6.喧騒の一幕前編
どうもこんばんは、持論ですが1話あたり5000~6000前後が読みやすいと思っているんですよね。
なので、分割しましたー……1話で納めたかった……今日中には後半部分を投稿するつもりで書いてます。
今回と次話は主人公ではなく幼馴染み視点です。
ゲーム開始してから半日、ゲーム内時間で2日目、様々プレイヤーがレベル上げや素材集めに勤しむ中、私リード▪オルタナティブこと牧村理織は初期リスポーンの噴水前で待ち合わせをしていた。
今から10分ほど前、西の草原でレッサーウルフを狩っていたところフレンドチャットが飛んできたのだ。
「はろはろ、リーちゃん今暇かなぁ?」
「あれ先生珍しいですね、どうしたんですか?」
「いやちょっと面倒事でねぇ、手伝ってもらえないかなって」
「まだ開始1日目ですけど、どんな問題を起こしたんですか?」
「人聞きの悪いなぁ!僕は真面目で堅実で誠実で欲望に忠実なプレイをしているだけだよぉ?」
「それで要件はなんですか先生?」
「スルーされたぁ……まあいいだろう!第一の街の噴水前でこれからゲーム内で10分後に会えないかなぁ?そこで事情は説明するよ」
「わかりました、良いですよ向かいますね」
「いやーリーちゃんは話が早くて助かるわぁー」
「それじゃああとで」
「……多少つれないけどねぇ……うん、あとでねー」
そんな感じで私は待っているのだ。普段の智歳との会話ならともかく先生のペースに合わせたら疲れるのはβの時に学んだから、あの対応は間違いじゃない。そもそも、先生が問題を持ってくるときは大体後押しが必要とか、呼ばれた本人は一緒にいるだけで良いみたいなことが多い。それでも時々ボス戦みたいな準備が必要なものも持ってくる。そういうのは急に持ってこられても困るものだ。
さて、待ち合わせの10分は過ぎたが先生はまだだろうか?
「あ、いたいたぁ。リーちゃんごめんね待たせて」
初期りスポーン地点の噴水前でも、少なくなったとはいえ未だスタートしたばかりのプレイヤーがいる中、明らかにプレイヤーメイドだとわかる、私よりも少し背の低い白衣の女性がやってきた。
「先生はもう白衣作ったんですか?」
「ん?あーこれ?そうだよ知り合いの【裁縫】持ちにお願いして初期ローブを材料に改造してもらったよぉ。」
「既存装備の改造ってその【裁縫】持ちの人相当レベル高いですね……」
「まぁ、もう【裁縫術】に派生進化してるみたいだからねぇ」
「なるほど、そうなんですね。それで先程から後ろに見えてる黒白はもしかして?」
先生と話ながらだが、先程から先生の後ろで黒い服の端と白い服の端が見えている。
「なんだ見えていたんですの?」
「つまらないです」
先生の後ろから観念して出てくる小柄な美少女、二人ともほぼ同じ顔だが、服の色と特徴的な髪色。サイドテールの結ぶ位置が違う。
白いゴシック調のドレスを身に纏っている銀髪の右サイドテールのマキナ▪ヴァイス。
黒いゴシック調のドレスを身に纏っている金髪左サイドテールのマキナ▪シュヴァルツ。
有名な双子のプレイヤーだ。
「お久しぶりツヴァイ元気してた?」
「もちろんですわ」
「ヴォルフも元気してましたか?」
「うん、元気してたよ、ツヴァイも先生に呼ばれたの?」
「呼ばれたというか連れ出されましたわ……」
「断ったら南の山岳まで来たので諦めました。」
「先生?幼女誘拐は同性でもアウトですよ?」
「リーちゃんは酷くないかなぁ?誘拐ではなく同行をお願いしただけだよぉー」
「でもまさか“双子人形”まで連れて来るなんて本当にボス戦でも行くんですか?」
「ふふん“双子人形”と“三頭狼”だけじゃなくてねぇ~」
「それでは、私が最後という訳ですね?」
