表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
第0章 冒険が始まるちょっと前の話
14/68

第0章 〜エピローグ〜

 とある一室の窓の外から、柔らかい風が部屋へと立ち込める。ここは、アグニア東区の外れにある小さな診療所である。そこには、1人の少年が、眠りについていた。先の異常な試験を乗りきった、新たな冒険者【ティル】である。そして、その冒険者は目を覚ます。


「うぅ、うううぅ………………」


(ここは……どこ……?)


 目を開くと、見覚えのない白い天井が広がっていた。そして、体を起こそうとするが……


(あ……れ……?)


 体を上手く動かせずに、全身をモゴモゴさせていた。すると左の方からコトッ、と花瓶を置く音が聞こえる。なんとか、顔だけをそちらへと向けると、そこには涙を流す少女がいた。


外からの日差しが、少女の流す涙に反射し、キラキラ輝く。窓から流れてくる風に長い髪がなびく。その、綺麗な顔立ち、美貌、外の風景が絡み合い、思わずティルは見蕩れる。


「お……おはよう……ございます」


「お……おあおう?」


 一体何日位寝ていたのか……ティルは上手く声を出せないながらも、挨拶を返す。


「1週間……」


(1週間?)


「ずっと寝ていたんです…………このまま……目を、覚まさないかと……」


 と、泣きながらソフィアは、ティルの手を両手で包みこむ。


「本当に……良かった……」


 ティルはなんとかソフィアに答えようと、できるだけ、簡潔に言葉を放つ。


「ごえんね、あいあと。もう、あいじょうぶ」


 ソフィアは、その言葉を聞くと、ティルの手を包む両の手に力を込め、


「はい!!」


 と、全力の笑顔で答える。


 すると、部屋の扉がガラガラとゆっくり開けられる。そこには、何度か見た事のあるガタイのいいおじさんがいた。マグナイルである。


「おー、寝坊助、起きたか〜?」


 ソフィアは、顔を赤くしティルから慌てて離れる。


「やるな、坊主。その年で、こんな綺麗な姉ちゃん侍らせるとはな……」


「ひ、ひあ…………」


「無理すんな。冗談だ」


(ティルは軽く目を細める。)


 そして、男は続ける。


「まずは、合格おめでとう。ほれ、お前さんの手帳」


 と、ポンッと投げられた黒色の手帳を受け取る。最初に貰った冒険者手帳とは違い、ずっしりと重みを感じる。


「どうだ?それが本物の手帳だ。この間渡されたやつとは違うだろ?ほんで、これ」


 男は2枚の紙を渡してきた。


「これ……は?」


 ティルは目覚めてしばらくしたからか、上手く体を動かせるようになっていた。


(こいつは、なかなか……。)


 マグナイルはティルの回復の速さに感心する。


 ティルはマグナから受け取った紙に目を通すと、書いていることに、驚きの表情を浮かべる。


「そら、当然の反応だ。それは、お前さんに充てられた、スカウトみたいなもんだ」


 渡された紙はティルへの招待状だった。なんと、そこに書かれていたのは、このマグニアに、3つしかないSランクギルドの内、【魔法国騎士団】【魔法研究所】の2つのギルドからだった。


「もちろんその2つ以外、というか、ほぼ全てのギルドから声がかかってたんだがな……。俺の独断と偏見でAランク以下は、全て断った」


(おい。)


 と、ティルは何勝手な判断してんの?みたいな顔をして、マグナイルを軽く睨む。


「おいおい、そんな顔すんなよ。お前さん、強くなりたいんじゃないの?」


 ティルは、遺跡の深部での出来事を思い出す。


「何があったかは聞かないけど、相当な思いをしたはずだよな」


 ティルは無言で頷く。


「だろ?ちなみにオススメは魔法研究所だな」


「え?魔法国騎士団じゃないの?あなた、副団長なんでしょ?」


 ティルは予想外の言葉に、思わず素の口調で答えてしまった。


「す、すみません……」


「いや、いいよ気にすんな。おじ……。お兄さんはな、懐が……広いんだ……。はァ……」


 マグナイルは自分のことを、おじさんと言いかけたためか、すごく落ち込んでいた。


「それはいいや。あれだ、うちのギルドはどっちかって言うと、国の中だけでやる仕事が多いからな。それに比べ、魔研だと色んな国に行ける。その分経験値もでかいし、学べることも多い」


