36.スライムとポーションその2
「さて、まずはキャベツニアを……最初だから軽く剥くぐらいでいいかな?」
確かクラさんはそんなに餌を置いてなかったはずです。それにゼズペットさんからもらったのはヒト玉だけですからあまりあげ過ぎても直ぐに無くなってしまいます。
とりあえず葉を何枚か剥いて少し丸め岩陰に置きます。
するとゆっくりとですが、あのゲル状の物体が姿を現し始めました。
やはり妙な愛らしさがありますね。
少し警戒しているようですが、身体を少し延ばしキャベツニアを取り込み始めます。
「よし、これで取り込み終わった頃に……あぁ!?」
キャベツニアを取り込んでいたグリーンスライムが突然素早い動きでどこかへ逃げてしまいました。一体何が……
杖を構え周りを警戒していると不意に頭上に影がさします。
とっさに転がるように影から抜け出します。
すると先程までいた場所を大きな鉤爪が通ります。
それは翼を持ち一瞬だけ目が合います。
「モンスター名……“シルバーイーグル”?!」
獰猛な猛禽類が目の前を通過し再び上空へと飛んでいきます。
グリーンスライムは“シルバーイーグル”から逃げたのでしょう。臆病とは聞いていましたが危機察知能力はかなりのものですね。
しかし、今の問題はこの“シルバーイーグル”が私を狙ってきているということでしょうか。
「ふぅ……戦闘かぁ」
正直あまり乗り気ではありません。こちらの武器は杖で向こうは空を飛んでいるのです当てることが難しいというのもありますが、今日は【錬金】を学ぶためにゲームをしているのです。出来ることなら避けたいという気持ちがあります。
しかしこちらの事情など向こうにとっては関係のないこと、“シルバーイーグル”は旋回して再びこちらにその鉤爪を突き立てようとしてきます。
「くっ」
とっさに杖で鉤爪を受け止めますが力が強く押し込まれます。
「なめない……で!“ファイアーボール”!」
杖の先端に小さな火の玉を作りマニュアル操作で近距離で爆発させます。
私と“シルバーイーグル”は爆風で離れます。
接近した状態での魔法攻撃はダメですね、自傷ダメージが結構大きいです。杖を持っていた右腕が状態異常[やけど]になっています。体感としてはほんのり熱く痺れのようなものがありますね。
「部位破壊じゃないけどこのゲーム部位欠損とか普通にありそうで嫌だな……っと!」
自身の状態を確認していると再び“シルバーイーグル”が飛びかかってきました。やはり爆風だけではそんなにダメージを与えることができないようですね。
私は右腕をかばいながら立ち回ります。
しかし“シルバーイーグル”はこちらの右側に回り込んで鉤爪で掴もうとしたり嘴でこちらを噤もうとしてきます。
「この、ゲームの敵って、頭良い、のね!」
必死に位置取りをしながらも隙を見つけては左手で杖を持ち叩きつけたりしますが、向こうも躱します。
流石にこのままではジリ貧です。しかし死に戻るのは嫌です。死んだ際のデメリットは確認していませんが、仮に経験値の取得が一定時間低下とかならまだいいですが、行動に対してデメリットが付いてしまった場合、いま進行しているこのイベント自体さらに時間がかかってしまう可能性がありますからね。
今日やると決めたなら今日クリアしたいです。
「だ、か、ら!今っ“エアーボム”」
人工的に生み出された風の爆発です。この技の特徴は強めのノックバックと弱スタン、それと他のボール系に比べて範囲が広いことです。ダメージは低いですが杖で狙いが定めにくい今なら最適解です!
先ほどの爆風よりも強く吹き飛ばされた“シルバーイーグル”は地面に叩きつけられ、翼にスタンを表す黄色のエフェクトが出ています。
これなら右手が使えなくても問題なく狙いが付けられますね。
「これで終わって!“ぶん殴り”!」
左手に持った杖をしっかりと握り最初のチュートリアル以来の【棒】の【アクション】を使います。
倒れている“シルバーイーグル”の身体を思いっきり強打。
そのまま赤いエフェクトを散らしながら消えてました。
「終わったぁ……あ、レベルアップしてる。」
正直疲れました。しかし、レベルアップの通知がきているので確認してみましょう。
name:チェルカ
スキル
【言語学】Lv3【火魔】Lv13【水魔】Lv12【風魔】Lv13【土魔】Lv12
【棒】Lv14【錬金】Lv1【調合】Lv1【鍛冶】Lv15【魔力感知】Lv6【観察】Lv5
【魔視】Lv8【白】Lv3【料理】Lv1【智により才を通す】LvMAX【体術】Lv8
所持金:87000R
装備
頭:なし
胴:初心者のローブ(翠)
腕:初心者の腕輪(銀)
足:初心者の靴(茶)
武器:初心者の杖(星1)
アクセサリー:ホワイトウルフのイヤリング
色々と上がっているようですね、軒並み戦闘系が上がっているのは昨日の黒狼戦も関係するのでしょうか?ほとんど攻撃など行った記憶はないですが……。
「あ、でも【白】が上がってるのは嬉しいな。」
回復などが出来ると思われるマナ系統の【スキル】ですからねレベルが上がるなら嬉しいものです。
しかしレベルアップしたとはいえ、細かいステータスはマスクデータになっているのか確認する術を知りません。そのあたりは少しもどかしい気もします。
「さて……まずは街に戻ってこの右腕どうにかしないとな」
状態異常[やけど]はどうやら恐れていた部位欠損系なようで右腕にゲージが表示されています。これは時間経過とともに爛れ落ちる雰囲気がありますね。
流石にこのままの状態でスライム捕獲を続けるのは嫌です。
「だからといって、こういうのってどうやって治すんだろう?」
【白】の“ホワイトエンチャント”は継続回復タイプなのでこういうのは回復しないイメージです。一応使ってみましょうか?
