【#3】 『毛玉』 ★☆☆☆☆
私の名前は土金ムナ。
年齢は十五歳、一人の人間である。
姉は言うまでもなく悪戯が好きであって、いつも姉の脳内では私に齎す悪戯のことしか考えてないだろう。
今は丁度、目覚めの朝。
起きてすぐ、階段から降りているところである。
階段から降りるとすぐ、小さな毛玉が所々に落ちているのに気が付いた。
これは……猫の毛かな。
「おねぇちゃーん、ちょっと来て!」
私はすぐに姉を呼んだ。
理由は簡単、自分で猫の毛拾いをするのは面倒くさいからである。
「あっ、起きてたんだ。おはよう、どうしたのムナ?」
猫を胸に抱えた姉はベランダから何気なく出てくる。
どうしてベランダにいたのかは知らないが、猫が逃げ出したら……と考えるとあれなのでやめてほしい。
「これ、猫の毛でしょ。落ちてるから拾って……」
「それ、ムナの髪の抜け毛じゃないの? だから自分で拾ってよ」
そんなわけないだろ。
寝起きから冗談はやめてほしい。
そもそも、私の髪の毛は白色じゃないし……。
白髪ってことも無いだろう。
こんなに長い白髪があったら気づかない分けが無いからな。
「とにかくこれは、今おねぇちゃんが手に抱えている猫の毛です! だから、おねぇちゃんが拾うべきですよ!」
「そっか~、この猫ちゃんの抜け毛か~。だとしても、最初に毛玉を見つけたのは誰だったっけな……?」
なっ、最初に見つけた人の責任にするのは卑怯だな。
「――でしたら、抜け毛の原因を作ったのは誰でしたか。猫を飼い始めて一週間、猫さんにブラッシングは何回したんですか? まさか、一回もして無いなんて言いませんよね?」
「えっと、一回もして無い……かな」
やっぱりそうですよね。
「何となくは分かってましたけど、これは私に猫さんを全く触らせてくれなかった罰です。さっさと拾ってください。それと、拾い終わってからブラッシングもちゃんとしてあげてください」
「…………」
流石にこれは、言い過ぎたかな。
返事が返ってこないともなると心配にもなる。
「おねぇ……ちゃん?」
「……フフフフ」
姉は突如として笑い出す。
え、急に何なんですか。
「きゅ、急にどうしたのっ、おねぇちゃん!」
「――今日、何故私が早く起きたのか分かるかね?」
「猫の世話をしたかったから?」
「それも一理あるな! だか違う、学校だよ学校! 今日は学校があるんだよっ!」
「それなら私だって……」
「――甘いな、妹よ。アタシの通っている高校はここから電車で一時間。それくらいかかる場所にある。だがムナの学校はどこだ? ここから数十分か歩けば着くところでしょ。そしてアタシはこの後すぐの電車に乗らなければ学校には間に合わない。朝ご飯はあっちの机の上に乗せておいた! だからムナよ、あとは任せた!」
猫を私の頭に乗せると、姉は近くにあった鞄を持って逃走。
そしてすぐに、家から出た。
「まさか、逃げ出す準備まで出来ていたとはな。流石姉だ。でも一つの毛玉ごときで逃げることはありましたかね……」
私は腰を下ろして、猫を床に降ろすとその塊となった毛玉を拾い上げた。
たった一つの毛玉を拾うだけ……こんな簡単に終わることなら、最初からこっちが拾っておけば良かったですね。
姉との会話で目を覚めた。
「姉も出たし、そろそろ私も学校に行く準備でもしますかね」
私はご飯を作ってくれたと言う机へと向かう。
そしてまた、悲劇が起きた。
床に、錯乱状態で散りばめられている猫の抜け毛が大量に落ちていたのだ。
「おねぇちゃん! そして猫さん、今日おねぇちゃんが帰宅したらブラッシングしてもらいましょうね……」
まさか、姉の逃げた理由がここにもあったとはな。
私はそう言って、戸棚からほうきを取り出した。
面倒くささMAX( 一一)。