不意に後ろから声をかけられた。とっさに振り向くと傷だらけの革装備を身に付けた華奢な女の子、金髪にエメラルドの瞳とマキナ達と劣らない美少女であるが、それよりも目を引くのはその背中に装備してある大剣だろう。少女の身の丈よりも少し大きいぐらいのその大剣は、少女とは明らかに不釣り合いである。しかしこの少女はそれをまるで自分の身体の一部のように振り回すから驚きだ。
「遅れてしまってすみません。連絡をもらってすぐに移動したのですが少し距離が遠くて。」
「ちなみにどこいたのか聞いてもいいかなぁ?」
「北の洞窟でオーガと組み手をしてました。」
……オーガと組み手?その場にいた四人と遠巻きでみていたのか、他のプレイヤーも一同に動きを止めた。
脳内での処理が終わったのか先生が笑いだす。
「あははははは……オーガと組み手って……あはははは、流石すぎて一瞬何を言ってるかわからなかったよね、あはははは」
その場でしゃがみこんで大笑いする先生に一歩引いた状態で黒服……シュヴァルツが私に袖を引っ張り話しかける。
「オーガってたしか一般プレイヤーでも4人ぐらいがPT組んで倒すような序盤中級ぐらいの敵でしたわよね?」
「確かそうだね……まあほら、“一刀両断”の人助さんだから……」
すると反対側から白服……ヴァイスが話しかける。
「私はそのとき参加できなくてシュヴィだけだったのですが、いまいちイメージがつかない人ですね。」
「あ、そういえばあのときはいなかったね、もうなんていうか、私とシュヴァルツが両側を抑えていたとはいえ、レイドボス相手にまさに一刀両断。部位破壊可能とはいえレイドボスが真っ二つは予想外だよね……」
私達三人は呆然と先生は先生でツボに入ったのか大笑いのまま、とうの本人は何で笑われているのかわからないという顔で、ただただ慌てている。
「あ、えっと先生?どうして呼ばれたのか要件を言ってください」
「ふひぃ……はぁはぁはぁ……ふぅーそうだね!」
「何であんなに笑われたのでしょう……」
「まあまあ人助さん気にしないほうがいいですよ。」
「しょうがないですわよ先生ですもの」
「狂人とも言いますね。」
「双子達は相変わらず辛辣だねぇ……さてジンちゃんも来たし、まぁ簡単に説明するとねぇ?私たちは喧嘩を売られました!」
……その一言で先程とは正反対の静寂が生まれる。ほんわかとした雰囲気から一転ピリッとした空気が流れる。主な原因は“双子人形”からだ。
「それはまた面白そうなお話ではありませんか?」
「うん、どんなお話ですか?」
「おーおー食いつくねぇ……まぁ簡単な話さ、今から現実で2時間ほど前に掲示板で豪語したやつがいてねぇ?“俺がβテスターだったら第4の街までは開放してたんだろうにな”て。まあそれに乗っかったバカがいてね?最終的には今からそのトッププレイヤーにカチコミに行きますー!で、掲示板は大盛り上がり?しまいには僕のところに情報が来て、どうにかしませんか?とのこと……オッケー?」
「私別にトッププレイヤーとか興味無いから好きにしてって感じなのですが……」
「私もどうせ初めて2週間もしたらPSの低いのは最前線まで来れないだろうし、没個性で勝手に引退するだろうから、あんまり興味ないなー」
実際問題その自称トッププレイヤーの某が活躍するなら勝手にしてほしい。積極的に攻略するなら手伝うことも厭わない。そもそも、トッププレイヤーというならどうしてあの人達がこの場にいないのだろう。
「そもそも、私自身最前線は絡みに行ったけど、トッププレイヤーといわれるようなのは、ユニークのおかげだし、何よりトッププレイヤーならどうして“披ダメ零”さんや“刺突独楽”さんは呼んでないんですか?」
「うーんロー君は連絡つかないからきっと色々と走り回ってるだろうし、刺突の彼は今日はログインできないってβの最終日に嘆いてたからログインすらしてないよ。そうなったら君たちが最適だろう?」
「それは……」
「そもそも、トッププレイヤーと呼ばれていますが、この二つ名をつけたのは、あなたですわよね先生。」
