閑話 御伽話「殺戮の歌姫」
昔昔、ある辺境の村に
一人の少女が産まれました。
しかし、
その少女の生まれた家庭は貧しく、
両親は死んでしまい、
少女は村の人達と暮らしていました。
ある日、その少女は、
村の外に散歩に出かけました。
その少女は、歌を歌うのが大好きで、
毎日毎日、誰もいない草原で
歌を歌っていました。
すると、なんということでしょう。
彼女が草花に心を込めて歌うと、
その草は成長し、花は咲き誇り、
木には果実がなりました。
その噂は国、大陸中に広がります。
そんな噂を聞いた国の王様は、
少女を国へと招待しました。
そして、王様の目の前で、
その歌を披露すると、
見事、目の前にあった花を、
一瞬にして咲かすことが出来ました。
王様は、これで民が飢えずに過ごせる。
そう考えると、少女を国の中に招き入れ、
裕福な暮らしをさせてあげると約束し、
少女の歌を手に入れました。
少女はしばらくの間、
その王国で何一つ不自由なく、
仲良くなった、一人の兵士と共に、
過ごしていました。
ですがある日、事件は起きます。
彼女は国のすぐ近くにある森に
遊びに来ていました。
そこで、怪我している子犬のような
モンスターに出会います。
少女は、そのモンスターが苦しまぬようにと、
優しく、優しく歌を歌ってあげました。
すると、その子犬は怪我が治るだけでなく、
立派な狼の姿へと成長しました。
そして、その狼は少女に懐き、
森の中を共に遊ぶようになりました。
ですが、それは森を巡回していた、
国の兵士に見られてしまいます。
兵士は国に帰ると、
見た事を王様に報告します。
すると、ある研究者は言いました。
この娘の歌は、生物を強くする歌だと。
そこで王様は考えました。
兵士を強くさせることができると。
そしてその日以降、
少女は植物だけでなく、
怪我をした、小さい動物、モンスターに歌うよう、
王様から命令を受けました。
少女はなんでモンスターに歌うの?
そう、ずっと思っていましたが、
それでも歌い続けました。
そしてある日、
少女はたくさんの兵士の前に
駆り出されます。
王様は、少女に命令をします。
この人達に歌を聞かせてあげて欲しいと。
少女は、明るく、うんっ!
と、返事をして、兵士たちに歌いました。
すると、なんということでしょう。
モンスターには薬だったはずの少女の歌は、
人間にとって毒だったのです。
多くの兵士たちは、苦しみだし、
何人もの兵士は死んでしまいました。
少女は、思いもよらない
そのおぞましい光景に、
泣き出してしまいました。
それを見た王様は、少女が危険だと判断し、
処刑をすることに決めました。
そして、少女と暮らしていた兵士は、
王様から少女を殺せと命令されます。
ですが兵士は思います。
なぜ、彼女が殺されなければいけないのか、
これは、欲を出した王様が悪いと。
そしてその夜、兵士は少女を連れ、
国の外へと逃げます。
少女は最初戸惑っていましたが、
国の様子から自分を
殺そうとしていることを悟り、
その兵士と共に逃げました。
2人は森へはいると、
1匹の狼と出会います。
彼女が最初に歌った、あの狼です。
そうして、しばらくの間、
森の中で3人仲良く暮らしました。
数年経ったある日、
3人の元に、見覚えのある服を着た、
2人組の男が訪れます。
そう、あの国の兵士です。
怪我をしたので助けて欲しいと、
その2人組は言いました。
少女を連れ出した男は言います。
この人達を助けずに、
他の場所へ逃げようと。
ですが、少女はそれを許しませんでした。
少女は、2人が完治するまでの間
面倒を見続けました。
そして、2人は無事怪我が治り、
国へと帰って行きました。
男は言います。
今すぐここから離れようと。
ですが少女は、兵士たちを信頼したい。
