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魔法の溢れる世界で君と唄う   作者: 海中 昇
第0章 冒険が始まるちょっと前の話
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第10話 〜遺跡の深部〜

 謎の地震と共に落下した2人は、恐らく、1つ下の階層であろう、薄暗い通路にいた。


「っててて……」


「ティルさん、大丈夫ですか…」


「ま、まあね……でも、ちょっと足痛いかも……」


 落下したのは、おおよそ15〜16m位だろうか。ソフィアを庇いつつ、受身を撮ったつもりだったが、それでも体にダメージは残る。


「少し待ってください。治療します」


 ソフィアは微笑みながら、ティルの足を覆うように手を構える。すると、その周りに暖かい光が現れ、先程まで感じていた痛みはみるみる消えていった。


(すっご。これハルナの魔法よりも早く治ってる。)


「ソフィアは大丈夫なの?」


「はい……何とか……」


「良かった……。にしてもなぁ……」


 ティルは辺りを見渡す。見た目こそ、先程までと同じだが、明らかに雰囲気が変わっている。それに落ちてきた場所を見上げると、とてもじゃないが2人で登れる高さでは無い。とにかくシース達と合流するため、辺りを探索することにした。


 歩き始めて5分くらいだろうか、少し先の方に小さい影が見える。ソフィアにも止まるようにと、右腕で静止するように合図を送る。流石に今までの雰囲気と違うため、油断をせず、慎重に行動する。少しづつ近ずいていくと、影の正体が分かる。


「なんだ、ゴブリンか……」


 と、ソフィアが安堵しホッと息を吐いた瞬間、


 シギャァーーーーー


 ゴブリンが雄叫びを上げ、突っ込んできた。


(こいつっ、はやっ。)


 先程戦闘した大蛇程早くないが、それでも普段見かけるゴブリンとは比べ物にならないほどの素早さだった。


 それだけでは無い、普段のゴブリンとは違う所が何点もある。武器は持たず、やや大きめの研ぎ澄まされた牙で攻撃する点。普通に移動する時は2足方向なのに、攻撃態勢になると四足方向になり、壁、天井を縦横無尽に素早く動く点。理性の欠片もなく、ただただ殺意に満ち溢れ、相手を殺すためだけに行動する点。その他、様々なところが普通のゴブリンとは違う、凶暴で好戦的なゴブリンだった。


 ティルは余裕を持ってかわす。しかし、ゴブリンの目指す方向は変わらない。


(こいつっ、最初からそっちが狙いか。)


 ゴブリンはソフィア目掛けて、一直線に喰いかかる。


「させねーよっ!!」


 ティルは咄嗟に、ゴブリンを壁に向け蹴り飛ばす。


(あっぶねー。)


 と思ったつかの間、ゴブリンは受身をした後壁を蹴り、ティルに飛びかかる。だが、反応速度、瞬発力、スピードはティルの方が上。飛びかかってきたゴブリンを軽々躱し、カウンターを急所に当て、一撃でゴブリンを仕留める。


(こんなのがうじゃうじゃいんのかよ。)


 ティルは戦闘が終わり、フゥっと息を吐く。


「流石です……。やはりいつ見ても、凄いスピードですね」


「ま、まぁね……。ソフィアは大丈夫だった?」


「お陰様で」


 2人はしばらく探索を続けた。


 この階層で出会ったモンスターは、上の階層で見たモンスターと同じようなモンスターしかいなかった。しかし、先程のゴブリン同様、凶暴で高レベルのモンスターばかりで、気の抜けない状況が続き、2人に疲労が溜まっていく。


 その後、道なりに進んでいくと、ようやく道以外の場所。広場へとたどり着いた。


「なんだか、やっと進んだ気がしますね」


「そうだねぇ。久しぶりに道以外の場所見たよ」


(それになんだろう……この気配……。)


 そんな謎の気配を感じると、2人の後ろで、ゴトっと音がした。ソフィアは振り向くと、口を抑えながら、驚いた声を上げる。


「なっなに……これ……」


 そこに現れたのは、今までに見た事のない、気持ちの悪く不気味で、どこか近寄り難いモンスター?だった。


 大きさ、形は普通の人間と変わらないが、首から上に頭は無い。その代わりに、うねうね動き、青白く発行する触手が生えている。そんな全身真っ黒の謎の人型のモンスターだった。(以下、謎人。)


「うんわぁ、あれはなかなか不気味だね……」


 と、ソフィアの方を見ると、顔を青白く染めながら体を震わせていた。


(確かにあんなのが目の前に現れたら、そうなるわな……。まあ、いっちょやりますか!)


 ティルは謎人の元へと駆け出した。


「まっ……て……」


 ソフィアは、ティルを呼び止めようとするが、声が届く前にティルの姿は無くなっていた。


(こいつ、大蛇の時よりかやりやすいな。)


 と考えながら、早速謎人を圧倒していた。先程の大蛇に比べて遅く、力も弱い。なんなら、道中出会ったゴブリンの方が脅威である。


(やっぱり、そんな強くないな。こいつ。)


 ティルは、謎人を圧倒しながら切りつける。謎人は、ティルの攻撃を防ごうと武器を構えるも、ティルは武器を難なく弾き飛ばし、そのまま流れるように右腕を切断する。


 切られた右腕は床へと落下すると、ぶくぶくと音を立てながら、真っ黒な液体へと変化した後、空気中へと蒸発した。


(うわぁ、結構グロいな。)


 そんな、グロテスクながらも目を引く光景に見蕩れていると、謎人からストレートがやってくる。


 ティルはいつもの通り、攻撃を受け流そうとするが……。


(なんか、やばい気がするな。)


そう考え、あえて攻撃には転じず今までよりも、相手へと意識を向け集中する。


 すると、謎人は攻撃が弾かれると同時に、ティルの腹目掛けて、うにょる触手を鋭利な形へと変化させ、突き刺そうとしていた。


(あっぶねっっ!!)