「なるほど……」


「まぁ選ぶのはもちろんお前さんだ。うちに入りたいって言うんなら、止めはしないし俺も歓迎する」


 マグナはそう言うと席を立ち、扉の方へ向かう。


「じゃ、これで仕事は終わったんで失礼するよ。俺には、待ってるものがあるんでな」


 そう言い残し診療所を立ち去る。マグナイルが帰るとティルは、診療所でシャワーを浴び自分の荷物をまとめ、退院の手続きを取る。その後リハビリがてら、ソフィアと共に東区を散歩することにした。ティルが寝てる間、様々なことが起きていたらしく、ソフィアが色々話してくれた。その内容を簡単に纏めるとこうだ。


・ソフィアも、色々なギルドからスカウトがあり、ティルと同じ【魔法研究所】からもスカウトがあったこと。


 ・シースは受けた傷が酷かったためか、今でも昏睡状態で、いつ目を覚ますかわからない状態だということ。


 ・他の冒険者の中にも、魔法が使えなくなった人が多数おり、とりあえずマグニアで様子見とのこと。そして、その人達共通で言えるのは、常にビクビクしており、何かを恐れているように見えるということだ。


・ハルナは何があったのか、あの試験以来1人で行動するようになり、他の人と距離を置いているらしい。たまに協会等であったりするが、表情はいつも暗く、以前のハルナとはうってかわり、全くの別人に見えたとの事。


 ・ガルド達も無事合格し、今はBランクギルドの下っ端として汗水垂らしながら働いていること。


 ・シュナイドとレンは故郷である武国へと帰ったらしいとの事。


 その他、試験での出来事、この一週間の出来事などの世間話をした。結構な間歩いていたのか、既に太陽は沈んでおり、2人は東区にある広場のベンチに座っていた。


「ソフィアはさ、これからどうするの?」


「私は……」


「良かったらさ、一緒に魔研に行かない?」


 ソフィアは、ティルを見つめる。


「ほら、言ってたじゃん。遺跡の最深部で最後に」


 ソフィアは何かを思い出したのか、顔を赤く染めながら慌てて弁明をする。


「いや、あ、、あああ、あの時は、そ、そそその……勢いというか…………。なんというか……」


 そんなソフィアの慌てる様子を見て、ティルは軽く笑う。


「僕、嬉しかったんだ……」


 ティルは一呼吸置いて、続ける。


「初めて、生きなきゃって思えた」


 すると、南区の方向から花火が打ち上げられる。なにかの祭りかイベントのようだ。


「だから、・・・・・」


 ティルの言葉はひとつの大きな花火の音にかき消され、ソフィアの耳にだけ、その言葉は届く。


ソフィアは、深く息を吸い息を整えると、


「はい!」


 と、満面の笑みで、頷いた。


 この花火は、新たな冒険者の誕生の祝福なのか、それともこれから始まる戦いの開戦の狼煙となるのか…………。


 こうして、自力では魔法の使えない少年【ティル】と、美しい歌声を持つ少女【ソフィア】の儚い物語は始まるのであった。


 第0章 「冒険が始まるちょっと前のお話」 〜完〜


ここまで読んで頂いた方。本当にお疲れ様でした。

これにて0章は終わりになります。


この0章実は、「こういう物語があったら面白そうだな……よし、書いてみよう!」的なノリで始めた話で、練習がてら書いてみたものになります。内容的には、【物語全体を通してのプロローグ】って感じのイメージです。


つまりはそう、本番はこれからです。


ティルとソフィアが今後どう成長し、どんな冒険を繰り広げるのか……。


果たして、私の文章力は上がって行くのか………。


なんにせよ、今後もこの【魔法の溢れる世界で君と唄う】は続きますので、見かけたらぜひ手に取って頂けたら幸いです!


では、来週からは第1章『魔都奔走編』開始です!!


今後も応援の程、よろしくお願いします!!!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