害虫駆除・5
僕達が店に帰ってきたときには、もう日が落ちかけていて、夕焼けが綺麗な時間だった。
「今回は本当にありがとうございます。いろいろと失礼なことも言ってしまい、すみませんでした。これで、安心して薬草採取ができます」
「いやいや、あんな奴がいる店を信頼しろと言うのがまず無理な話だ。気にしないでくれ」
少し離れた場所で、リフィアさんとミラが話をしている。どうして、他人の悪口を言うような話題は盛り上がるのだろうなあ。
「魔法でどんどんヤツらを駆除していく姿、かっこよかったです! 感動しました!! お姉様と呼ばせて頂だいてもよろしいですか?」
「よろしくないな。やめてくれ」
リフィアさんはなおも食い下がる。まだ話は終わりそうにないな。
「コバヤシくん、僕、これからもこの店で働かせてもらっても良いですよね?」
今回の件で、ルーク君がどれほど優秀なのかは十分に伝わった。それに、人が増えた方が賑やかで楽しそうだ。
「うん、こちらこそよろしく頼むよ。だけど、ルークくんには一つ、伝えておきたいことがあるんだ」
一緒に働く仲間になるのだから隠し事は無しにしたい。それに、ミラが近くにいないのも丁度いい。
「すぐには信じられないかもしれないけど、実は僕、こことは違う別の世界に住んでいたんだ」
「はい、知っていますよ」
「えっ!?」
知っている? どういうことだってばよ!?
「ああ、間違えました。なんとなく気づいていましたよ。魔法を一切使えませんし、精霊の存在も知らないみたいでしたからね」
流石だなルーク君。圧倒的な理解力だあ。
正直、それだけの情報だけで、僕が異世界人であることを確定するのは、無理があると思うけど。
「別に、一々カミングアウトする必要はないと思いますよ。説明する側もされる側も面倒ですから」
そうか、ルークくんが言うならそうするべきなのだろう。
「ミラさんは知っているんですか? コバヤシくんが別の世界から来たというのは」
「いや、初めて会ったときに、『記憶喪失です』って誤魔化しちゃったし、別に生活に支障はないから、これからも言うつもりはないよ」
「一緒に働く仲間に隠し事はしない、っていうのはどこにいっちゃったんですか……」
そんなことを話していたら、リフィアさんとミラがこちらにやってきた。
「害虫駆除ありがとうございました。それで、報酬の方はお幾らお支払いすればよろしいでしょうか?」
そういえば、何も決めずにはじめてしまっていたな。安いと紹介されて来させてしまった手前、それなりに低い値段を提示しないと。
「ミラ、ギルドでの害虫駆除の依頼の報酬って幾らくらいだったかおぼえてる?」
「確か、八千タラスくらいだったかな」
タラスというのはこっちの世界の通貨単位である。
冒険者への報酬が八千、ギルドへの手数料が20%だとすると、依頼者の払う金額は一万だから……
「もうよくわからなくなってきたから、六千タラスくらいでいいんじゃない?」
ちょっと安くしすぎかな? でもこの世界、電気代とか水道代とか存在しないし、食パン1斤で百五十タラスくらいだし、飢死にする前には次の仕事も来るだろうし大丈夫、大丈夫。
「そんなに安くていいんですか!? 本当にありがとうございます。何かあったらまた、こちらのお店に依頼させて頂きます」
そして、リフィアさんはお金を払い帰っていった。
「じゃあ僕も帰りますね。また明日」
「うん、また明日」
ルークくんも家に帰っていった。
「ルークもこの店で働くことになったのか? 仕事を持って来てくれて退屈しないし、お前より優秀だし、よかったじゃないか」
ミラはいつも一言余計なんだよなあ。事実ではあるけどさ。
「ふぁあ…………今日は疲れたな」
ミラは大きな欠伸をしていて眠そうだ。さすがのミラでも、久しぶりの実戦で疲れているのだろう。
「ファイア、ファイア言いすぎて疲れた」
ああ、そこなのか……
うん、やっぱりミラは流石だ。