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赤い髭

レストラン、レッドマスタッシュ。

入植し財を築いたドワーフ、ゴッツ家の体毛が赤いため、

初代ゴーリンの頃に『赤い髭』の名で、初めは炭鉱ギルドとして発足した団体だったが、禁忌の山シスリ山の銀まで採れなくなると、すぐに禁酒法にのっかり非合法な酒の売買を始めた。

そもそも、酒に眼がないドワーフにとって禁酒法など破って下さいと言っているようなもので、スメタナ中のマフィアのほとんどがドワーフによるものだった。

レッドマスタッシュの地下にビアホールが隠されていることは公然の秘密であり、法が効力を実質持たない象徴でもあった。

アランが赤い髭運営の白い内装の店の入り口のドアを開けると、ベルの音がなる前から店主のうなる様な声が響いた。

「アラン警部補」

遅れてチリチリとドアのベルが鳴る。

「新聞を見てね。来ると思ってましたよ。あんた誰をブタ箱に入れようと言うのかね?」

赤い髭の店主とはダグ同様幾度となく丁々発止渡り合った仲だ。

逮捕状の未だに発行されない酒の取り締まり以外の他の犯罪を許さず、賄賂を受け取らず、真実に基づいてピンポイントに逮捕するアラン・ナッシュという男を、働く兄弟たちは兎も角、赤い髭の内部では、こっそり評価しているものも多かった。

店主もその一人だ。

「さあね。誰を逮捕すればいいんだい?」

くだけた口調で、アランは椅子に座り、


コーヒー、砂糖をつけてくれ


と続けた。

「それこそ、さあね、だ。あんたの管轄はうちらの商売に直結するからな。調べちゃいるが、」

店主はコーヒーを淹れた。

「うちで、緑肌の野郎を五人も殺した奴なんて誰もいねーんだ。」

「ふむ」聖霊煙草を咥えて火をつけたアランに店主が鼻白んだ。

「毎度のことだけれどさ。普通の煙草なら兎も角ね、聖霊煙草なんてマナの入ったもの吸ってるの、あんたぐらいなもんだよ。魔法も使ったことないだろうに、よく吸えるな。」


「ドワーフにとっての」

片方の口角を上げた

「酒みたいなものかな。」


「そりゃやめられないな」アランの言葉をジョークと受け取ったらしく店主は苦笑いし始めた。

「あんたの健康に幸あれだ。今度ミッドランドの宮廷魔術師に魔法を教わるといい。」

「生憎と根っからのスメタナニアンでね。」

しらっとした顔でコーヒーに砂糖を入れてスプーンで混ぜた。


コーヒーをすするように飲む。間が空いた。


「それで、本当に誰も殺しはしてないんだな?」

「ああ。」ゴーリンの遠縁にあたる店主は赤い髭を軽く撫でた。

「うちのボスから見ればゴブリンギャングなんざ目の上のたんこぶであっても、宿敵にはなり得ない小規模集団さ。あちらが手を出さない限り、赤い髭は動かない。そして、」

店主の声が一オクターブ低くなった。


「報復とか抜かしてうちのものを殺ったら、あんた俺達に協力してくれるよな?ゴブリンハーフ」


店主の凄んだ声と、ゴブリンハーフの言葉に飲みかけのコーヒーを投げつけたくなる気分を抑え、罵声の代わりに口のなかをコーヒーで満たす。

(そう言えば、ここのレストランで食事はしたことないな。)関係ない事を思い浮かべて思考を整容した。


「勿論だ。」アランは言葉を選んだ。

「赤い髭ナンバーツーだかスリーだかの、レッドマスタッシュ店主オーリンゴッツが言ってるのだから、今回の殺人はドワーフマフィアが関わっていないと、俺は信じたい。あなたには信義がある、と思っているからな。」

オーリンが頷いた所で、だが、と続けた。

「殺ってないなら、殺ってない事を証明する為の、確証が欲しい。悪いがあなたの部下や手下達に聞き込みをかけてアリバイを…」

「そんなまどろっこしいことは抜きで構わない、だろ」

店主から赤い髭幹部のオーリンの態度になった。

「あんたが言ってくれてる様に、俺には赤い髭には信義ってものがある。殺ってたらとっくにあんたの目の前につきだしてるし、本当にうちにとってヤバい案件なら、俺がここまで言うと思うか?」

「どういうことだ?」珍しく誤魔化さないオーリンの態度に、胸騒ぎが真実味を帯びていた事が分かった。

「この街に、俺らとは関係ない殺人鬼の無法者がいやがんのさ。普段武装してるはずのゴブリンギャング五人を一人で殺る様な奴がな。」

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