虫使いは無自覚にモン娘ハーレムを築く 1
早寝しようとして思いついたネタを思いつくまま書き殴った物です。
気晴らしにでも読んでいただけると嬉しいです。
評価が良かったり、たくさん感想をいただけたら連載版を書くかもしれません。
とりあえず、気分が向いた時に短編で続きを書くことにします。
「気持ち悪いから出ていけ」
十歳の子どもに言う言葉じゃないでしょ。
我が家は貧乏領地にある町を治める代官の家だ。
貧乏な領地なのだから町も貧乏だし当然僕の家も貧乏だ。仮にも貴族…準男爵は貴族の中でも最低ランクなので、本当に『仮にも』でしかないけど…。貴族だと言うのに自分の息子に出ていけってそれはないんじゃない?
とは言え。
父がこんなことを言い出したのも理由がある。
子どもは八歳になると教会で神様から能力を授けられる。教会にはかなりの寄進をしなければならないのだけど、良い能力が当たれば元が取れるどころか大儲けすら出来るのだ。
平民でも金持ちの商人くらいなら払えるけど、普通は貴族じゃないと無理。我が家も貧乏ではあったけど何とかそのお金を捻出して僕に能力が授かれるようにしてくれた。けれど。
「御子息の能力は『虫使い』です」
「虫使い? そ、それはどのような能力なのでしょう?」
「それは御子息から聞かれるがよろしい」
「は、はぁ…」
僕に与えられた能力は『虫使い』だった。
自分の能力は意識することで、その使い方がわかるようになるので僕は父親に能力の説明をした。
「はぁっ?! 虫を使役出来る?! それだけか?!」
「そ、それだけだよ」
あの時の父親の落胆具合は凄かった。
長男は魔道士。次男は剣士。長女はなんと事務官を得て領主様の元で仕事をしている。
なかなか良い能力が続いており、年の離れた三男である僕の能力にも父親は期待していたみたいだった。
そんなわけだからその日以来父親は僕とは話さないどころか目にも入れなかった。
期待通りの能力ではなかったけど、何とか役に立てないかと思って僕も自分の能力をいろいろ使ってみた。
けど名前の通り自由に虫を使役出来るというだけで何の変哲もない能力だ。
非常に強力な虫型モンスターでもいれば役に立てただろうけど、そんなものは辺境くらいにしかいない。
家の中では小蝿や蟻、よくても蜂を使役して自由に操作するくらいのもの。勿論百足や蜘蛛なんかも操れた。しかも同時に何体もだ。
しかし想像しなくてもわかるだろうけど、たくさんに虫に囲まれた子ども。
気持ち悪くないわけがない!
「はぁ…。まさか話も聞かずに家を追い出されるとは思わなかった…」
こんな子どもが家から追い出されてどうやって生きていけっていうんだ。
手渡されたのは紋章すら入ってない小型のナイフと堅いパンが三つ。それとくすんだ茶色をした銅貨二十枚と銀貨一枚。
お金もこれだけじゃ貧乏な町とは言え宿にだって泊まれないような額だし…仕方ない。とりあえず今夜寝るためにどこか雨風を凌げるような場所を探そう。
町の中を宛てもなく歩いていると町民のみんなから妙な目で見られてはヒソヒソと何か言われている。
近くを通った時にそれがたまたま僕の耳に入ってきた。
「あの子でしょ、代官様のとこの」
「気持ち悪い虫をいっぱい集めて遊んでるんですってよ」
「ひぃぃぃっ、私虫なんて見つけたらすぐ殺しちゃうわ」
やっぱり虫って気持ち悪いんだなぁ。
悲しい気持ちになって町を更に歩いているといつの間にか門から外に出てしまっていたらしい。
ここにはモンスターが来るようなことなんて数十年くらいないから塀もないし門番すらいない。
だから僕は一人で町から遠ざかって、一時間くらい歩いたところで水辺のある林を見つけてそこに腰を下ろした。
「はぁ…とりあえず水はこれでいいけど…お腹すいた…」
空腹に耐えきれずパンを齧る。