「まあ、それはそうだね、それに共通点としてはβ最悪のイベントレイドボス戦のPTリーダーかな?あ、双子は除いてね?片方につけるようなものじゃなかったし。」
βテストの時に3つのイベントがあった。そのうちに一つが“神獣スレイプニルの幻影を討伐せよ”というレイドボス討伐イベントだ。参加人数は6人PT6つの36人。私も含め二つ名を先生がつけたのは、その時のPTリーダーだ。もちろん、その時のメンバー以外が私よりも弱いかと言ったらそういうわけではないが、運と少しの乱数のおかげで私たちはクリアできたが故にトッププレイヤーなんて言われているのだろう。
「まあだからなんだろうね、βはたしかにテストプレイヤーではあるけどさ、そこまでなめられたこと言われる筋合いは無いと僕は思うんだよねぇ?だからさ、PVPをしないかな?というのが今回呼んだ理由かなぁ」
PVP……プレイヤー対プレイヤー。このゲームではお互いの同意の元、セーフティエリアでなら決闘システムということで、何かを賭けたり、組み手のように行うことができる。
セーフティエリア以外では同意の要らないPKもあったりするのだが、流石に辻斬りのようには行わないらしい。まあ、そんなことを提案したら止めるけれど。
「それは喧嘩を売ってきた方は乗ってくるんですの?」
「そもそも、匿名掲示板だと会うのも無理ですよ。」
「僕がその辺用意しないで提案するわけないでしょ?そもそも、これを持ちかけてきたのは向こうだしねぇ」
どうやら相手側から誘ってきたらしい、つまり先生に情報を流したのもきっと当の本人なのだろう。しかし私は……
「うーん、ごめんなさい先生やっぱり乗り気になら無いかな……」
「おや?さっきも言ってたけど、ちょっと予想外。リーちゃんなら食いついてくれると思ったんだけどなぁ~」
「ユニークもまだ獲得出来てないし、装備もまだな状況で“三頭狼”って言われてもって感じがしてね……」
「あーなるほどねぇ、装備由来のユニークだったもんね君のは。なら仕方ないかなぁ」
私のユニークは特殊な条件の積み重ねなので現状の獲得はほぼ不可能です。そんな中戦われても相手は不満でしょう。
「私は参加しますわ」
「私も参加します。」
「うんうん、双子は乗ってきてくれたね、ちなみにスキルは?」
「私達が取らなくて誰があの子を取るんですの?」
「素材はちょっと少ないですが、第2の街の中ボスぐらいは倒せると思います。」
「十分だよ、よく集めたね?」
「色々とありましたが、頑張りました。」
「一刻も早くて会いたいのですから仕方がないでしょう?」
双子のスキルの取得条件は知らないけれど、素材関係だっていうのは教えてもらったことがある。しかし、話を聞く限りでも開始1日目で第2の街の中ボスとは相当な火力が出るのだろう。
「私も不参加ですね、興味が湧きません。そんなことをするならオーガと組み手を続けた方が良かった気がします。」
「ありゃージンちゃんも不参加かぁ、まあしょうがないかな……だったら参加しなくていいから二人も一緒にPVP見に来てくれないかなぁ?」
「どうしてですか?」
「ここまで話して結末を見ないというのもさ……?」
「別に私は最後までみるつもりだから良いですけど」
「私は戻りたいですね」
「うーんそれならジンちゃんは仕方ないかな……あ、来てくれたお礼にあとでオーガのドロップの相場と良い鍛冶士紹介するよぉ?」
「ドロップの方は嬉しいですが、鍛冶士は結構です。βの時に懇意にしてくださった方がいらっしゃいますので。それでは皆様またどこかで会いましょう」
人助さんはそのままどこへ移動していった。まああの人なら、どこにいても噂を聞くだろうから用が出来たら探せば良いかな。
「さてさてすべてが終わったら各々にもちゃんと情報とか渡すから安心してねぇ?その辺僕はクリーンにしっかりするよぉ!」
