7.喧騒の一幕後編
後編になります。戦闘描写を上手く書く語彙力をくだサイ
私は格闘技などはあまり見ない。スポーツ自体は好きだし、両親の勧めもあって子供の頃から身体を動かすのはよくしていた。ソフトボールやバスケットボール、バレーなどの球技が多かった気もするが、体格にも恵まれたおかげか、そこそこの範囲で楽しんでやれていた。
そんな私でも時々目を背けたくなることもある。例えばそう……結果の明らかな試合などはそれのいい例だろうか……。
このゲームにおけるユニークとはプレイヤーが勝手に呼んでいるだけのただの【スキル】だ。
では何がユニークなのかというと、取得報告者が3人未満の場合そう呼ばれている。
それは取得条件が厳しかったり、特定の【スキル】構成でなければ取れなかったり、今までの行動によって発見されるスキルもある。こうしたものは、相応にして他の派生進化のものや基本的な【スキル】に比べて強力だ。βテストの時はそのユニークでさえ10人ぐらいしか取得できなかったと終わり間際に先生から聞いた記憶がある。
そしてそれらの【スキル】は強力ゆえにβテストの時に比べて取得条件が変わっていたり、デメリットが大きかったりするのだ。
前置きが長くなったが、何が言いたいかというと、そんなユニークを持っている上にあの最悪のレイドバトルを経験したことのあるプレイヤーに、まだ初めて1日のプレイヤーが勝てるわけがない。少なくとも2週間はしっかりとゲームに慣れ【スキル】を育てて身につけるほうがいい。
おそらく虚言でいったことが、掲示板でお祭り騒ぎになってしまい、後に引けなくなったとかなんだろう。
さて、あんまり見たくはないが、どうせ決着はすぐに付くだろう。
決闘フィールドは所謂コロッセオのような闘技場型で、真ん中のフィールドが地面と草だけとなっている。観覧者はその周囲を少し上から見ているような形だ。お互いが向かい合って立っている。
最初に行動に出たのはβ組だ。
「さてさて、まずは、私たちの“子”を紹介しましょう。」
金髪に黒服の少女、マキナ・シュヴァルツが一歩前に出る。すぐ隣にはまるで鏡のように、しかし色の違う片割れの、銀髪白服の少女、マキナ・ヴァイスがそっとシュヴァルツの手を握り二人はお互いを見つめ、頷く。
「それではご覧下さい。私たちのギルド“人形帝国”より、作品番号1“悪夢の少女”」
二人の間から空間が現れる。その空間からゆっくりとソレは這い出してきた。
優に3Mぐらいはありそうな2本の木の腕に支えられた、不格好な小さな身体に水色と黒が混ざったようなフリルの服を身に付け、どこか愛嬌を残しつつも、目隠しをつけた女性型の人形が出てきた。
その人形はそのまま腕を地面につきさし、胴体は浮いた状態となっている。
ツヴァイ曰くこれは【人形作成】というユニークらしい。というのも先生は情報をもらってなおこの【スキル】
についての取得条件が明確にならないそうだ。彼女たち自身は確信を持っているようだが、そこまで提供する義理はないだろう。また、【人形作成】には同時に【人形操り】という【スキル】も獲得するらしい。効果はそのままだが、レベルが低いうちだと一人での操作が覚束無いそうで、二人で操ることが多いようだ。
まぁ、この人形を見たりしたのもベータのレイドの時だけなので、このユニーク自体初めて見る人の方が多いのだろう。実際相手側はほぼ硬直している。
「まだレベルが低いのでところどころ粗が見えてしまうのが難点ですわね。」
「いやいや、十分だと思うよぉ~?これは本当に僕の出番ないかもなぁ……」
「ゆっくりするのはいいことですよ先生。大人しく私たちの行動でも見ていてください。」
「あ、はーい後ろで薬品でも作ってるよぉ」
その会話で正気に戻ったのか、相手側が武器を構え2人が人形を抑え、残りが襲いかかろうとする。
しかし、そう簡単にはいかない。
まず、人形を抑えようとしていた擬似タンクの2人が5秒も持たずに吹き飛んだ。
片腕だけでも3Mはある腕を使い片手でバランスを取り、もう片方で殴ったのだ。
その光景に思わず足を止める攻撃側、しかしそれが余計に良くない。
「あぁー何もしなくていいとは言われたけど、何もしないとは言ってないよね?そう簡単に目をそらしていいのかなぁー?」
「え?あぶっがはっ」
「特製の毒ポーションだからスリップダメージは毎秒600。毒耐性持ちには効かないけどそれ以外にはただの即効性のダメージポーションだよねぇ」
目を離したすきに逆に先生に近寄られた一人が先生作のポーションを食らったようだ。
先生の持つユニークはローリスクローリターンタイプの珍しいユニークで【薬効増加】というものだ。
これは取得条件が明確になっているので、先生曰くあと1週間ほどで特殊【スキル】という認知を受けるだろうとのこと。
効果は単純、ポーションなどの効力を高める代わりに、効果時間が短い。例えば今の毒ポーションなどはスリップダメージは高いがその効力は2秒~5秒程度だろう。一般的な毒ポーションなんかは10~30秒はするのでその差は明確である。また、回復ポーションなんかには効果が適用されないようだ。
これで、開始10秒で既に3人が撃破、残り三人も戸惑いを隠せないでいる。
「ふ、ふざけるな!なんだこの【スキル】お前らはあれか、チートでも使ってるのか!!」
