4.少女は本を求める。
ストック?そんなの休みの日につくるんです!書いたら即投稿ッ
青く透き通る空、白く形を変え青に混ざる雲
背後からは水の音が聞こえてきます。
どうやら背後は噴水のようですね。
辺りを見渡すと同じようにチュートリアルを終えたプレイヤーが好きなように探索しているようです。
「さてと、まずは探索かな……」
「おーいチェルカー」
名前を呼ばれたということは、私に対して声をかけてるということです。
自身の回りを見渡すと多数のプレイヤーの中で長身の女性が手を振っています。
キャラクターの頭上にはキャラクターネームが表示されるので確認してみるとリード▪オルタナティブと出てます。間違いなく理織ですね。
「リードで良いのかな?」
「うん、それで良いよー」
「それにしてもよく見つけられたね?結構人がいるのに」
「まあチュートリアルはほぼスキップして始めの方にいたからね、来る人のネームを確認すればそんなに難しくないよ?」
「あ、それじゃあ結構待った?」
「うんうん、大丈夫。そもそも部分的に加速時間変えてるみたいだから」
「あ、このゲームってどのくらい?4倍?」
加速時間とは実際のゲーム内時間とリアル時間の差のことです。リアル時間にあわせたゲームだと現実の世界にあわせてイベントなどが変わってしまうため、大体のMMOでゲーム内の時間を早めているところがほとんどです。
例えば4倍、実際の時間から4倍進めている状態だと、ゲーム内の1日はリアル時間だと6時間です。たしか最大8倍でそれ以上は脳に多大なダメージを与えるとか読んだ記憶があります。まあ4倍でも多少のダメージはあるようですが……
「4倍だよ、まあそれが一番ゲーム的には良いんじゃない?」
「まあ廃人じゃなければ確かにね、リードはこれからフィールド?」
「うん、βとの違いを確認したいし、チェルカも一緒にいく?」
「まずは街の探索かな、図書館に行く前に基礎的な常識は調べておきたいし」
「やっぱりそうだよね……了解であります!リード二等兵はこれからモンスター討伐にいって参ります!」
ビシッと敬礼つきでこの友人は何を言っているのでしょうか、おかげでまわりのプレイヤーからは注目を浴びています。……まったく私がこれに乗らなかったらどうしていたのでしょう、そのまま文句だけ言いそうですね。
「了解しました、チェルカ上等兵はこれより街の探索を行います、連絡はF、緊急要件はTでお願いします!」
しっかりと敬礼をつけて返すとお互い見つめ合い……笑いだします。
「はははっ……ああおかしい、了解連絡はフレンドチャットで緊急は通話だね、チェルカのノリの良さ好きだなやっぱり」
「ありがとう、それじゃあ動こうか」
「そうだね、じゃあ何かあったら!」
こうしてリードと別れました。
さて別に基本的に一人が良いとかそういうわけではありませんが、初めての街となるとどうしてか、一人黙々と探索したくなる性分です。
看板を確認しながら街を探索していますが、1つ目の街ともあってあまり大きな街ではないようです。また、【言語】を持っていても経験が低いと読めない文字があったりします。これは急いで図書館を探すしかありません。
しかし食堂と道具屋に、鍛冶屋、防具屋に仕立て屋、冒険者ギルドにマナ教会それと孤児院…………
図書館が見当たりません。マナ教会と孤児院というのは気になりますが、まずは図書館です。しかしこれだけ散策して見当たらないとしたら、もしやこの街には無いとかそういう落ちでは……いえ、その場合はリードがちゃんと言うはずです。きっと探し方が足らないのでしょう。
それなら諦めて素直に誰かに聞くことにします。
ということで気になったマナ教会へ入ります。
「うわぁ、これはまた……」
中はキリスト教の教会みたいな、ステンドグラスに十字架ではありませんが、似たようなオブジェクトが置いてあります。私自身は無宗教なので特に思うところはありません。とりあえず牧師のような人がいるので聞いてみましょう。
「すみません、少しお話良いですか?」
「はい、なんでしょうかお嬢さん」
割りと渋めな方です。この世界のAIは相当学習なども良いようで、まるで本物の人間と話してるような錯覚を起こすとかなんとか……
「道をお聞きしたいんですが、この街の図書館はどこにありますか?」
「図書館ですか?……そうですね、この街の図書館は今から数年ぐらい前に焼けてしまって今はないんですよ」
「え、焼け……?そのときの本は?」
「幸い点検中で焼けたのは建物だけで本だけならここの倉庫にしまってありますよ。」
「あ、よかった……何で焼けたりしたんですか?」
「さぁ……それは今でも原因不明でしてね、わかっていないのですよ、なので再び同じことが起こるかもしれないということで、この街では図書館を建てていないんです。」
「なるほど……あの、そのしまってある本って読むことはできますか?」
「旅のかたの面白がるような本はありませんが……」
「いえ、それでも読みたいんです!どんなものであっても」
「……わかりました、どうぞこちらです。」
なにやらフラグを踏んだ気もしますが、幸先は良さそうです。入ったところが半ば目当ての場所だったのですから。しかしそれにしても不思議ですね……数年前に焼けたですか……この辺りはリードにも聞く必要がありそうですね。
「さあここです。持ち出しは厳禁ですがご自由にお読みください」
頑丈そうな鉄の扉にしっかりと鍵がかかっています。その前で牧師さんは鍵を渡してくれました。
「ありがとうございます!えっと……」
