33.とある運営の話
少しこの回はいつもと書き方を変えております。
本日2話目
人々が忙しなく動いている。本来なら休みなのにも関わらず休日出勤をしてまで慌ただしくしているのはいくつかの理由があった。
一つはエンドコンテンツ染みたソレが見つけられあまつさえ退けられたこと。
一つは掲示板の仕様変更を企画会議で決められ今度のアップデートに間に合わせなければいけないこと。
一つはスキル各種の説明の追加。
これらの三つのうち二つは別に休日に来てまで行うことではない。
別にアップデートに間に合えば問題ないのだから、なのでこれはある意味ではおまけだ。
急遽各種主要なメンバーが集められた理由は“狼王ロボ”が撃退されたことがメインである。
広いオフィスをどこかやつれ、くたびれたような若年の男性が丁寧にまとめられた資料とタブレット端末を手に持って歩く。
「(今日来ているのは各種グループの代表ばかり、か。)」
男は歩きながら周りを確認する。誰も彼もが自身の端末とにらめっこしながら手を動かしている。
「(はぁ……どうせあとで小言言われるんだろうな……鬱い。)」
男は口から陰鬱な思いと共に空気を吐く。
目線の先には目的としていた場所がある。シンプルな扉には“室長室”と書かれたネームプレートがかかっている。
三度扉を叩き中の返事を待つ。
社内確認の予定表では、来賓予定はなしだったので確実にいるはずだ。
そもそも本日は室長命令で来ているのだから居てもらわねば困る。
しかし5分ほど待っても中から返答はない。
普通ならば出直すのもありだが、男は再び三度扉を叩き、今度は一切待たずに扉を開ける。
「失礼します。室長いるなら早く答えてください。」
「日本人は中から応答がなければ出直して数分後にまた来るって聞いてたけど?」
男が扉を開けるとちょこんと二つの金色が最初に目に映る。男は内心やはりかと思いながら質問に答える。
「一度それをやって結局2日ぐらい室長にからかわれて会うことが出来なかったので、今回は入りました。処罰するならどうぞ?」
「……小坂の癖に」
「小坂ですよ。はい、言われた通り資料持ってきましたよ。」
背丈に合わない深めの椅子に座っているせいで、男の目には金色の二つ結びだけがぴょんぴょん跳ねているように見える。
男は全く気にせずに資料を机の上に置く。
対面の相手は資料に手を伸ばしペラペラ捲り目を通す。
その間に男もタブレット端末を操作して補足説明を始める。
「では、まず現在の進行状況ですが先日承認された通り週明けにアップデート予告を行い、翌週の木曜日の12時から金曜日の12時まで行う予定です。それに伴い各種設定班は準備を行っているところです。」
「元々月曜から始めるはずの業務だもの、そこは心配してないわ。それよりも本題を進めましょう?そのために今日召集したんだもの」
男は微かに眉がつり上がる。
対面の相手は今進行しているプロジェクトの最高決定者なのだが、見た目通りの年齢ゆえに時々神経を逆撫でする。
例えば休日に緊急回線での召集もそうだ。振り替え休日というかたちで、別日をもらえるようだが、本来ならば経営や重大状況に関することにのみ使われるものを「狼王ロボが撃退された。」ということで呼び出されるとは他のメンバーも思っていなかった。
だが男もここに報告に来ているならば管理職以上の社員だ、特に顔に不満を出さずに報告を続ける。
「そうですね。ではまず、2つほど室長に報告です。」
「2つ?何かしら。」
「まず攻略プレイヤーからドロップ品が無かったが仕様か、という旨の問い合わせが来ています。」
「あー撃破ならまだしも、撃退の場合のドロップを設定してなかったのね。補填としてブーストアイテムと一緒に送ってあげましょう。」
「2つ目ですが、一部社員から苦情が来ています。」
「苦情?それは理不尽に職を失いたいということかしら?」
「いえ、この苦情については正当且つ自分も同意です。つまるところ、“狼王ロボなんてエネミー知らなかったんですが、処理をどうしたらいいんですか?”というものです。室長?目を合わせてください。」
「私の背丈じゃどうしたって目線は合わないわよ!」
先程まで視線どころか顔すら見ることのできなかった対面の少女は、地に足をつけ勢いよく机を叩いた。しかし勢いをつけすぎたのか、それとも予想よりも叩いた痛みが強かったのか目頭に涙を浮かべている。
それでも少女は我慢して口を開く。
「その苦情言い出したのって」
「メインシナリオ担当グループですね、主に船越課長がお怒りでしたよ。」
「あぁ……船越おじ様煩いから困るわね。……なによ。」
男はジッと少女の顔を見つめ諦めたように息を吐いた。
少女の年齢は14歳、時々大人じみた雰囲気をかもすこともあるが基本的にはまだ子供だ。それゆえに組織としての行動が取れない。それでも彼女が室長という役職についているのはひとえに彼女が天才だからに他ならない。そのためというか、故に大体の後始末は男に流れてくる。
「まあ、苦情についてはあとでちゃんと謝りにいくし、明日社内集会があるからそこでも言うわよ……それでいいでしょ?」
