第1話 〜魔法研究所という場所〜 ①
ティルとソフィアは、東区のはずれ、中央区よりの場所へと向かっていた。
「指定された場所、ここらへん……ですよね……」
「う〜ん……そのはずなんだけどなぁ」
ティル達の入団するギルド、【魔法研究所】の指定した場所に向かうにつれ、周囲はどんどん暗くなり、徐々に怪しい雰囲気へと変わっていく。
そして、とある広場から細めの道に入ると、その怪しさは一気に増す。
「なんか、ここら辺やばそうだね。今すぐにでも犯罪が起こりそうって感じだよ」
「ええ。そうでッ!?きゃーーーーーー!!」
声を上げたソフィアの方を見ると、謎の布で顔を隠した女?に連れ去られていた。
「ソフィッ!?クソッ。誰だよあんた」
ソフィアを追おうと思ったが、先程の奴の仲間だろうか、同じような服装の男に行く手を阻まれる。
(なんだこいつら。どこから現れた?全然気配しなかったよな……。)
「君、魔法研究所の人かな?」
「さあね、僕ってそんな大層に見える?」
(おいおいおい、なにこれ?情報漏れてんじゃん。このギルド大丈夫かな?仮にも国のTOP3でしょ?)
「ふ〜ん。じゃ、きみがティル君ね……」
「だから、知らッ!!」
返答しながら男の剣を受け止める。
「話はッ!最後まで聞いて欲しいかなッ!!」
ティルは話が終わる前に若干苛立ちを覚えながらも、ソフィアのこともある為、最初から本気で挑む。がしかし、突然現れたこの男は意外と手強く、ティルのスピードに軽くついてくるだけでなく、実力の底を見せない、そんな相手だった。
その後も2人は、数分の間、お互いの剣撃を捌きあう。
(こいつ……、なかなか強いかもね。早くどうにかしないと、本気でソフィアやばいかも。あっちの敵もこの位強かったら、いや、これ以上の可能性も……。)
「ふぅん、なるほどねぇ。大体理解した」
「ん?どうした?急に」
ティルは相手の雰囲気に、何か異様な気配を感じたのか、一旦距離を取り、武器を構える。
「おい。一度しか聞かないからよく聞けよ?」
(???)
男が意味の分からない事を口にすると、急に動きが変わった。
「先ず一つ目」
男は、大袈裟に剣を振り上げ、垂直に武器を下ろす。ティルはその攻撃を躱し、反撃しようとしたが……、
「ぐぁッ…」
男はティルの動きに一切怯むことなく、ティルのカウンターを誘ったのか予期していたのか、視線を変えずに放たれたそのパンチは、ティルのみぞおちを正確に捉えていた。
「動きに振り回されすぎ。それじゃあ、急な攻撃に対応出来ない。後先のことを考えながら戦え」
(え?何この状況……。なんで僕、今この人にアドバイス受けてんの?)
「次に、基礎が全くなってない」
男はそう言うと、背筋を伸ばし、ザ・剣術のような構えをとる。
「あらかた、見様見真似、感覚、直感的に動いてたんだろうが……」
ティルは男の放つ攻撃を最初こそ捌いてはいたが、徐々対応出来なくなっていき、お得意のカウンターにはどう頑張っても繋げられなかった。
「そんなんだから、こんな俺でも、適当に剣を振るうだけで相手を出来るし、」
ついには体勢を崩されてしまい、剣ごと両腕を上方向に弾かれ、大きな隙を作ってしまう。
(適当って……。)
「こういう不安定な場所、特に狭い場所なんかじゃ簡単に遅れをとる」
すると、男は一瞬のうちに目の前から消える。
「速ッ!!!」
とティルが相手の速度に驚くと同時に、体は思いもよらない方向へと動き始める。どうやらあの男に、広場の方へと投げ飛ばされたようだ。
(なんだこいつッ!強すぎんだろッ!運び屋なんて目じゃないぞ、これ!!)
「そして、、、」
男は、最初に剣を交えた時と同じような攻撃をしてきた。
(ちくしょう。ならこれで一泡吹かせ……。)
と、ティルはその攻撃をいなし、反撃を取ろうとする。しかし、男は体制を崩すことなく着地すると、そのままティルに足払いをかけ、転倒させられる。
(おいおい、まじかよ……。)
「お前の技は、ほぼ初見殺しみたいなもんだ。そこそこの奴らなら、手こずるかもしれないが、そう見せびらかすもんじゃない。一度見てしまえば、案外対策は簡単だ。 」
「…………」
「君はセンスはいいけど、それ以外がからっきしなのが弱点だな」
男は剣先を、ティルの首元に突きつける。
「だからこそ……」
「…………」
そして、剣を…………
「経験を積むことだな」
男は剣を納め、こちらに手を伸ばす。
「へ?」
「いいぜ。合格だ。いい線行ってるよ。今後が楽しみだ。さあ、ようこそ、【魔法研究所】へ。俺は【ハイド】。これからよろしくな。少年」
突然襲ってきたハイドと名乗る男、短髪の黒髪でボッサボサの男は、さっと自己紹介を終える。
(なんなんだよ……全く……。)
「はぁ……。ほんっと、大変手の込んだ歓迎どうも……」
「そう。それと最後に」
ハイドはティルが起き上がりはじめ、中腰になったあたりで、パッと手を離す。ティルの腰は再び地面へと向かう。そして、ティルは前方を確認すると……
(ウッソだろッ!!)
ハイドはティルの顔面に向け、パンチを繰り出していた。ティルは、どうにか避けようと背中で受身を取り、後転のような形でそのまま距離をとる。
「うん。それそれ」
(この人、本当になんなんだ?)
「それは君の強み、いい武器になる。大事にしな」
「…………うす」
「じゃ、着いてきな。案内する」
ティルは納得のいかない顔をしながら、渋々、男について行くことにした。