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ネガティブ錬金術師の二重生活(改訂版)  作者: 八(八月八)
第二章 ネガティブ錬金術師、図書館の精霊に会う

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レシピ23 ネガティブ錬金術師と木の精霊

 努力と我慢の末に手に入れた身分証を持って、オレは再び図書館の門を叩いた。

例の無愛想な受付も二度目ともなると怯みはしない。さくさくと貰いたてのギルドカードを出して、受付を済ます。

 改めて図書館内を見回す。やはり大きい。オレの住んでいた町にも市立図書館はあったが、こんなに大きな図書館は見た事が無かった。

 木に支えられた見上げるばかりの高い天井に届くほどの本棚の上までビッシリ本が詰まっているが、中二階がどう見ても届かない。あの辺の本はどうやって取るのだろう。やはり魔法か、もしくは『検索さん』に頼むのかな。

 誰かに訊こうにも、あの受付が答えてくれる気はしないし、見ず知らずの人に尋ねるのも個人的感情で無理だ。

 検索さん……この宿り木の精霊が答えてくれると助かるんだけど、クレーヴェルは喋れないだろうって言ってたしな。オレがマナを与え続ければ成長するかもしれないとも言っていたが、オレにそんな力あるとは思えない。まぁダメ元だ。


 前回はアイハの姿だったし、商業や歴史の本を中心に読んで、錬金術の本は確認だけしかしてない。

 何冊かの錬金術の本と一緒に、生物辞典を持って席に着き、バッグから紙とペンを取り出す。

この世界のペンはインクを付けて使う万年筆の様な形の物だが、ただでさえ見知らぬ文字なのに書きにくいったらありゃしない。そりゃあ見る人見る人に「汚い字」だと言われるはずだ。そのせいなんだ。

なので早速インクを溜めたカートリッジを入れたボールペンを作ったのだった。これさえあれば、バッチリだ!日本語は!

 こんな物使ってるから、ますますこの世界の字が上達しないのではないかという懸念は、この際置いておく事にした。


 オレは見た物を瞬時に記憶するような特殊能力は持っていないので、図書館で錬金術のレシピや情報をとにかく写すつもりでいた。日本語でだが。写す時にまでこちらの文字を使っていたのでは時間がいくらあっても足りない。どうせ見るのはオレだけだ、問題無い。

 ずっと写してるのも手が疲れるので、休憩がてらに生物辞典をパラパラ見る。見た事も無い生物の絵と説明が並ぶ。あ、ピグーってやっぱり豚に似てる。色は大分赤っぽいが。マイル鳥は体長3メートルって、でかいな!…………ん?


「シェイバード……?」


【シェイバード】

 鳥型の魔物。翼が退化して短いので空を飛べないが、足が速くジャンプ力が強い。

 体長30cm~70㎝。羽色は白。嘴は黒い。

 その羽を使った装備品は、スキル『俊足』を宿す事がある。

 生息地:ネィサン地方、主に高原・森の中に住む




 おおお!これの羽を使って靴とか作れば……人から逃げれる!?

ネィサン地方…昨日アイハの時に地図で見た気がする。結構ここから近かったはず。ちょっと地図も見返して写しておこう。

オレは席を立って地図コーナーに行く。どこだっけな……と見上げていると、【検索さん】こと木の精霊が1体ふよふよ浮いていた。


「けん……精霊さん、ちょっと良いですか?」

 ふよふよが止まる。

「ネィサン地方への地図が見たいんだけど、どこにあるか教えてもらえますか?」

 ふよふよは、少し考え込むように停止した後、地図コーナーの本棚端の4段目に移動した。そこって事か。

 見ると、アスナヴーイの街周辺の地図が載っている本で、各地の特徴なども書いていた。まさに探していた内容だ。すごいな、検索さん。

地図によると、ネィサン地方はこの町から20kmに位置しており、そこには広大な高原も広がっているらしい。

 20km……車だと1時間ちょっとで着く距離だけど、もちろんそんなものは無い。馬は街中で見たから、馬車はあるよな?うーん、どの位掛かるんだろう。最速移動手段が自転車の中学生では見当が付かない。