「自分は何も言ってませんので室長がそう決めたなら良いんじゃないでしょうか?」
「目で語ってきた癖に……私にそうやって色々言うのは小坂と柳ぐらいよ?」
「小坂です。柳は厳罰にしてもいいのでは?あいつは飛んでるだけです。」
「私は好きよ?ちょっと難易度間違えたかもって不安になりそうになったときとか“ああ、私まだ甘いんだ”って思えるもの。」
「あいつと比べるのはどうかと思いますが……いえ、それでは本題について報告します。」
男はタブレットを操作して先日起こった“狼王ロボ撃退”のデータを室長室のモニターに映す。
急遽揃えられた情報ではあるが、要点がしっかりとまとめられている。
そのことから男がデキるということがよくわかるのだが、映し出された情報を見て少女は呟く。
「不正ツールや外部アクセスからの情報の上書きの線はないと思っていたけど、よくこのステータスで撃退できたわね。あと小坂、ここのフォント見づらいから月曜日までに直しておいて?」
「そこはこちらにしたほうが次の箇所との接点としてわかりやすいと思っていたのですが、わかりました直しておきます。それと、今仰ったように不正ツールや外部アクセスの形跡は見当たりませんでした。ゲームシステムに則って撃退させたようです。」
「なるほどね。小坂ある程度はわかったわ?だからまとめたあなたから今回の撃退者の話を聞きたいわ。」
少女はモニターから男へと目を移す──目線は合わない──がそこには物語を期待するような煌めいたものを男は感じていた。
男は嘆息しながらも、上司からの命令に対して回答する。
「ではまず、今回のシステムMVPであるプレイヤー名サクラですが、現時点で取得者数6名の【マナ合成】を取得しています。このスキルが今回の決め手だったと思われます。」
「【マナ合成】って一定の知識が無いとシステム的に初級から中級程度の威力しか出なかったと思うのだけれど、言語系統のスキルも持ってたのかしら?」
「いえ、それは先程も確認していただけたと思いますが、別のプレイヤーが取得しています。なのでプレイヤー間での知識の共有が一定量を越えていたためプレイヤーの認識の上書き……即ち想像力によってマナが反応して威力上昇に至ったものと思われます。」
「なるほどね。わかったわ、他にも何かあるのかしら?」
「準MVPともいえるのが、今言った【言語学】もちであるチェルカというプレイヤーです。このプレイヤーは他にも【魔視】、【白】といった現状当人を含めても2名の取得者しかいないスキルを取得しています。それに伴って一つのワールドスキルも獲得しています。」
「ワールドスキル、ね。今のところNo.645が確認されているけれど、今回の№は?」
「No.010【智により才を通す】ですね。」
「あぁー茜先生が欲しいと言ったものね。性能はかなりピーキーに設定されてた記憶なのだけれど。」
「獲得者の言語系統のスキルレベルの合計を選択者のスキルレベルと同値にするものですね。今回のアップデートでテキスト変更が決まっているスキルの一つです。」
「そうなの?」
「既に覚えているスキルは変化して上位のスキルに変わります。そのためこのスキルのテキストでは上位スキルのみが参照されるように思われます。実際のスキル設定では累計レベルが参照されています。」
「よくわかったわ、まあそのあたりの情報はリリースノートに記載しておいてね。」
「わかっております。他プレイヤーもいくつかの取得者数の少ないスキルを取得しています。そういったものが今回の撃退につながったものだと推測はできます。」
男は再びタブレットを操作して室長室のモニターにある表を映し出す。
それは現在の取得者数の少ないスキル一覧だった。
プレイヤー間で広まっている所謂“ユニークスキル”をより明確にしたものだ。
「他にも何人かがこういった少数取得のスキルを手にし始めています。一部提案では公式側でユニークスキルとして設定してもいいのではないか、というものがあります。」
「ワールドスキルにも専用のマークみたいなものを設定しているし良いんじゃないかしら?ヘルプにその辺追加するのもいいわね。」
「次回のアップデートに組み込めるなら組み込むとしましょうか。」
「そうね、あとでまとめて共通バンクに挙げておくから周知してちょうだい。」
「わかりました。これで本日の報告は終わりですが、よろしいですか?」
「ええ、ありがとう。休日出勤してくれた皆には有給を追加する形にしておくわ。」
「ありがとうございます。それでは失礼します。」
男は頭を下げ部屋から出ていく。
少女はその姿を見送ると、一人手元の資料を確認する。
撃退したメンバーの中には少女が依頼したプレイヤーも混ざっている。
しかしそれは不正などではない、何故ならゲームをプレイしてくれと依頼したが、こちら側からゲームの情報は流してなどいないからだ。
むしろ受けてくれたプレイヤーから定期的に改善点などが送られてくる。
そう、少女が依頼したプレイヤーこそがベータテスターともいえる。
「まだ始まったばかりだもの、楽しんでもらわないとね。」
少女は机に飾ってある写真を見ながら呟いた。