「“ホワイトエンチャント”……ちょっと痺れが引いたけどゲージは変わらず減ってるね」
やはりこういうのはアイテムなどの回復方法などがあるのでしょう、仕方ありませんもう一度街へ戻りましょう。
RPGですからね街への行ったり来たりも醍醐味です。
「ゼズペットさーん」
「はい?どうかしま……どうなさったんですか?」
困ったときはゼズペットさんに聞くのに限ります。ゼズペットさんは私の腕を見て困惑の表情を浮かべています。
まあ陽気な声で呼ばれたと思ったら右腕の肘から下が爛れていて肘から上も肩まで真っ赤という状態ですからね、そりゃ驚きもします。正直私もあの爆風でここまでなるとは思ってもいませんでしたからね。
「いやその実はですね、モンスターと遭遇して無茶をしてしまって……このやけど状態を治したいのですが方法はわかりますか?」
「そうですね……ここまで来てしまうと……クララベルのところへは行かれましたか?」
「いえ、まだ行っていません。」
「それならば、クララベルのところへ向かってください、彼女なら何とかしてくれるかもしれません。」
「わかりました。ではクラさんのところへ行ってきますね、お騒がせしましたゼズペットさん。」
「いえ、大丈夫ですが、旅人の方はその大怪我でそんなにも元気なのでしょうか?」
「あ、その我慢です。」
「我慢。」
「はい、すぐに行ってきますね」
このあたりはゲームだからと一蹴する部分だと思いますが、プレイヤー視点でそのあたりを言っても仕方がありません。
しかしそれでも我慢は……もう少し良い言い訳があったような気もしますが、私はクラさんのところへ向かいます。
「クラさんいますか?」
「なんだい“グリーンスライム”は捕まえられたのかい?……どうしたんだいその腕」
「その……“シルバーイーグル”相手に苦戦しまして……。」
「なるほど、黒狼がいなくなったから活発になってるんだね。……しょうがない、こっちに来な。」
クラさんは杖を付きながら家の奥に進んでいきます。
私もそれについていきます。
着いた先には無数の薬品と洋風の寝具、腰掛ける用の長椅子。少し大きめの机と椅子……中は診療所でした。
「(別に世界的におかしいってわけじゃないけどこの部屋だけ凄く科学的な雰囲気……でも中世って考えても変ではないんだよね)」
そう、別におかしなことはありません。医療に対してそんなに詳しくはありませんが、医者自体はギリシャ神話だったり古代ローマだったりでもいたはずです。医療と言っても内科や外科でも大きく違ったはずですので、この雰囲気だけなら日本で言う薬師のような感じなのでしょうか。
「とりあえず、ここに座りな……たく真っ赤じゃないか」
「はい、そうですね。」
「ちと染みるよ」
クラさんは棚から緑色の液体が入った瓶を取り出し、私の腕にかけました。
「っ!」
「これぐらい我慢しな。」
「あぃ……」
どうしてやけどになったときは痺れが出たりする程度なのに、傷口に消毒液をかけられたような内側をヒリヒリとする感覚はそのままくるのでしょうか?
いや、実際に内側をかける感覚はどちらかというと、長時間座っていて痺れた足をつつかれたような、そんな感じです!あぅ!
「はい、終わったよ。ほらなにべそかいてるんだい」
「いや……はい。ありがとうございます……」
液体をかけられ数分もしたら腕が完治してました。このあたりはゲームですから当たり前ですがじわじわと皮膚が再生していく様子は、運営の本気度が垣間見えましたね。
しかし、普通のポーションでもこうやって治るのでしょうか?それとも今かけたのが今回習おうとしている特殊ポーションというやつなのでしょうか?
「あの、クラさん、今かけてくださったのが特殊ポーションなんですか?」
「そうだよ。今使ったのが再生ポーション。今日あんたに教えるつもりだったポーションの中間素材さね。」
「え、あれが中間素材なんですか?」
「このポーションは効力はあるが痛みがあっただろ?これを元に痛くないやつを作ってもらうのさ。」
「なる……ほど?痛くないのがあるんですか?」
「ああ、今は切らしてるけどね。だからあんたに捕まえてもらったら作るつもりだったんだよ。」
なるほど、それで私は痛い中間素材で回復をしてもらったと……
「でもクラさん一匹連れて帰ってましたよね?」
「だから、今回はその一匹から作ったのが今の中間素材の再生ポーションだよ!察しの悪い娘だね」
「え、一匹から再生ポーションは一本しか作れないとか?」
「そうだよ。二匹でようやく痛みのない再生ポーションが作れるんだ。だから三匹って言っただろ?」
これは思ったよりも数を捕まえないと大変な【スキル】なのかもしれません。
いえ【鍛冶】にしてもそうでしたが、生産系はどれだけ素材があってもすぐになくなってしまいますからね、しょうがないことなのでしょうけども。
「というわけで、今あんたに使ったら無くなったから、もう一匹追加で捕まえておくれ。」
「わかりました!ありがとうございます。」
「礼はいいよ、さっさと捕まえてきておくれ。」
クラさんは特に気にした様子はなく椅子に座って何か作業を始めてしまった。
私は頭を下げて、再び草原へと向かいます。
今度こそは捕まえてみせます!




