ゴブリン虐殺魔
沼地の上に、アジトの家はあった。ゴグの家と大して変わらない佇まいに既視感すら覚えながら、アランは拳銃を抜いた。
「銃を撃った後、どの辺りに奴はにげたんだ?」
バロムは建物の窓近くの泥を指差した。
「俺が化粧男を撃った時に、奴の肩の辺りに弾が当たったみたいで、慌てて窓をぶち破って逃げたんでさ。」
「その後を考えれば、泥を引きずった後を辿ればいいな。」
「拳銃だけで大丈夫かよ?アジトにゃ銃身切ったショートライフルがあるから、持っていかねぇか?」
「心配しなくとも応援を呼んである。後を辿るさ。」
「俺も連れていってくれ。」
アランとバロムの二人は、沼地の湿気からか汗をかきながら、所々血らしきものがついた足跡をおった。
辿り初めは足を引きずっており、一旦座り込んだ跡と血の跡を残して、急に歩幅が広く薄くなっていっていった。何らかの方法で手当てしたらしい。
小川を横切った先には、足跡が消えていた。
「ここで、足跡が途絶えているな。」
「みて分かるよ刑事さん。どうするんだい?」
「この川に沿って歩いていったということか、さて、上流か下流かだな。」
「二手に分かれるか。」
「いや、捜索するには遠くなりすぎた。いったんここまでに…」
アランが言い終わるその時、
パンッ!
拳銃の発射音と共に、上流から二人の正面へと飛んできた弾が近くの木に当たって破ぜた。
パンッ!
バッとかがむバロムと近くの木に背中を預けたアランに対して.二発目の発砲音が響く。
アランは音のする方向に向かって狙いを定めた。しかし、
パァンッ!
発砲音が撃っていた反対側から響く。
正面に銃口を向けていたアランがとっさに振り向くと地面に這いつくばったバロムの他には誰も気配はない。
(しまった!魔法か!)
ハッと気づいた瞬間、三発目の弾がアランの背の木の端を破壊し、木屑が派手に飛び散った。
「くそっ!」
バンッ!バンッ!
相手がいる辺りの検討をつけて、アランは木陰から二発撃った。
チューンッという空気を切り裂く音が響きわたる。
パンッ ガサガサ パンッ パァンッ パンッパンッ!チューンッチューンッ!
発砲音と沼地の枝を揺らす音があちこちから出鱈目に響き、アランは混乱した。
(落ち着け。州警察や軍が持っている最新型の自動拳銃でもない限り、弾は六発かそれ以下のはずだ。何発も響いているということは…!)
最初に銃声がした方向に向かって、大胆にも木の裏から顔を出した。
川の上流にいるらしい化粧男の姿らしき人影がちらりと見えた。
そこを指差す様に構え、周りで響く音を無視して発砲した。
バンバンバンッ
ッ!
三発目で人影が倒れた。急に音がとだえる。
(後一発残ってる!)
アランは静寂に包まれた中、倒れた所へと駆け出した。
人影は化粧男だった。回転拳銃を地面に投げ捨てたらしい。また、化粧は剥がれており、茶色いクリームから黒い地肌を晒していた。男はダークエルフだった。
「くそっ!」今度は化粧男が悪態をついた。
「動くな!警察だ!貴様を逮捕する!」
化粧男は左の腹をおさえたまま立ち上がった。
「黙れ!イエロースキンの呪われた劣等混血種が!私に指図をするんじゃない!」
怒鳴り散らすと、今度は急に低い抑揚で言葉を紡ぎ出した。
(これは、眠りの雲か…!)
恐ろしく強い睡魔に抗いながら、アランは銃口を向け続けた。銃口が震える。
男は左脇のベルトに挟んでいた鞘から鉈を取り出した。ベットリと血がついていた。
「死ねぇええええ!」
鉈を振りかざす男に、気力を振り絞りアランは最後の一発を撃った。
バンッ
弾は男の胸に命中し、男は倒れた。
アランは失っていく意識の中で、バロムが駆け寄ってくるのを、どこか他人事の様に感じていた。




