの扉に着く前に体内から魔力がなくなって死ぬってこと」
「ほぇ……」
(流石、魔法研究所って名前だけあるなぁ……。)
「まあ、あそこまでたどり着いたところで、このカードが無きゃ扉は開けられないけどね。壊そうと思ってもめちゃくちゃ硬いし、この道の特性のせいでまともな魔法は使えない。ま、こんな感じの研究をしてるのがうちって訳」
ティルはハイドの話を聞くと、あまりの衝撃に棒立ちになっていた。たったこの20mしかない道に詰められた技術に、研究成果に目を奪われていた。
恐らくこれはこのギルドで生み出された成果の一部でしかなく、まだまだこの先に沢山の未知がある。そう思うと、心の中のワクワクが止まらず、歩くことを忘れてしまっていた。
「そんなこんなでうちは……、ッておいバカッ!!何やってんの!?」
ハイドは説明に夢中になるあまり、立ち止まるティルに気づかずに進んでしまっていた。ティルはハイドの声に我に戻り、自分の置かれている状況を理解する。
(あ、やっべ。)
前を見ると、ハイドは鬼の形相でこちらへと向かってきていた。
ハイドはそのままティルの元へとたどり着くと、ゲンコツを1発頭に落とす。
「言ったじゃん!?離れたら死ぬって!!ったく。大丈夫?立てるか?」
「はい……。ゲンコツの方が……だいぶ……」
「なら大丈夫そうだね」
ハイドはティルが無事だと知ると、ホッと安堵のため息をつく。
「もう、本当に気をつけろよ?」
「は……はい……」
2人は扉の前へとたどり着くと、ハイドは先程ティルに見せたカードを読み取り機にかざし、謎の扉をウィーンと開かせる。
扉の先には、やや広めの部屋が広がっており、長椅子が左右に2つずつ、その先にカウンターがある。カウンターの横には扉が1つと、両脇に魔法陣のようなものがひとつずつある。
2人がその部屋に入ると、カウンターに座っている受付嬢と思わしき人から挨拶が飛んでくる。見た目はおよそ20代前半、やや低めの身長で、目は茶色、右肩まで流れいる焦げ茶色の髪が特徴的な女性だ。
「お久しぶりです。ハイドさん。あと……ティルさん、ですね」
「オッスオッス〜。お疲れさん。アイラちゃん元気してた?この子、受付嬢のアイラちゃん。しばらく世話になるだろうから挨拶しときな」
ティルはアイラの前まで行くと、軽く挨拶をする。
「初めまして、ティルです。これからよろしくお願いします!」
「はい。元気な挨拶ありがとうございます♪先程紹介された通り、ここ、魔法研究所の受付嬢をしています、アイラです。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
互いに自己紹介を終えると、ハイドが話し始める。
「この子のこと、団長から聞いてる?」
「はい、もちろんです。既に準備は出来ているので、そちらの魔法陣にお乗り下さい」
「へーい」
ハイドはアイラとの会話を終えると、カウンターの右側にある陣の上に立つ。
「ふふっ。初めてだから分からないですよね。あそこはギルドの団長【ネロ様】の部屋に繋がる魔法陣になります。反対がにあるものは皆様の居住されてる場所などに設定をしています」
(本当、ここに来てからすごいなぁ。)
「では、転送します♪」
「よろしくー。おい、絶対ココから出るなよ。絶対にだ」
「は、はい」
「転送まで、3……2……1……」
アイナがカウントを始めると同時に足元の魔法陣が光り出す。
「ゼローーーッ♪」
すると、目の前にあった風景は一瞬で切り替わる。どこかの地下のような場所に移動したようだ。試験の時のような転送を想像していたティルは、気の抜けたような顔をしていた。
「あー、そういや、今年の試験の担当マグナさんか。あれとは比べるなよ?これ、あの人参考に作ったやつだから」
ハイドはそう言うと、転送陣を降りてすぐ左にある、大きめの扉をノックする。
「どうぞ、入ってください」
「失礼しまーす」
ティルも、ハイドに続き部屋の中に入る。
「失礼します」
中見渡すと、先に着いていたのか、ソフィアが長椅子に腰をかけていた。別れた後何が起きたのかは知らないが、俯きながら、体を小刻みに震わせていた。
原因は恐らく隣にいる女性だろう。その人がポンっとソフィアの肩を叩く度に、体をビクつかせている。