 と、バク転で回避した後、低い姿勢で着地する。その後、謎人の背後へと周り、残る左腕を切り落としソフィアの元へと戻る。


「ソフィア?」


 ソフィアの方を見ると、何やら困惑しながらキョロキョロと周りを見渡していた。何度か声を掛けたが、声が届いてそうにないので、肩をポンッと叩いた。


「あひぇ!!?」


 ソフィアはびっくりしたのか、素っ頓狂な声をあげた。


「ソフィア?大丈夫?」


 ティルは再び声をかけると、ソフィアは荒ぶる息を整え答えた。


「はい。もう大丈夫です」


「うん。なら良かった」


「遅れましたが、行きましょう!」


 すると、先程まで見せていた怯えた顔とは違い、何か覚悟を決めた、そんな顔をしていた。2人は謎人へと武器を構えると、衝撃の光景を目にする。


 謎人はどこから取り出したのか、先程までは見られなかった、ゴブリンとスライムを触手で捕まえており、それらを首から吸収していた。謎人の吸収の儀?が終わると、謎人の腹部(恐らく魔臓だろうか)が光り出すと同時に、スライム状の左腕、先程よりもごつい右腕が生える。


「おいおい……なんでもありかよ……」


「だけど、攻めるべき場所は見えましたね!」


「ま、まあ、そうだね」


 2人は謎人の急所があの光る魔臓だと、直感で理解した。


「では、行きます!」


 ソフィアは片手杖を構えると、ティルに支援魔法を唱えた。


(おおお、これがソフィアの魔法か……。)


「よしっ!じゃ、援護よろしく!」


 ティルは飛び出すと、すぐさま戦闘は開始する。


「はいっ!任されました!」


 ソフィアも片手杖を構え、魔法を唱えつつティルの援護を開始した。ティルは戦闘が始まると、ソフィアの支援魔法もあり、楽勝だと考えていたが、実際そんな甘くはなかった。


(この左腕……スライムみたい……。結構やりにくいな……。)


 それだけでは無い。左腕の攻撃も先より一層力強く、頑丈になっていた。一瞬やばい、と思ったティルだったが、それは考えすぎだった。ソフィアがかけてくれた支援魔法のおかげで、難なく弾き返すことが出来た。


(右腕だけなら何とかなりそうなんだけどな。)


 そんなことを考えていると、左方向から来る攻撃に、反応が遅れてしまった。


(やっべっ!!)


 ティルは深手を覚悟したが、その左腕には光の槍のようなものが突き刺さり、辺り一面にスライム液体状の液体が弾け飛ぶ。


 後ろを見ると、ソフィアの構える杖の先で魔法が放たれた痕跡があった。更にそれとは別に、ソフィアの真上でもう一つ、より大きな槍が形成されていた。ソフィアは、『任せて』と言わんばかりの目をこちらへと向ける。


(おっけ。了解!)


 と、ティルも意気込み、謎人の攻撃を捌き続ける。


(よし!左腕もなくなったし、こっちの……、ま、そんな都合よく行かないよね。)


 厄介な左手も無くなり、有利な展開になると思ったが、散らばった左腕は何も無かったかのように復活する。しかし、先程のソフィアの援護もあり、差程不安はなかった。


その後も、ソフィアの準備が整うまで時間を稼ぐ。


「ティルさん!」


 どうやら、ソフィアの準備が整ったようだ。


(この魔法、絶対外させないし、逃がしもしない!!)


 今のこの場の配置は、ティルの正面に謎人。そして、2人の延長線上に、ソフィアが居る。ティルは謎人との攻防を続けながら、色々なパターンを想定し、最善策を考える。


(考えろ!俺の動き、魔法の速さ、相手の癖、最善のタイミング……。場所……。)


 そして、目の前にいるこの敵を倒すイメージが固まった。


「ソフィア!僕の合図で真っ直ぐ打てっ!!」


 ソフィアは一瞬躊躇うも、口に溜まった唾を飲み、


「わかりました!信じます!」


 と、叫び両の手を真っ直ぐ謎人へと向ける。ティルはソフィアの声を聞き、その時が来るまで攻撃を耐え続ける。そして、ティルは謎人の魔臓付近の皮膚を切り裂いた。


(よし!ここ!)


「ソフィア!!」


 ティルの合図で、ソフィアは巨大な光の槍を謎人に向け放つ。すると、謎人もこれはまずいと思ったのか回避を優先して行動をとる。だがティルはそれを予測し、謎人の回避した方向へと先回り。ソフィアが放つ魔法の直線上へと押し戻す。


(うん。これは決まったな……。)


 光の槍は謎人の魔臓を貫くと、空中へと霧散しそれと呼応するように、謎人の体も崩れ始め、空気中へと蒸発していく。


(あり……と…………)


 ティルは何かが聞こえた気がし、当たりを見渡す。


 どうやら、気のせいではなかったようだ。ソフィアの方を見ると、謎人のいた場所へと手を合わせていた。


「なんだったんだろうね。今の」


「そうですね……。でも、良かったです」


 ソフィアは、少しだけ迷いの晴れた顔をしていた。


 先程戦った大蛇よりは苦戦しなかったものの、長期的な戦闘、探索が続き、2人共疲弊していた。それを考えたティルは、ソフィアに休息の提案をする。


「この辺、モンスター出ないみたいだし、しばらく休まない?」


「そうですね。私も疲れましたし ♪」


 こうして、2人は久々の休息へと着き、更なる探索へと体力を回復することにした。


 第10話 「遺跡の深部」 〜完〜


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