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ネガティブ錬金術師の二重生活(改訂版)  作者: 八(八月八)
第一章 ネガティブ錬金術師、女商人になる
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レシピ6 ネガティブ錬金術師と二人のギルドマスター1

「おお? 何だ騒がしいな」

 見ると冒険者たちの空けた道の中を颯爽と歩くゴツいおっさん。

 年の頃は30代後半から40代くらいか。鍛え上げられた大柄な体に、無造作で整えきれていない髭を生やしているが、グレイがかった短めの髪がさっぱりとしてるせいか、汚くは見えない。

 周りの反応からするに、偉い人……なのかな?あまりそうは見えないけど。


「うわ、ギルドマスターだ……」

 後ろに立っていた赤毛が呟いた。

 ギルドマスター?てギルドで一番偉い人だよな?え、このおっさんが?そうは見えないけど。むしろ外で剣振り回して魔物と戦ってそうだ。

「ここの冒険者ギルドのギルドマスターのアガトさんだよ。伝説の冒険者なんだ」

 こそっと赤毛が耳打ちしてくれる。なるほど、元冒険者か。それならぽい。

 いや、しかしなぜここでギルドマスターが?入会費も払えない貧乏人を見学しに来たとか?

 うう、これ以上の恥は避けたいし目立つのも避けたい。どうかこっちに来ませんように!!


 オレの祈りを聞いてくれる神など、存在するはずが無かった。

「おぉ? ずいぶんカワイイ子がいるな。この騒ぎは君のせいか」

 カワイイ子?どこに!?と辺りを探そうとしたが、騒ぎの中心=オレだよね。なんだ、嫌味だったか。


「商人登録の入会費が払えない?何だそんな事か!いい、いい!俺が出しといてやるよ!」

 受付のお姉さんから話を聞いたギルドマスターがそう言ってポケットから銀貨を取り出す。

 え!?いやいや!!


「い、いいです! 大丈夫です!! 今度お金ある時に登録するから…っ!」

「ならそん時に返してくれりゃ良い。君が来るとギルド内も活気付く様だし、何より俺も年甲斐もなく嬉しい」

 そう言ってごく自然にウインクをしてお金を払われた。

 こ、これが大人の余裕か……!!

「俺だって払うって言ったのに……」

 後ろでぶつくさ赤毛が言ってるが、放置しておく。


「それで? 何を売りに来たんだ?」

 ギルドマスターに促されて肩から下げてた鞄を探る。

 結局入会費だけ借りるという事で、年会費は後日支払いでも良いそうだ。

これ返す時どうするんだろう?冒険者ギルド行ってギルドマスター呼んでくれって言うのか?

 …………いやいやいや、受付に預けて渡してもらおう。うん、それが良い。

 今回の稼ぎで即返せたら良いんだけど、変化薬作る前に練習用に作っただけの回復薬だから、大した金額にはならないだろう。


「えっと、回復薬なんですけど……」

 机の上に出した5本の小瓶のうち、1本をギルドマスターが手に取って眺めた。受付のお姉さんも鑑定するみたいで手に取る。

「フム……?これは……」

「これ……。少々お待ちください!」

 お姉さんの顔付きが変わって席を立ってしまった。え?な、何?そんなダメだった?

変化薬は上手くいったから、薬の基本的な作り方は問題ないはずだ。

いや、でも変化薬と回復薬は材料も全然違う。もしかしたら何か材料の入れ間違いや過程で失敗したのかも?


「君、名前は?」

「え、あ……アイハ、です」

「アイハ、これをどこで手に入れた?」

どこって言われても……

「これは作った物で…」

「君がか!?」

 腹式呼吸から出る張りのある声にビクッとなる。

「い、いえ、ワタシじゃなくて…」


 ()()()()()()()だ。

 アイハではない。


「知り合いの錬金術師に、売って来てくれって頼まれて」

「その錬金術師とやらはどこにいるんだ?この町に住んでいるか?それとも旅の途中で会ったか?」

何でそんなグイグイ来るんだ!?

もももしかして、何か法律違反の物が入ってた?麻薬密売的な疑いを掛けられてたりするのか!?



「商人ならば、大事なルートをそう簡単に明かしたりするわけないだろう」


 ザワつくフロアを凍らせる様な、冷たい声が響いた。


声の方を見ると、いつの間にか戻って来ていた受付のお姉さんの後ろに、男が立っていた。

色白で細身だが長身の男だった。白いスーツで足がやけに長く見える。

紫の髪に吊り上った目がこわい。


「イーサン、珍しいなお前が下に降りてくるなんて」

「気軽に部下の職場をウロつく貴様の方がおかしいのだ」

 ギルドマスターの髭のオッサンにため口をきいている時点で、嫌な予感しかしない。


「それで?君がこの回復薬を持ち込んだ子かね?」

 白スーツが爬虫類の様な目をキロリとこちらに向ける。

「商人ギルドのギルドマスター、イーサンだ。

 安心しな、目付きが悪くて厳しいが、悪い奴じゃねーから」

 髭のオッサンの方のギルドマスターが明朗にそう言ってくるが、それのどこに安心する要素があるのか。


「ひとまず上の部屋で話そう。付いてきたまえ」



 このまま拘束されたりしたら、途中で薬切れてオレの異世界生活終わりなんだろうな……。

オレは死刑台に向かう気分で、白スーツギルドマスターの後を付いて行った。


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