「?……ああ、私はここの管理人ゼズペットと言います。」
「ありがとうございますゼズペットさん、私はチェルカです。かなり長くなると思いますが、お世話になります!」
私はそういうと扉を開け中に入っていきます。
中は仄かに明るく本棚によって、中央にあるランプの光が奥まで届いていないようでした。
どこか埃っぽい気がしますが、ここはゲームの中なので気がするだけでしょう。
私は試しに近くの本をとろうとしたところで、視界の下にテロップのようなものが流れてきました。
『プレイヤーが失われた知識を開放しました。』
「……これは私のせいかな?」
匿名のせいで私という確証はありませんが、あまりにもタイミングが噛み合いすぎです。それと流れてきたメッセージ的に図書館の開放ということで良さそうな気もします。
「……見なかったことにしよう。」
それが一番平穏に過ごせます。私は気を取り直して近くにあった一冊を手に取ります。
「……の……せ……い……読めない」
【言語】はもってますが、どうやらレベルが低くてこの本は読めないようです。
「そもそも、経験とは聞いたけど、レベルアップとかするのかな……?」
気づいたことにゲームにログインしてから一度もステータス画面を確認していませんでした。
name:チェルカ
スキル
【言語】Lv6【火魔】Lv2【水魔】Lv1【風魔】Lv1【土魔】Lv1
【棒】Lv2【錬金】Lv1【調合】Lv1【鍛冶】Lv1【魔力感知】Lv1【観察】Lv1
所持金:1000R
装備
頭:なし
胴:初心者のローブ(翠)
腕:初心者の腕輪(銀)
足:初心者の靴(茶)
武器:初心者の杖(星1)
「あ、一応上がってる。チュートリアルでも一応上がるんだね……さてそうなると純粋に言語のレベルが足らないんだね」
現段階でレベル6ということは看板だけではなくNPCと話しても経験値は入ってそうですね。
しかし私の場合は会話よりも読む方が良いですね。なんとなく上がりやすい気もしますし。
「さてまずは絵本を探さないと……」
私はどんなゲームでもまずは図書館に行くタイプですが、その中でもいきなり特定の本を探したりするのではなく、絵本や児童書を読み始めます。日本語に変換されるとはいえ言葉を覚えるには一番です。
「あった……えっと“しろのじょうおうとくろのおう”」
軽く捲る限り一通り読めそうな雰囲気ですので、この本にしましょう。
適当な場所の埃を払い床に座って読み始めます。
「むかしむかしのとあるところ、ふしぎなちからをもつ、しろいおんなのひとと、くろいおとこのひとがいました……」
白の女の人は不思議な力で地面に水を与え地面を豊かに、黒い男の人は空に光を与え草花を育ててました。
二人はそれぞれの不思議な力で世界を元気にしていこうと頑張っていました。
そんな二人に神様はあるお願いをしました。
それはこの世界が元気になるために必要なことでした。
二人は喜んで神様のいうとおりにしました。
その結果二人は※※※※ました。
神様はそれを大層喜びました。
二人のおかげで世界は元気になりました。
「……まさか一番大事な何をしたかが読めないなんて……」
話自体はよくあるというのもあれですが、良い話なんですが、神様は何をさせたのでしょう……
「嫌な感じだな……他にも何かないかな?」
それから私はゲーム内で約1日分探しましたが、白の女王と黒の王についての本は見つかりませんでした。おかげで私の【言語】のレベルは15まで上がっています。しかしそれでもあの絵本の読めないところは読めません。
「そもそも、あれだとタイトル詐欺だと思うんだけどな、女王とか王ってタイトル付いてるのに載ってるのは女の人と男の人だし……気分転換にゼズペットさんに聞いてみようかな……」
私ゆっくりと鉄の扉を開け、教会に向かうのでした。
「おや、ずっと籠っていましたが、面白いものでも見つけましたか?」
「ええ、その……ゼズペットさんは“しろのじょうおうとくろのおう”という絵本をご存知ですか?」
「いえ、存じ上げませんが……どのようなお話でしょうか?」
私は大まかに説明をしました。そしてどうしても読めない部分があり、そこに何が載っているのかを教えて欲しいとゼズペットさんにお願いしました。
「……すみませんが、お力になれそうにありませんね。」
「えっとそれはどうして?」
「おそらくはその絵本のその部分は【古代語】で書かれているからです。その絵本は先々代の管理者が書いた本でしょう、話だけは私にも伝わっております。しかし、その部分に関しては聞いたことがありません。」
まさかの言語の上のスキル名が出てきましたが、【古代語】とはまた……中々に惹かれる響きですね。
私はゼズペットさんにお礼を告げると、一旦教会から出てフレンドリストのリードを確認しましたが、やはりオンラインのままですね。
私はそのまま、フレンドチャットを飛ばしました。
「リードいま空いてる?」
「あ、チェルカどうしたの?」
「空いてたらモンスター狩るの手伝って欲しいなって思ったんだけど……」
「あー……ごめん、今からβ時代の知り合いと一緒にちょっとやることがあるんだ、それが終わってからでもいい?」
「ううん、ありがとうちょっと息抜きしたいなって思っただけだから、また明日でもいいかな?」
「チェルカがいいならいいけど……ごめんね本当に!」
「いいのいいの、それじゃ頑張ってね?」
「うん!あ、また明日ね!」
さて、このままフィールドに出て狩りでも良いのですが……どうせなら、別のことを調べるとしますか。
その前に一旦お水休憩といきましょう、適度な休憩は必要ですから。