(一体……何があったんだろ……。)
「団長、連れてきましたよ」
部屋に入ると、ハイドが奥にいる男性、ぼさぼさの髪の毛で、白衣を身に纏う、眼鏡をかけた男性に話しかける。
「どうやら私の言う通り、気に入って貰えたようですね」
「それ、本人の前で言わせるんです?」
ティルは二人の会話に首を傾げる。
「初めまして。ティルさん。恐らくご存知かと思いますが、ここの団長を務める、【ネロ】と申します」
ネロと名乗る男の挨拶に、ティルも軽く挨拶を返す。
「では、そちらにおかけください」
2人はネロの指示通り、テーブルを挟んでソフィア達の反対側にあるソファーに座る。
「よし、これで全員揃いましたね」
と、ネロはポンっと手を叩き、ここに居る4人の説明を行う。
どうやらソフィアの隣に座る、赤い髪と目をした際どい服を着る綺麗な女性は、【イヴ】という名前らしく、 この国にいる間、ソフィアの指導役を務めるそうだ。ちなみに、ティルの指南役はやはり、ハイドらしい。
「よろしくねぇ♪ぼ・う・や♪」
何か色っぽさを感じる挨拶にティルは少しドキッとする。
「よ、よろしくお願いします……」
「それよりもさぁーあ?」
イヴはそう言うと、テーブルの上に膝を乗せ、身を乗り出し、ティルの頬を右手で触れる。
(ちょ……見えすぎ……。)
無防備に見せつけられるその山と山の間に、目の前に迫る赤い瞳と揺れる赤い髪に、ティルは顔を赤くしたまま硬直する。
「な、なんでしょうか?」
ティルの質問を無視し、イヴはティルの首元へと右手を滑らせる。
(な……なな……)
そして、そのままティルの首に下げられている、透明の魔石を取り出す。
すると、先程までの妖艶な雰囲気は消え去り、瞬時に冷たい眼光がティルに突き刺さる。
「これ、一体どこで手に入れたのかな?」
先程までの色っぽい口調は一変し、心臓を撫でられるような冷たい声でティルに放つ。
あまりの豹変ぶりに、先程とは違った鼓動が走る。ティルは深く息を吐き落ち着かせ答える。
「それは、母親から貰ったものです。新しい冒険の旅立ちへのお守りにと譲り受けました」
「フーン。母親ねぇ。それってどんな人か聞いても?」
「はい。大丈夫です」
ティルは返事をすると、イヴに向け、母親の話をする。話した内容は以下の通りである。
・髪の色は白く背中を覆うほど長い。目の色は赤で、身長はソフィアよりもやや高め。
・誰にでも明るく接し、フレンドリーな性格である。
・世話好きで、妙にスキンシップが激しいこと。
・綺麗好きで、何も用事がなければほぼ一日中掃除や、家事をしていること。
・過去に命を救われ、それから母親替わりに自分を育ててくれたこと。
・自分よりも圧倒的に強く、5年ほど旅をしたと共に、戦い方はその人から教えてもらったこと。
・それ以降は智国のとある村に住んでいたこと。
ティルが話を終えると、イヴは溜息をつきながらソフィアの隣に戻る。
「はぁ、あなたも大変な目にあってきたのねぇ。それに、聞いた話じゃ多分人違いね」
先程まで向けられていた殺意のようなものは消え、ティルも安心しホッと息を吐く。
「た・あ・だ」
「ただ?」
「もし、あなたの母親とあっちゃった時は殺しちゃうかもしれないから、そんときは恨まないでね♡」
「そこまでです」
イヴの発言に、ネロは口を挟む。
「ティルさん。怖い思いをさせてしまい、申し訳ありません。実はですね、その魔石。この国で1番の実力者と言われていた魔導師の愛用していた魔道具で、魔国の第1級戦利品とされているんです」
ちなみに第1級戦利品とは、この国の最高級の戦利品であり、功績を挙げた兵士や冒険者が、国から授けられるものとのことらしい。
「え!?そ、そうなんですか!?す、すみません!今すぐ返します!」
ティルは慌てながら、首から魔石を外す。
「いえ、それには及びません。その石はあなたを主として認めています。あなたが心の底から望むか、あなたを殺さない限り、所有権が他の人に移ることは無いでしょう」
「そうですか……」
ティルは若干申し訳なさそうに、魔石を服の中へと戻す。
「ちなみに、その魔導師というのはどこに?」
ティルがネロに質問をすると、ハイドとイヴは少し悲しげな表情に変わる。