 冒険者ギルドに素材回収の依頼を出すか、護衛を頼んで自分で行くか、どちらが良いだろう……。

お金で解決出来るならどうにかしたいが、もし何かの拍子に錬金術が使えなくなったりスランプに陥って制作出来なくなった時の為に、多少の蓄えは取っておきたいし。かと言って他人と危ない場所に行くのも、装備も整ってない状態では不安だ。その装備の為の素材を手に入れるために命を失うなんて、本末転倒だ。料金によるかなぁ……今日帰りに冒険者ギルドにちょっと寄ってみるか。出来るだけ早く欲しい気持ちはある。


 本を見て考え込んでいると、視界にふよふよが入ってくる。

「ん?」

 目線を上げると、さっきのふよふよなのか?オレの周りを飛んでいる。

クレーヴェルの話では、自我はあまりないと言っていたけど、何だろう。好奇心旺盛な子供にウロチョロされてる感じがする。

「……気になるの?」

 オレが話しかけると、ふよふよが近付いてきた。

「オレこれから本を写さなきゃいけないから、あんまり相手出来ないんだ」

 そう言うと、ふよふよが机の上を飛び回った後、ペンを持って(?)またこちらの様子を伺ってる気がする。もしかして……

「手伝って……くれるの?」

 ふよふよが『まかせて!』と言わんばかりにペンをビシッとオレに向ける。

おお、マジか……。

本当に手伝ってもらえるなら助かる。オレ1人では、図書館の開館時間内で書き写せて本1冊の半分もいけるかどうか。人間の友達も仲間もいないオレにとって、自我があるかも怪しい精霊でも、大事な戦力だ。


「えっと、じゃあこの本をそのまま紙に書き写してくれる?」

 試しにそう頼んで見てみると、ふよふよは器用にサラサラと書き写し始めた。オレより断然字もキレイだった。何だろう……ちょっとショック。

「あ、ボールペン1本しか無いんだった。なぁふよふよ、こっちのペンでも書ける? 交換してくれない?」

 ふよふよにそう頼むが、ペンは止まらない。あ、無視されてる。この自我があるのかも怪しい小さい光の塊に無視されてる……と思ったが、ふと気付く。”ふよふよ”じゃ分からないか。

 名前あるのかな?あるなら教えてもらおうと思ったけど、そもそも話せないっけ。と言うか自我が無いならそもそも名称なんて必要無いか。でもオレが呼ぶのに不便だから……。

「なあなあ」

 指でツンツンとふよふよをつつくと、どっちが前か分からないけど、ふよふよが書くのを止めてこちらを向いた。気がした。

「名前無いと不便だから、付けても良い?」

 ふよふよの反応は無いが、写すのをやめたまま停止しているので、聞いているのだろう。まぁオレが呼ぶためだけの名前だから、良いだろう。勝手に付けちゃえ。

えーと、ふよふよだから

「ふよう。芙蓉(ふよう)でどうだ?」

 確か植物の名前だったはずだから、木の精霊という意味でも良いだろう。

 

 オレの名付けを聞いたふよふよ……芙蓉はしばしの後フルフルと震え始めて、なぜか色が白っぽい光から緑っぽい色に変わった。え、何で!?怒った?怒ったの!?ダサかった?それとも名前付けられるの嫌だった?

焦ったオレが宥め様とするが、芙蓉はそのまま万年筆の方を取り、再び書き写し始めた。しかも何かさっきより大分早い。こっちの世界の生き物だから、万年筆の方が慣れてるのかな。


「怒ってないなら良いんだけど……」

 その様子を気にしつつ、オレもボールペンを手に取り筆写を始める事にした。時間は有限なのだ。帰りに冒険者ギルドにも寄りたいし、夕飯は家で食べたい。やりたい事もやる事も山程ある。


 そのまま筆写を続け、いい加減お腹も空いて来たので昼食でも取るかと手を止めた。

「芙蓉、オレご飯食べてくるから……」

 お前も休んでいいよ、と言おうとしたその時



「あなたそれ……何をしてるの?」



 目線を上げるとそこには、昨日会った美少女……マリエルが目を丸くして立っていた。




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