【#1】 『ストーカー』 ★☆☆☆☆
※タイトルの右に表示されているのは悪戯レベルです。
私の名前は土金ムナ。
年齢は十五歳、一人の人間である。
私は今、人生において最も単純な犯罪に会っている。
決して、脅されたり、何かを盗まれたりしたわけでもない。
私が今受けている犯罪。
それは、ストーカー行為である。
「――で、いつまでついてくるつもりですか? おねぇちゃん……」
後ろを振り向くと、黒い眼鏡にマスクの女性。
――私の、姉がいた。
蛇足だが、姉は普段なら黒い眼鏡にマスクなど全くもって付けていない。
私にバレないように変装したつもりだが、もう既にバレてるぞ。
あ、でもまだ言うタイミングが早かったかな。
気付けば、姉は電柱の後ろに隠れている。
勿論、こちらからはバレバレだが数メートルほど離れた姉には私の声は届かなかったらしい。
なら、もう少し歩いてみるか。
一歩一歩歩くごとに自分の足音と共に姉が付いてくる足音も聞こえてくる。
自分が止まるともう一つの足音も止まる。
そんな時間が、数分と続いた。
――て言うか、姉はどこまでついてくるつもりなんだ。
私の頭に一つ疑問が生まれた。
家から出て十分ほどが経過したが、未だに後ろから追う足音が消えることは無い。
まあ、本物の不審者でないだけまだましか。
私以外の通行人が後ろからついて来る姉をどんな目で見ているかどうかなぞは知らないけどな。
周りからの不審に姉を見る視線も気になるし、そろそろもう一回声かけてみるか。
「おねぇちゃ――」
私は後ろを振り返って姉に声を掛けようとしたが、私が振り返った瞬間、姉はすぐさま電柱の後ろに隠れた。
今回はばっちり見えてた。
姉が隠れる直前、少し目が合った気がするのは気のせいじゃない気がする。
そして、数秒だけど沈黙の時間が続いた。
姉はまだ私のストーカーを続ける気か?
別にそれでも良いか。
私も、目的地まであと少しで着く。
姉がどこに向かっているかなんて知らないけど、取り合えずその時にでもネタ晴らししますかね。
最初から知ってたよってね。
「やっと着いたな、コンビニ」
私は大げさにそんなことを言って一息つく。
歩いて15分、やっと今日の目的地であったコンビニへと着いたのだ。
姉はと言うと、電柱の変わりに車の後ろに隠れている。
ま、あれは無視しても問題ないかな。
ストーカーな姉には一応、せっかくついてきてくれたのだからアイスでも奢ってやるかな。
あとは雑誌とお菓子を自分に……
こうして、私がコンビニへと足を踏み入れたその時だった。
「ムナよ、コンビニに入る前にちょっと待ちたまえ!」
姉が、私の前に立ち塞がった。
「姉――じゃなくておねぇちゃん! ここまでストーカーしてきたって上で買い物妨害ですかっ! 邪魔ですのでやめてくださいっ」
姉のしたいことが分からない。
いつもの悪戯か?
コンビニの前で悪戯したら、流石に通報されるでしょ。
「アハハハハっ。やっぱムナって面白いんだね」
姉は何故かと笑い出した。
笑う理由が分からない。
あ、もしかしてさっき私がすぐに姉のこときずいちゃったからそのお返しか。
「それよりも、コンビニ前で大声出すと目立つんでやめてください! アイス買ってあげますから!」
私が姉に向かって自分なりの大声を放つと、姉は引いたかのように笑いを止めた。
「――えーとぉ。では、今日アタシがここに来た理由は何でしょうか」
そんなの考える必要もない、ストーカーに決まってる。
「ストーカー……?」
私は、周りの人に聞こえないように小声で呟く。
そして、耳を傾けた姉は納得したかのように口を開いた。
「ブッブー! アタシがムナについてきたのは、今日家から出た時からずっとムナはパジャマを着たままだったからでしたー!!」
「――な」
その一言で察した。
自分の体を確認すると、それは普段着では無かった。
さらに、よりにもよって動物の絵柄が大きく描かれている物を着て来たのは大失敗だった。
「――と、言うことはまさか、今日ここに来るまで視線を集めまくってたのって……」
「セイカーイ!」
「嘘でしょ、どうせ言うなら家から出てすぐのタイミングで……」
「言うわけないじゃん! ムナのそんな顔を見てみたかったんだから!」
「もうっ、やっぱりおねぇちゃんはもっと警戒するべきであったか……」
顔を赤くした私を見て姉はまた笑う。
やはり、姉がいるということは何か他に別の理由があるか等を警戒するべきだった。
この後、買い物は全て姉が代わりにやってくれて何とか今日の買い物は助かったが、帰りの歩きでは私を変に見る通行人の目が絶えなかった。
くれぐれも、姉が有能だと勘違いすることだけは止めてほしい。