働く兄弟たちの家
スロートシティは都市としての規模はそこそこ大きいが、郊外を出ると森や沼地があり、先住民であったコヨーティアンが禁忌の山として祭っていたシスリ山が遠くに見える土地として有名である。
街の中心にはアヴァロン教の大聖堂があり、ここから街が発展していったと言って過言ではない。
街の中心から離れれば離れるほど自然豊かになると同時に、金銭的に貧しい人々が半ば自給自足で暮らしている。そして、貧しい人々の多くはゴブリンだった。
働く兄弟たちという市民団体は街の端にあり、文字通り兄弟姉妹達の街への就労支援から選挙活動に至るまで幅広い活動で知られていた。
アランが団体の建物を訪れた時、入り口に五つ、花束が飾られていた。
「失礼。警察の者ですが。」
中に通してもらうと、団体の代表であるゴグがアランを一目みて、
「ああ、刑事さん。哀れな兄弟たちのことで来たのでしょう。」
とやや誇張した物言いで出迎えた。
「ええ。入り口の花束は…」
「兄弟たちへの手向けの花です。願わくばギャングなどという道を選んでほしくないという他の兄弟への戒めも込めています。」
「成る程。」適当に相づちを打った。
「情報が早いですね。今朝の新聞に載ってましたか。しかし、ギャングだとは書いてないはずなのに、そうだと分かってらっしゃる。」
「違うのですか?アラン・ナッシュ警部補。」ダグは指摘にたいして逆に聞いてきた。
「罪のない命が五人も失われたと?それならば、神の裁きはより重く、あのドワーフマフィアに降りかからねばなりません。この街をおさめる『赤い髭』は、やはり暴力団体として滅ぼさねばならない街の癌なのです。」
「色々と決めつけが強いですね。」
「それはもう」ダグ・ゴグはアランの眼を見つめた。
「だって、貴方が捜査している事が何よりの証明になりますから、兄弟よ。赤い髭を潰す大役を見事に成し遂げるのは我らの血を持つ貴方だと信じています。」
「ちなみに五人に心当たりは?」
「我々がギャングの顔までカバーしているくらい協力関係にあるとでも?」
「そうですか。」無駄足だったらしい。
「何度でも言いますが私はハーフエルフでもあるので。マフィアもですがギャングも潰しますよ。では。」
ダグは演技の出来るゴブリンではなかった。ギャングも潰すときいて一瞬苦い顔をしたのを、アランは見逃さなかった。だが、だからと言って情報が手に入った訳ではない。
働く兄弟たちの家から出て、アランは次の行き先を思うと憂鬱になっていた。
(次は赤い髭か。奴等の経営するレストランを訪ねるだけでいいか。)
両方とも潰すなどと豪語したが、深入りすると抗争に巻き込まれて川にでも浮くのはアランの方だ。バランスをとりながらうまいこと犯人だけを捕まえてきた。
(毎度のことだ。今回もそうだ。)
しかし、胸騒ぎと嫌な予感は止まらなかった。