とても堅いパンでパサパサしているけど食べられるなら何でも良かった。そしてカラカラになった口の中に川の水を飲んで潤すとようやく落ち着いて辺りを見渡すことが出来た。
「あれ? なんだこれ?」
川の先は泉になっていて、かなり綺麗な水が大きな岩の割れ目から滾々と湧き続けていた。しかし僕の目に止まったのは泉じゃなく、その近くに落ちていた大きな袋だ。
「あっ! これマジックバッグだ! うわぁ…すごいすごい!」
実際の見た目よりも遥かに多くの物を収納出来るマジックバッグはかなり高価な代物だ。
もしこれを売ればしばらくはお金に困らないかもしれない。
そう思ったけどやめた。
虫を、僕を気持ち悪いなんて言う町に戻りたくない。そんな気持ちが僕の中で時間が経つ毎に大きくなっていたから。
「それにしてもマジックバッグがなんでこんなとこ…ひっ?!」
よく見るとマジックバッグの少し先に服を着た人が倒れていた。いや、人だった物。
それは既に骨だけになっていて、服の脇腹のところに真っ黒い染みが出来ていた。血、だったんだろうなぁ。
その骨に近付くと、身に着けていた物をいろいろと剥ぎ取ることにした。こんなことしちゃいけないんだろうけど、僕も生きていかなきゃいけないから。
服はサイズが全然違うし血で汚れてちゃってるから無視した。しかし羽織っていたマントはいろいろ使えそうなので拝借。腰に着けている僕のナイフよりも大きな短剣も貰う。小さな小袋もあって、中を見ると硬貨が何枚が入っていたのでこれもいただいた。
剥ぎ取れるだけ剥ぎ取ったら近くの木の枝やらを使って穴を掘るとその中に骨を入れて埋め、上には探してきた大きめの石を置いた。
こんなことくらいしか出来ないけど、せめて安らかに眠ってほしい。
泉の近くに来てから数日が経過した。
今まで家の中でしか使えていなかった僕の能力はここでいきなり進化した。
「え? 蜂蜜をこんなに採ってきてくれたの? 嬉しいけどいいの?」
「蟻ってこんなに早く穴掘れたっけ? 僕の身体くらい簡単に入れちゃうんだけど」
「蜘蛛の糸で編んだ布なのにベタベタしないんだね。え? 二種類の糸があるの? 知らなかったよ」
「蝿についてきたら美味しい果物の木を見つけちゃった…」
「蚊ってこんなに一気に血を吸えたの? 動物の血が全く無くなっちゃったけど? 血抜きしないでいいから楽だけど…」
という具合に僕が思っていた以上に虫達が優秀すぎた。
確かに犬や猫みたいにフサフサしてないけど、こんなにすごい虫達のこと気持ち悪いってだけで殺しちゃうのはやっぱり駄目だよ。
蟻の作ってくれた洞穴はどんどん広くなって快適になるし、蜘蛛の服の着心地も良い。食べ物だって困ってないから僕はしばらくここに住むことに決めた。
そして更に1ヶ月くらいの時が過ぎた。
ある日のこと。
僕は林の奥へと蜂や蝿、そして新たに仲間になった甲虫と鍬形虫と共にやってきた。
というもの森や林の奥はモンスターの領域になっていることがあるので近寄ったら駄目だと昔父親から聞いていたから。
けれど今の僕には甲虫や鍬形虫がいる。
そうそういつも僕の近くにいる子達には名前を付けたんだ。
蜂はザビー。蝿はフラン。甲虫はヤマト。鍬形虫はスターゴ。蚊はモスク。蟻も女王がいるんだけど僕の洞穴よりももっと奥にいるみたいで見たことがないからまだ名前はつけてない。
なんか名前付けたらみんなの能力も強くなったんだけど…そういうものなのかな?
そしてヤマトに案内され、こうしてやってきた。
「ヤマト、突進! スターゴ、トドメを刺して!」
途中現れた狼型のモンスターをヤマトとスターゴのコンビで難無く倒すとモスクに頼んで血抜きをしてもらう。
肉は後で僕のご飯になるからマジックバッグに入れておく。
そして僕は出会った。
運命の人。
違う。
虫でもない。
植物?