何よりこの森が好きだったので、
ここ残りたいと言いました。
男は仕方がなく、
少女と共にこの森に残ることにしました。
ある日、少女は日課である、
森の散歩をしていました。
ですが、その日の森は何やら暗く、
怪しげな雰囲気をしていました。
そして、お家に帰ると、
少女はあまりの光景に
言葉を失っています。
なんと、一緒に暮らしていた狼と、
男が殺されていたのです。
少女は、下を見ると、
2人の男の死体がありました。
あの時助けた2人の兵士です。
そして前を向くと、昔見た事のある男が、
笑いながら座っていました。
昔、花を咲かせた時に、
王様のすぐ横にいた、兵士です。
少女は、怒りが抑えられなくなり、
その男に向け、歌を歌いました。
できるだけ苦しむようにと、
願いを込めて。
すると、その兵士の全身から血が吹き出し、
兵士は死にました。
それを見た、少女と共に暮らしていた男は
囀るように少女に言います。
済まなかった。君を傷つけたくなかった。
手を汚させたくなかった……と。
少女はその男を抱きしめ、
徐々に無くなる温かさを感じながら、
徐々に心の底から溢れてくる
寂しさを感じながら、
一晩中泣き叫びました。
そして、次の日、
少女は家で、ある紙を見つけます。
それは少女の賞金首の張り紙でした。
少女は、それを見て泣き出してしまいました。
どうして我儘をしてしまったのかと。
男の自分に対する優しさを感じたこと。
そして、その男の愛を、
もう二度と感じられなくなったことに。
少女は歌いました。
安らかに眠ってと。
今までありがとう、愛していると、
優しい思いを込めて。
すると、何やら外から
変な匂いがしてきました。
森が焼かれていたのです。
どうやら、国の兵士が、
少女がこの森にいると知り、
森を焼き払ったのです。
少女はとあることを決意し、
森を焼き払った、愛する男を殺した、
あの国へと足を踏み入れます。
そして、少女は、王様の元へ行きます。
なぜ、あんなことをしたのか、
なぜ私たちを殺すのか、
そう問いただします。
これは彼女の最大限の恩情です。
彼女の愛した男の思いを考え、
最後の最後まで、国を滅ぼすことは
避けていました。
そしてある条件を出します。
もう二度と自分にかかわらないこと。
自分に対し、謝罪をすること。
最後に、妻か息子のどちらか
殺させることです。
王様は言いました。
わかった。しかし、最後の条件だけは
考えさせて欲しいと。
そうして、少女はお城のとある部屋に
案内され、朝までここで、
過ごすように言われました。
そして次の日、目が覚めると、
そこは、処刑台の上でした。
手は塞がれ、足は固定され、
1番恐れられていた、
口も縄で塞がれていました。
少女は思います。
ああ、なんて人間は愚かなのか……
ああ、なぜ私はいつもこうなのか……
ああ、この世界に救いは無いのか……
そして…………
ああ、なぜあの人が死んで、
ここにいる人たち…………
私は生きてるのだろうか…………、と。
すると、彼女から黒い色の、
とっても嫌な空気が溢れ出します。
やがて、その空気は国中を覆い、
全ての者を苦しめます。
兵士、国王、住民……
そして、彼女でさえも……。
彼女の放つ空気は、全ての命を
吸い尽くしました。
だが、彼女だけは
死ぬことはありませんでした。
彼女は、その事にさえも、絶望を覚えます。
時が経つと共に、彼女の空気は、
国境を越え、山を越え、
大陸さえも飲み込みました。
そして、彼女を縛っていた、
縄も、鎖も消え、
彼女は歌い始めました。
全ての生き物を許さないという
思いを込めて……。
こんな世界なんていらないという
思いを込めて……。
私の愛した人達を返してという
思いを込めて……。
そして……。
……私を助けて、と思いを込めて。
閑話 御伽話「殺戮の歌姫」