「現在、消息不明です。巷では既に亡くなったと噂されていますが、あの人のことでしょう、きっとどこかで生きてるはずです」
ティルは母親の仕出かしたことに胸を痛め、軽く俯く。すると、ネロから思いもよらない爆弾が落とされ、その場は一瞬にして凍りつく。
「ちなみにそこにいるイヴの姉です」
「「「………………」」」
ティルはその言葉にイヴの方を見ると、頭を抑え、そこで言うか……と言わんばかりの顔をしていた。
「団長、研究もいいですが、もう少し気の使い方を勉強した方がいいッスよ」
「本当よ。もう少し自重してください。いい?ティル君。謝らないでね。別に私はあなたの母親を許すつもりは無いし、そもそも、君に罪はないよ。ましてや、血縁関係でもないんだしね。さっきの話を聞いた今、君には一切、恨みの類の感情は持っていないよ」
「で、ても……」
「もし君がこれ以上謝りたいというのなら、それは私じゃなくて私の姉、【アリス】にしなさい。後で墓石に案内するから」
(墓石……か……。)
「まあ、墓石って言っても仮のものだけどね。私も団長と同じで、信じてるよ。姉の事。いつか、しれっと帰ってくるってね」
ティルはひと呼吸置き、イヴに願いを伝える。
「分かりました。案内、お願いします」
「へへ。ありがとね」
イヴは軽く浮かべた涙を拭い、ティルに感謝の言葉をかける。
「とまあ、暗い雰囲気になってしまいましたが、本題に入りましょうか」
イヴとハイドは、「いや、あんたのせいだよ」と、言いたげな目をしていたが、ネロは気にせずに説明を始める。
ネロの話は小一時間程行われた。その内容を簡単にまとめるとこうだ。
・このギルドは、先程話題になった、アリスのとある目的を果たすために作られたギルドである。
・その目的とは、【伝説の3人組】と呼ばれる3人しか、足を踏み入れることすら出来ていない、【魔力枯渇区域】の探索を可能にすること。
・魔力枯渇区域とは、その名の通り、魔力が全く存在しておらず、生身の人間が足を踏み入れた瞬間、ありとあらゆる物から魔力を奪われ、立っていることすらままならない区域のこと。ちなみにこの星の約3分の1程度はこの区域である。
・更にそこに住むモンスターは、他の地域に比べ、圧倒的に強く凶暴で、並の冒険者では歯が立たないほどである。
・それらの研究が国に認められ、Sランクを授けられた。
・これからティルトソフィアは、ハイドの下につき、新しい班として行動すること。
・ただし、ほかの班と比べ圧倒的に経験が浅いため、しばらくの間は魔国の活動に制限し、修行と同時進行でギルドの活動に当たるとのこと。
・他の国の領土へ出ることはネロの許可が出るまで禁止。
との事だった。
「と、言うわけだ。2人とも、これからよろしくな。 特にティルはね」
「それじゃ、あたしはここで失礼するね。ソフィアちゃん、待ったね〜♡」
イヴがそう言い残し部屋を後にすると、ソフィアの方から、安堵の溜め息が聞こえた気がした。
「それじゃ、俺達も行きますか」
「すみません。ちょっと待って貰えますか?」
「まだ何か?」
「ティルさん。最後に私も、あなたの母親について聞いてもいいですか?」
ネロはティルに向け、不気味な笑顔を向ける。
「団長、あんたどうする気だ」
ハイドはティルの体の前に腕を出し、ネロからティルを庇うような形をとる。
「別に、何もしませんよ」
「顔と魔力はそう言ってないようですけどね」
「そんなことありません。ただ名前だけでも、聞きたい。そう思っただけです。どうですか?ティルさん」
「分かりました」
ティルは一旦間を置き、ネロに母の名前を伝える。
「母の名前は、【ゼシリア】です」
その名前を聞いた瞬間、ネロの瞳孔を開き、今まで感じたことの無い、重たいプレッシャーを部屋中に広げる。
「団長!いい加減に、」
【ハイド、少し黙っていなさい。】
「くっ……」
ネロの気迫に、ハイドは1歩下がる。
ネロはゆっくりとティルの元へ歩くと、先程のティルの答えに対し、もう一度確認するように迫る。
【繰り返させるようで申し訳ありません。あなたの親、ゼシリアで間違いありませんか?】
ティルはどうにか答えようと、声を振り絞る。
「間違い、ありません」
すると、ネロの放つ嫌な空気は徐々に消えていく。