「なんで人間がこんなところに!」
出会ったその植物は、まさか喋れる植物だった。
足は無い、のかな? 腰から下が根になっていて茶色い地面に埋まっている。身体は緑色だけど大人の女の人みたいに胸もあってすごく美人だ。髪の代わりに蔓のようなものが頭から生えていて、更に頭頂部には綺麗なピンク色の大きな花が咲いている。
「僕はこの虫達と一緒にここに住んでるんだ。君は?」
「人間がここに? 馬鹿を言わないで! あなた達人間がこんなところにいたらすぐモンスターに殺されるわ」
「大丈夫だよ。この子達と一緒なら。それで君は?」
その植物は僕の周りを飛び回る虫達を警戒していたけどようやく話を始めた。
「私はアルラウネよ。近付いた人間を蔓で捕らえてその身体から養分を吸い取って殺すのよ」
「そうなの? あれ? でも僕捕まってないし、殺されてないよ?」
「…いくら私でもこんな子どもを殺したりしないわ。さぁ、わかったら早く帰りなさい。今なら見なかったことにするわ」
アルラウネのお姉さんは僕から顔を背けると蔓を振って追い返そうとしてきた。
けれど。
くぅぅぅぅぅ…
お姉さんの方からとても切なそうな音が聞こえてきた。
「お姉さんお腹空いてる?」
「…気のせいよ。別にそんなわけ…」
くっ くく ぐうぅぅぅぅぅぅっ
今度は切ない音ではなく、とても自己主張の激しい音だった。流石にこれは気のせいとは言い切れないと思う。
「お姉さんはさっき蔓で捕まえて養分吸い取るって言ってたけど、人間じゃないと駄目なの?」
「…そんなことないわ。モンスターでも動物でもいいけど、ここに私がいると知られてしまって最近は獣すら近寄ってこないのよ」
そんなにお腹空いてるのに僕が子どもだからって食べないで我慢しているんだ。
僕はマジックバッグからさっきヤマト達に倒してもらった狼を取り出した。
「お姉さん、これ食べれる?」
「…これ、どうしたのよ」
「さっきヤマト達が倒してくれた狼。僕のご飯にしようと思ったけどお姉さんにあげるよ」
「…あなた、お人好しすぎよ? 私はモンスターなのよ? 人間の敵でしょう?」
「でもお姉さんは僕をいきなり襲ったりしなかったから。だから僕も困ってるお姉さんがいたら助けなきゃって思っただけだよ」
「…ありがとう…」
そう言うとアルラウネのお姉さんは蔓を伸ばしてきて狼を捕まえるとその身体に蔓の先端を差し込んで何かを吸い取っているようだった。
しばらくその様子を見ていると緑一色のお姉さんの顔が少し赤くなった。
「ちょ、ちょっと食事中の様子をそんなにはっきり見るものじゃないわよ?!」
「えぇ? だってなんか面白くて。蔓でストローみたいに吸って食べるのって蚊とか蝶みたいだし」
「面白いって…というか例えが全部虫なのね」
「お姉さんは虫嫌い?」
「油虫は嫌いね。私に吸い付いて養分盗んでいくんだもの。けど、蜂や蝶に蜜を吸われるのは気持ち良いわね」
「へぇぇぇ、やっぱりなんか面白い!」
「…変わった子ね」
そしてしばらくお姉さんの食事を見ていた時だった。
気付いたのは後ろからバキバキという音がした時だったのでとても遅かった。
現れたのはフクロウの顔を持つ大きな熊型のモンスターだった。
「ちっ、こんなところにオウルベアーなんて。あなたの住処はずっとあっちでしょ! 帰りなさい!」
アルラウネのお姉さんがオウルベアーに警告するも聞く耳持たず、それどころか警告したお姉さんにその丸太のように太い腕を振り上げた。
「ヤマト! スターゴ! ザビー! お姉さんを守ってあげて!」
虫達に指示を出すと彼等はオウルベアーの顔を周りを飛んで注意を逸らしてくれた。
そして合間には針で刺し、角で突く。
だが流石にサイズが違いすぎるためかオウルベアーは全く怯む様子がない。
ついには。
バシッ
オウルベアーの振り回した腕にヤマトがぶつかって地面に落ちた。
「ヤマト!」
「あっ、コラ! 危ないから駄目よ!)
お姉さんが止めようとしてきたけど僕はヤマトが落ちたところまで駆けてその身体を持ち上げた。
甲虫だけあって身体は丈夫で死んではいないみたいだった。
けれどその立派な角はへし折られ、今も足をピクピクと動かすのが精一杯だ。
「このっ…よくもヤマトを…っ!」
《虫使いの裏モードが解禁されました》
《虫使いの能力が使用可能になりました》
突然響く声に周りを見渡すも何者もいない。
女の人の声みたいだったけどアルラウネのお姉さんでもない。
けれど今は確認するのが先だ。
意識を集中して自分が出来ることを把握していく。
……うん? なんだこれ? 読んでもよくわからない?