「自分でクリーンとか言う辺りあんまりよくないと思います。」
「仕方ないですわよヴァッシュ?この変態はそういうものなんですわ」
「シュヴァルツの言うとおり、先生に対して気にしたらダメだよ?」
「おかしいなぁ?割りとまともなことを言ったんだけどなぁ?まあいいさ。とりあえずメインストリートで待ってるとか言ってたから、そっちに移動しようか」
私たちはそのままメインストリートへ歩き始めましたが、すぐにその人混みの多さから、初日からいきなりイベントみたいになってしまっているんだなと感じた。
「先生野次馬が多いですわ!」
「僕に言われてもねぇほらほら、退いて退いてー」
集まっている人たちは私たちに気づくとゆっくりと左右に分かれて行く。
野次馬の中心には6人ぐらいの男性プレイヤーがいました。
「お、逃げずにちゃんと来たようだな!」
「今時そんなセリフを口に出す人もいるんですわね」
「そもそも、なんでまだ初期装備なのにあんなに元気なんですか。」
「普通は1日や2日でオーダーメイドの装備を着てる方がおかしいからねぇ?」
「まあまあ、彼がきっと向こうの大将的な人なんだよ、あんまり言ってあげるのも可哀想だからね?」
三者三様、いやほとんど真ん中の男性プレイヤーへの関心の薄い対応かな。
「うるさい!どうせβテストの時のコネとかを使ったんだろ!」
「コネといいますか、人脈は使いますわよね?」
「それがプレイヤー格差を生むんだ!」
「ようは妬みですね。男性の妬みほど小さものはないと聞きますがどうなのでしょうか。」
「まあ少なくとも彼の器は小さいよねぇ……さて、喧嘩を振ってきたのは君だとして後ろも一緒かい?」
先程からうるさいぐらい騒いでいるプレイヤーの後ろで、少なくとも初期装備ではないプレイヤーが立っている。
「ああ、そうだ!β相手にするんだ人数差ぐらいはいいだろ?それとも女だからってその辺手加減しろとか言わないよなー?」
しょうもない煽り。そもそもこのゲームにおいての男女差なんてほぼ無い、あるとしたら装備の差、【スキル】の差、PSの差。性別の差なんて今時あるわけがない。
しかしそれに対して、どうやら実際に戦う三人には気に食わないらしい。
「そっかそっかぁ僕は問題ないなぁ、双子達は?」
「愚問ですわ、むしろ私達二人でもいいですわよ?」
「うん。2対6でも負ける気はしません。」
「それだと僕が手持ち無沙汰になるじゃないか、ちょっとぐらいは参加させてくれよぉ?まあ、そういうことで3対6で全然問題ないよこっちはねぇ。」
「なめやがって……いいぜ勝負だ!コール」
コールの宣言とともに空中に二つの陣営の真ん中にコンソールが現れた。
『コールの宣言を確認しました。戦闘条件を提示してください。』
「6対3のバトルで最後まで生き残っていた陣営の勝利だ。賭けは……そうだな、こっちが勝ったらユニークの情報と装備を作ってもらおうか!」
「そうだねぇ、僕は別にいいけどぉ?」
「私達も問題ないですわ」
「異議なし。」
「ならそうだねぇ……こちらの提案は負けたら今後一切僕たちにそのIDを見せないでね?」
「ID?……ふん!別にいいだろう!」
『提示がされた。受理しよう。』
決闘システム自体は初めて見たけれど、GMを召喚するようなものなのかな?それにしても……IDを見せないというのが、先生に対してどれだけのものかわかってないんだろうな……。
どうやら周りの何人かは気づいているようで一部では手を前に合わせている。
『それでは決闘フィールドを展開する。両陣営以外のプレイヤーは10秒後にランダム客席へ移動。関係ないものは速やかに移動をしなさい。』
カウントが表示されるが、周りの野次馬もようやくといった具合に移動はせず、今か今かと待ちわびている様子がうかがえる。
カウントが0になると視界がホワイトアウトする。