「なるほど……ゼシリア。ゼシリアですか……。ははは。そう、ゼシリアがねぇ。へぇ……」
ネロは何か取り乱した様子で、顔を手で覆いながら、不気味な笑いを浮かべていた。
(この人、はっきり言ってやばすぎる。敵じゃなくて、本当に良かった。)
「取り乱してすみません。ありがとうございます。ティルさん」
先程までの恐怖感が完全に消えると、ティルは落ち着いたのか、自分の冷や汗の量に気づく。
(こんなに怖いって思ったの初めてだな。)
「すみませんが、最後にもうひとついいですか?これが本当に最後のお願いです」
ティルはこくりと頷き、了解の合図を体の動きで伝える。
「大丈夫ですよ。安心してください。先程のようなことはもうしません。その魔石、1度触らせて欲しいんです」
ティルは首にかかる紐を外し、魔石をネロに渡す。
「……ありがとうございます」
ネロは魔石を受け取ると、優しくその魔石を握りしめ、なにかに黙祷を捧げるが如く、目を瞑り祈る。その後何分か経つと、ネロは目を開け、ティルに魔石を返す。
「ティルさん。本当に、ありがとうございました」
「いえ、こっちこそ……なんか、すみません」
「あなたが気に病むことではありません。イヴの意見には私も同意です」
「それじゃ、俺達行きますからね?」
「はい。2人のこと、任せました」
ハイドが部屋の外に出ると、それに続いて、2人も部屋を後にする。
「「失礼します」」
と、頭を下げると、魔法陣とは反対側に歩くハイドの方へと進む。
「2人とも、大丈夫だった?」
「ええ、何とか」
「僕も大丈夫です」
「あの方、とても強いんですね」
「ま、魔国最強の魔道士と1番長い間苦楽を共にし、肩を並べてた人だからな」
「それって……」
「そ、ソフィアちゃんの思ってる通りだよ」
と、ハイドは背中を向けたまま、右手の小指を立て、こちらに見せてくる。
「あんな反応になるのも分かるだろ?あの人の行方不明の知らせが来た時、もっと凄かったんだからな」
「ちなみに聞いても?」
「色々やらかしてたらしいけど、1番記憶に残ってるのは……あれだな。とある犯罪者集団が住まう島をたった1分で壊滅させて、地図の上からその島を消したことかな」
(まじ……?もしかして、やばいギルド入った?)
横を見ると、ソフィアも同じことを思ったのか、若干顔をひきつらせていた。
「別に心配することは無いよ。あれ以来、団長、ずっと研究にご心中だ」
ハイドがそう言うと、出口のような扉が見えてくる。
「じゃ、とりあえず今日のとこは解散ってことで」
と言い、扉を開ける。扉が開くと見えてきたのは、ティルが最初に案内された、魔道具点の店の前だった。
「あ、、あれ?」
「これもうちの研究成果。とりあえず、明日から本格的に活動開始だ。いいか?」
「「はい!!」」
「うん。いい返事だ。とりあえず明日は……早いのは嫌だし、10時にはこの奥のロビー集合で。そんじゃぁね」
と、扉はパタンっと閉められた。
辺りは既に夕暮れを迎えており、想像以上に時間が経っていたようだ。
「じゃぁ、僕達も帰ろっか」
「そうしましょう♪」
ティルたちも帰ろうとした瞬間、
「ちょぉっと待ったぁぁー!!」
聞き覚えのある女性の声と同時に、背を向けている店の扉が開かれる。
そこに立っていたのは、ハイドではなく、受付嬢のアイラだった。
「まったく、あれほど終わったら、私のとこ来てって伝えた筈なのに……」
何か、愚痴のようなものをこぼした後、アイラは手に持っている2枚のカードをこちらに差し出す。
「2人とも、こちらどうぞ」
ティルたちはアイラからカードを受け取る。
「これはお2人の入構証になります。絶対に!ぜぇっっっったいに!!無くさないように!では、明日から頑張ってくださいね!!」
と、笑顔で手を振りながら、優しく扉を閉める。ティルとソフィアは、それぞれカードを仕舞い、各々宿へと帰っていった。
こうして、ティル達のギルド生活一日目は無事終了した。ネロの過去、ギルドの目的、それぞれの師匠との出会い、様々な出来事があったが、どれも刺激的で新鮮なもので、新しい世界への大きな1歩である。こうして、ようやく2人の冒険は本格的に始まるのであった。
第1話 「魔法研究所という場所」〜完〜