「んなわけないでしょぉ?【スキル】だよ全部。それと、自分が持ってないからってやっかみでそんな言葉を使うなぁ?大体GMが不正ツールなんか許す訳無いでしょ?」
先生がにこやかに答える。
しかしそれでも、最初からあたっていた……名前もわからない自称プレイヤーさんは騒ぎ立てる。
「うるさいうるさいうるさい!どうせそうに決まっている!じゃなかったなんで俺がこんな……」
「うるさいのはどちらですか、それに取り巻きに守られて最初に自分から突っ込んでこない人が何を仰ってるんですの?」
「見苦しいです。シュヴィ残りも早く倒して南の山岳に戻りましょう。」
「それもそうですわね……」
残っていた二人はどうやら、自称プレイヤーのことを見捨てたらしい、自身の装備がこれ以上ダメージを受けないようにまもりを固めている。
「私自分が負けるとわかっていて、守りに入るのを卑怯だなんだとも思いませんし、実際私もそうすると思いますわ。」
「同感です。それでも、熱が冷めたからなあなあで済まそうとするのは嫌いです。」
「そうですわよね?だから先に倒れなさい!」
“双子人形”は自身の操る人形に命令をする。
人形は守りに入っていた二人を地面ごと上に投げる。そして空中でその大きな腕を持って挟み散らす。
赤いダメージエフェクトがキラキラと地上に舞う中、ゆっくりと先生が自称プレイヤーへと近づいている。
「別にね、ベータが偉いとか言うつもりはないけどさ……あんまり駄々を捏ねるのはやめたほうがいいよ?」
「う、うるさい……し、しねえええええ!!!」
自称プレイヤーはそのまま先生に対して装備している片手剣で切りかかる。
それでも、その刃が届くことはなく、むしろ貫かれているのは自称プレイヤーの方だった。
先生が持っているのは独特の形状の片手剣。中央には孔が空いている。それがどういう用途なのかはわからないが、今はただ貫くためだけに使用しているようだ。
「はい、これで終わり。残念だったねぇー子供はゆっくりおやすみ?もう夜は遅いよぉ。なんだったら母親と一緒に寝ればいいんじゃないかなぁ?怖い夢でも見るかもしれないんだからねぇ~?」
自称プレイヤーは最後に恐怖したような顔をしてダメージエフェクトを散らしながら消えました。
おそらくあの視点だと、にっこりと笑みを浮かべる刃物を持った白衣の女性と、その後ろに巨大な腕を持つ人形が見えたのでしょう、私でもあんまり見たくない絵面ですからね。
決闘フィールドの中央部分にモニターが写し出される。
『決着。これにより契約は執行される。以後サラン、フラワー、999、砂糖、芝生頭、ロジは先生、マキナ・シュヴァルツ、マキナ・ヴァイスにその真名を見せることを禁ずる。』
GMのアバターだろうか?どこか無機質な表情のアンドロイドのような白い女性が画面に写りそう告げた。
告げるとすぐに消えてしまったので、どこか先生はショックな顔をしている。
戦闘が終わるとすぐに、元いた場所に移るようだ。
「お疲れ様三人とも」
「リーちゃんありがとう、まあ見せしめはいい具合かなぁ?」
「私は全く足りませんけれども。」
「私もあんまり足りてません。」
随分と血気盛んな双子です。そもそも6人中4人はほぼ何もしないで二人の人形に潰されたのだから、十分だと思うのだけど。
「あ、そうだツヴァイさ、フレンド交換しようよ」
「ええ、もちろんですわ。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
私は二人にフレンド申請を送る。すると直ぐに許可の通知が流れてきた。おそらく流れ的にこのあたりで解散になるだろう。そこで私はふとあることを思い出した。
「そうだ、今度時間があるときに私のフレンド紹介したんだけどいいかな?」
「私はいいですわよ?ヴォルフの知り合いなら面白い方でしょうし」
「私も大丈夫です。おそらくシュヴィと一緒でしょうから。」
「ん?そのフレンドってもしかして、彼女かい?僕まだ会えてないんだけどぉ???」
「そう、彼女ですよ、まあ今頃は図書館に篭ってるかもう落ちてるかもしれないかな」
私はコンソールを出してフレンド確認するけれど、ログアウトしているようだった。
まあ、リアル時間では1時頃かな、生活リズムを崩すわけにはいかないので、私もこれでログアウトかな……。
「ん?図書館?この街のは何故か無くなっていたけれどぉ……いや、昼間にアナウンスがあったねぇ。あれはやっぱりそういうことなのかい!?」
「はいはい、先生は詳しいことはチェルカに聞いてくださいねー」
「チェルカというですのね?覚えておきますわ。」
「会うのが楽しみです。」
そしてその後無事にログアウトしたのがまさかのリアルでの3時間後の4時。理由はツヴァイの使った人形がどうやらひどく耐久が低いらしく、南の山岳地帯に生息するトレントウッド系の伐採を手伝わされたからだ。
ログアウトして私は携帯端末を確認するとメッセージが一通。そこには大事な友人からの日付の変わった今日に関するメッセージ。
「起きられるかな……まあおやすみだから、最悪寝てても……起きよう」
寝過ごしきったあとの友人の顔を想像して、そう決めた私は八時半に目覚ましをかけて意識を手放すのでした。
明日は一日目が終わりましたので掲示板回投稿です。基本的に感想などで質問があったら定期的に書く掲示板回で話題に出して解決できたらいいなと思ってます!