第4話 スイングバイ
「ねえララちゃん。この真由ちゃんがどうしても攻略できないんだけどさ。何処で引っかかってるのかな?」
「ネタバレは厳禁となっております。人型機動兵器のOSに美少女ゲームをインストールするのは如何なものかと思います。しかも18禁など公序良俗に反する行為です」
「ケチ」
「後で叱られても関知いたしません。私は無関係です」
「いやー、ララちゃんのその怒った顔が最高だよね」
「それは貶しているのですか。褒めているのですか」
「勿論褒めてます。ボクは嘘つかない」
「確かに遠山伍長は正直ですね。しかし、欲望に馬鹿正直なところは改めた方がよろしいかと存じます」
「それは人間の性だからしょうがないよ。ところで、急に敬語使うなんてどうしたのさ」
「元々の設計者の癖でしょう」
「あ、由紀子ちゃんの事?」
「そうです」
「あの子も突っ込みはキツイのに言葉は馬鹿丁寧なんだよね。そういうの何て言ったっけ」
「慇懃無礼と申します」
「そうそう慇勤無礼」
「濁点が抜けると下ネタになります。拳があればぶん殴ってやる所ですよ」
「あはは、ごめんごめん。由紀子ちゃんの事思い出したらだんだん腹が立ってきたよ」
「お気持ちは理解しますが冷静な対応を希望します。もうすぐスイングバイに入ります。途中より再加速をいたしますのでご準備ください」
「わかりました。ではセーブしてログアウトしてっと」
月へ落ちていく。
月の重力に捕まり、そして反対側に投げ飛ばされる。それに月の公転速度が加わり加速される。
これが加速スイングバイ。
ここでプラズマロケットを噴射しさらに加速する。
そして小惑星へ背後から接近し対小惑星破砕弾頭をぶち込むのだ。
「ララちゃん聞いていい?」
「はいどうぞ」
「どうしてバックから突っ込むの? 前からの方が相対速度が大きいから威力が上がるんじゃないの」
「また下ネタを」
「ごめん。今のは不可抗力」
「正面からだと破片が全て自機へ向かってきますよ」
「ああそうか」
「それに、相対速度が設計速度より早い場合は確実な起爆が見込めません」
「なるほどね」
機体は放物線を描き月に最接近する。月を掠め再び離れていく。
そして推進用のプラズマロケットが点火された。
「くはー。この加速は効くね」
「ガタガタ言わないで下さい。あと30秒」
ララは相変わらず冷静だ。AIだから当然だけど、この人間味のある彼女が冷静でいてくれる事は気持ちが落ち着く。
レーダーが正面に小惑星を捉えた。光学カメラも小惑星を捉えその映像を映し出す。その小惑星は歪なコンペイトウの様な形状をしていた。
「予定速度に到達しました。加速終了します」
「了解」
「ゼウスの雷発射まであと30分です」
「了解」
「核弾頭の起爆コードを受領しました。15分後に入力お願いします」
「了解」
来た。
初めて扱う核弾頭。
訓練では何度も繰り返してきた手順だけど実戦では初めてだ。
今は26世紀だけど、未だ無くなっていない核兵器。そして有用な兵器として普通に運用されている。そんな核を携えている自分に興奮する。反核運動家からは核を使用した悪魔なんて罵られるのだろうけど、そんなことはどうでも良かった。
東京の命運を握っている緊張感と高揚感に包まれる。よくからない感情だった。