第六話 何度も
着ていた長袖シャツを脱ぎ、上は肌着姿になる。春とはいえ、まだ冷える時期。鳥肌も立ち、体が震えてくる。
脱いだシャツの両袖を持ち、グルグル回してロープ状にして地面に置いておく。そのまま、地面に手をつき、土を握り込む。
ゴブリンが近づいてきて、こちらの有効射程範囲に入った。
僕は、ゴブリンの目に目掛けて、握っていた土を投げつける。
「ミウ、今だ!」
ミウは、僕の合図と同時に来た道へと駆け出す。
(よし、これで取り敢えずミウを逃すことに成功した。)
目潰しを食らったゴブリンは、まだ目に手を当てている。今がチャンスだ。地面に置いていたシャツを掴むと、バレないようにゴブリンの後ろに回る。
持っていたシャツをゴブリンの足元に回し、一気に引っ張った。
「グギャッ!」
突然のことで、踏ん張ることが出来ずにゴブリンは、地面とキスをする。
僕は、ゴブリンを転倒させると、一度シャツから手を離し、ゴブリンの背中に飛び乗る。
「グェ、ギャギャ!」
そのまま、すぐにゴブリンの足に回ってるシャツの両袖を持ち、足を固結びをする。
これで簡単に立ち上がる事はできないだろう。
僕は体をゴブリンの頭の方に向けてゴブリンの両耳の強く握る。ゴブリンの頭を僕の胸に引きつけ、そのまま勢いよく地面に叩き付ける。それを何度か繰り返すと、抵抗が少し弱まった。
少し、グッタリとしたゴブリンの耳から手を離すと、次はゴブリンの手首も持ち、背中に持ってくると関節技を極める。
「ギャ、ギャギャ!ギャギャ!」
モンスターに人間の技が通用するか、一か八かだったが、ゴブリンは比較的人型に近いので、しっかりと極まってるようだ。
関節を極められて痛いのだろう、ゴブリンが暴れる。
もう一度、耳を掴んで頭を攻撃しようとする。しかし、耳を掴もうとした瞬間、ゴブリンが顔を横に向け僕の腕に噛み付いた。
「ーーーグッ!」
突然の痛みで、関節を極めていた腕の力が弱まってしまう。
ゴブリンの方が力が強いため、腕を強引に振り回されて、拘束が解けてしまった。
いきなりのことで油断してしまい、ゴブリンがお尻を上に突き上げた反動で、ゴブリンに乗っていた僕は、前のめりに倒された。
急いでゴブリンの方に、向き直そうとしたら、すでに立ち上がっていたゴブリンが今度は僕に飛びかかってきた。
僕は、仰向けの状態でゴブリンにマウントを取られてしまう。ゴブリンは、反撃で僕の顔面を殴ってくる。
咄嗟に腕で顔をガードする。更にゴブリンは腕を噛み付いてきて、どんどんと腕がボロボロになっていく。
僕よりゴブリンの方が力が強く、だんだん腕のガードが下がってきた。
「うっ、ぐぅ。・・・ミウ、ごめん。お兄ちゃん約束守れそうにない。」
もうダメだと諦めかけた時、頭の方の茂みからガサガサッと音が聞こえたと思ったら、何かが飛び出してきた。
「ーッ!ギャッ、ウゥー!」
ガードしてる腕の隙間から確認すると、ゴブリンの顔に何かが張り付いていた。
ゴブリンが攻撃してこないため、ガードを解いてゴブリンの顔面に張り付いている物体を改めて確認する。
あの青紫色の不透明なプルプルボディーは、先ほどクッキーをあげたあのスライムだ。野生のモンスターが他のモンスターを襲うこともあるのか。
(もしかして、僕を助けに?)
そんな呑気なことを考えていたが、今まさに命の危機だと言うことを思い出し、自分は腹筋に力を入れて上半身を起き上がらせる。顔面に張り付いているスライムを取ろうともがいているゴブリンは、抵抗することが出来ず、今度はこちらがマウントを取る。
「ーーーはぁ、はぁ、はぁ。」
しかし、先ほどの攻撃で相当なダメージを受けた腕では、ゴブリンは仕留めることが難しくなった。
素手では倒せないと考え、辺りを見渡すと自分の拳より二回り以上の大きさの石を見つける。
スライムの拘束が続いている間にゴブリンを倒すため、ゴブリンの上から素早く立ち上がって、石を拾いに行く。
石を拾ってすぐにゴブリンの元に戻ってきたが、スライムの体積がだいぶ減ってきている。僕はゴブリンの後ろに回って、ゴブリンの足を払い再びうつ伏せに倒す。
「ーーーウブッ!」
倒れたゴブリンの背中にのしかかり、今度こそ仕留めるため、石をゴブリンの頸椎部に全力で振り下ろす。
「うあぁーーーー!」
今まで出したことがない声をあげて、何度も石を振り下ろす。何度も、何度も。
腕を上げるのが辛い。だが、そうしなければ、自分は死ぬのだ。そう思いながら、ゴブリンが力尽くすまで、なんども。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます
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