よくわかんないけど、バグ技っていうのが使えるようになったみたいだけど…すごくいろんな種類があってわからない。
とりあえず…すぐ使えそうなものを。
僕は目の前のオウルベアーから逃げようとして動き出した。
しかしオウルベアーはその巨体に似合わない速さで僕の前にやってくると腕を振り回す。
それを小柄な身体が助けになり、なんなく避けるとまた逃げようと試みる。
勿論足の遅い僕が逃げ切れるはずもないのにだ。
「ちょ、ちょっと何してんの! 逃げるなら早く走りなさい!」
「いっ! いいから! ちょっと見てて!」
「なんなのよもう…」
そして逃げる。回り込まれる。を繰り返すこと八回。
見た目には何も変化はない。
僕は腰に付けた短剣を抜くをオウルベアー目掛けて振りかぶった。
「これで…死んじゃえ!」
ブォンッ
僕の手から放たれた短剣は見えないくらいの速さで飛んでいき、オウルベアーの頭に突き刺さった。
断末魔の咆哮を上げて倒れるオウルベアー。
しばらく様子を見ていたけど起き上がる気配がないことを確認して、ようやく僕は地面にペタンとお尻をついた。
「はぁぁぁぁぁぁ…よ、よかったぁぁぁぁ」
「よかったぁ、じゃないわよ! 一体何をしたの?!」
アルラウネのお姉さんが動けない身体を必死に伸ばして僕へ詰め寄ってきた。
全然遠いから体を乗り出しているようにしか見えないけど。
「僕の能力、虫使いで使える技の一つにあったん『八逃げ』っていうのだよ。これを使うとどんな攻撃でも会心の一撃になるんだって」
「な、なによそれ…」
「えへへ…なんなんだろうね?」
「…変な子」
困ったような顔をしているけど、それでも楽しそうにしてくれているお姉さん。
その後お姉さんは栄養が行き渡ったことで回復薬を作ってくれた。そのおかげでヤマトはへし折れた角も元通りになり、元気に僕の周りを飛び始めた。
「あなた、面白いわね。ねぇ、一緒に行ってもいい?」
「いい、けど…。お姉さん動けるの? 足埋まってるけど」
「何日も土に入れないと枯れちゃうけど、あなたこの林の中に住んでるんでしょ? そのくらいなら平気よ」
「そっか。なら一緒に行こう! 僕も綺麗なお姉さんと一緒なら嬉しいもん」
僕の言葉にアルラウネのお姉さんは緑一色の体をまたもやピンク色にしてしまった。心なしか頭の花もさっきより増えた気がする。
「じゃ、じゃあ足抜くからちゃんと連れて行ってね」
「うん。一緒だよ!」
僕はお姉さんに向けて手を差し出すと、彼女はピンク色にしたままの顔を背けながら僕の手を自分の手を重ねてきた。
「あなた、これからもこうやってモンスターのメスを誑かしていくんじゃないでしょうね?」
「誑かす?」
「…なんでもないわ。ほら、ちゃんと案内してくれなきゃ私迷子になったゃうわ」
さっきよりも強く僕の手を握るとお姉さんは足を土から引き抜いて隣に立った。
「…何? モタモタしてると私枯れちゃうわ」
「…ううん。足が綺麗だなぁって」
「ばっ! …いや、もうあなたはそういう子だって思うことにするわ…。ほら行きましょう」
お姉さんは僕が歩いてきた方向へ自分から歩き始めた。
僕もそれにつられて少しだけ急ぎ足で歩く。
それがなんだかおかしくて、楽しくて。
いつの間にか笑っていた僕をお姉さんはまた困ったような笑顔で見つめていた。
「そういえば、あなた名前は?」
「僕? 僕の名前は…」
こんな風にこれからも楽しくやっていけたらいいな!
これは無自覚に最強の能力を得てしまった男の子が、無自覚にモンスターっ娘ハーレムを築いていく。
その第一歩である。
拙い文章を読んでいただきありがとうございました。少しでもお楽しみいただけたのなら幸いです。
宝石好きのチート転生を連載しています。
そちらも読んでいただけると至上の喜びです。