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ネガティブ錬金術師の二重生活(改訂版)  作者: 八(八月八)
序章 ネガティブ少年、異世界に落ちる
2/57

レシピ0-2 ネガティブ少年と光の精霊

 差し込む光の眩しさに意識が浮上する。

 まず感じたのはカビくささ。次に埃っぽさに鼻がムズムズとして、更なる覚醒を促した。

 瞼を開くと飛び込んできたのは、朝日ではなく単純な光だった。

 光が宙に浮いている。

「……あぁ」

 そういえば昨日もこんな光を見た。というよりも、この光を目指してここにたどり着いたのだ。いやでも……


「何か大きくなってないか?この光」


 昨晩見た時は確か線香花火程度の大きさだったはずだ。しかし今目の前にある“光”は、ソフトボール大くらいになっている。夜は省エネモードなのか?


『え?』


「え?」


 音が聞こえた気がした。いや、音と言うよりも声か?

 やはりこの廃屋にも人がいたのか?

 しまった、勝手に家に入り込んで眠り込むなんて、叩き出されても文句を言えない。

 いや、ここはオレの知っている現代日本ではない。もしかしたらここの住人にとっては命は軽いのかもしれない。最悪…………殺される!?

 このカビ臭い毛布がオレの死に場所か。ミトコンドリア以下のオレにはお似合いの最期かもしれない。

死とは……こうもあっさり訪れるものなんだな。

 オレは静かに目を閉じた。争って痛い思いするのとかは嫌だったので、一思いにられよう。


『いやいやいや!視えてるのではないのか!?

 何でここでもう一回寝るのだ!?』


 声は焦った様に大きくなった。

 ん?

 待て。今「日本語」が聞こえなかったか?

 オレは一晩で懐かしさすら感じる様になった母国語に目を開き、日本語を喋る人を探して辺りを見回した。

 いない。

「…………そうか。幻聴か」

 日本語が恋しすぎて妄想の声を聴いただけか。なんだ。


『いやいや!! 幻聴じゃないから! 聴け! 見ろ!! こっち! ほら!!!』


 しかし幻聴はしつこくオレに付きまとう。もはやオレは壊れてしまったのか。異国の地で心細さに精神崩壊か。紙精神すぎる。オレらしい。

()えてるんだろう!? なあ!!』


バチン!!


 衝撃に目を瞑る。痛い。ヒリヒリする……。

 オレは()()()()()()()()にようやく視線を合わせた。

 光は、縦横自在に形を変えながら声を荒げた。怒っているらしい。

「……光が喋ってる」

『やはり視えるのだな!? ならばこの力も其方のおかげか』

 光が伸びてオレの前に近寄ってきた。どうやらこの光は生き物らしいという事は分かった。



喋る光玉。


…人魂


……心霊の類


………悪霊


………呪い


………オレは誘い込まれたのか…この呪いの館に。


「そうして呪い殺されるのか」


『何の話だ!?

 待て、勘違いするな!と言うか、どうしてそこまで悪い結論にたどり着く!?』




 光は人魂ではなく”精霊”だと言った。名前はクレーヴェルと名乗った。

『其方のおかげで一命を取り留めた。感謝する』

「オレのおかげ?何で? あと、何で日本語喋ってんの?」

『ニホンゴという言葉を私は知らないが、精霊はほぼ精神のみの体だからな。精神でのつながりで意志を通わす。そこに言語の壁など存在しない』

 言い忘れたがクレーヴェルの姿は、オレと話し始めてから徐々に形を変え、今は体長20cm位で発光してはいるが、完全に人型になっていた。火の玉と話すのは怪談じみていて嫌だったので、こちらの方が大分話しやすい。表情も分かるし。


 クレーヴェルの話を要約すると、精霊は精神体だから、その源となる”マナ”が少ないと消えてしまうらしい。そして正に昨日、消えかけていた。

と言っても、精霊は完全なる消滅はせず自我を失って漂い、マナが溜まるとまた復活するので、それを死と呼ぶかどうかにはいささか疑問を感じたが。

 そしてオレがやって来て、言葉を交わした事によりマナを取り戻したらしい。

 それよりも自分の現状を知っておきたい。オレはこれまであった事をクレーヴェルに話してみた。


『ああ、それは時空の狭間に落ちたのだな』

 ジクウのハザマ?落ちたのはマンションの階段だ。

『たまにあるのだ。時空の歪みや流れにちょうどかち合ってしまう生き物が。まぁ事故……いや、天災だな』

 何かすごく普通に言われてる。事故……まぁ階段から落ちたのも事故だが。

そうか……オレみたいなミトコンドリア以下生物は、当たり前だが魔王を倒す為の勇者として召喚されたとか、悪徳王に誘拐的に召喚されたとか、神様に若くして死んでかわいそうだからって召喚されたとかになる訳ないのか。

『なぜそんなに貴方の世界の人間は召喚されるのだ?』

「流行りだからだろう」


 そう、事故で異世界に来たオレには、特別な力も、言語を理解出来る便利アイテムも、綺麗な王女様も、ケモミミ奴隷も、合法ロリ少女も、巨乳女戦士も、そして生きる理由すら無かったのだ。もはや生きる価値なし。


 ネガティブ少年と光の精霊、完。

 ご愛読ありがとうございました。さようなら。








『いや、精霊が視えるだけで十分特別なんだが……』





ちょっと短め

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