31.少女と狼~退く~
途中でリード目線が入ります。
戦闘を長々と書ける人を尊敬します!
指示を出す声や、攻撃を放つ声。
激しい攻撃といってもサクラさんの魔法系統の氷の塊や業火が飛んでくるばかり。
裏ボスというには黒狼の印象は薄いものです。
「(こんなものなのかな……?)」
最初の街の一エリアの裏ボス。
場所を考えれば確かに強大だけど、倒せないほどではないです。
人数が揃い、役割などがしっかりしているならばほとんど被害を出さずに倒すこともできそうなぐらいです。
唯一見つけにくいというところだけが裏ボス感がありますが、なんとも拍子抜けです。
だからこそ、最初に飛び出していったリードはどうしたのでしょうか?
私は黒狼の後ろ足が見えそうなところまで来て──呆然としました。
「え?」
血まみれで……いえ、赤いエフェクトを身体のいたるところから出しているリードが息を荒げながら、無数の“ウルフ”と戦っていました。
「リード?大丈夫?!」
「はぁはぁ……はぁはぁ……はああ!!」
こちらの声が聞こえていないのか、一心不乱に“ウルフ”を倒していきます。
“狼王ロボ”との戦いは本来、群れとの戦いなのかもしれません。
なにかのタイミングで無数の“ウルフ”が現れていたら、間違いなく難易度は跳ね上がるでしょう。
それをリードはひとりで止めていたようです。
私がここにいてもリードの邪魔になります。
急いで先生たちのいる場所へ向かいこのことを伝えなければ。
「先生!」
「チェルカ君、どうしたのかなぁ?何か見つけたぁ?」
「後ろ足を確認しに行ったら、リードがそこで無数の“ウルフ”を足止めしてた。」
「リーちゃんは背中じゃなくて黒狼の後方にいたってことかぁ……煉獄、攻撃の回転率は上がるかなぁ?」
「これ以上回したらヘイト管理が無理よ!」
「となると、火力の増加だけど……。チェルカ君のも使っちゃって、底上げのようなものはないしなぁ」
恐らく今のローテーションが早く倒せる状態なのでしょう。
しかし、このままでは、倒すより先にリードが倒されそうです。
そうなってしまっては、抑えている“ウルフ”の群れがそのままこちらへやってきます。
「そうだねぇ……。狙い変更。煉獄は“狼王ロボ”の額をぶち抜いて。」
「今まで氷系ではやらなかったけど、眼じゃなくていいのかしら?」
「最初にチェルカ君が確認したマナの集まりから額になんらかのギミックがありそうだったからねぇ。だったら、弱点とか明記されてる眼よりもいっそのこと、額を貫通するぐらいの威力を出せば流石に倒せるでしょぉ?」
「わかったわ。……だったらチェルカちゃん。リードに伝言をお願いしていいかしら?」
「はい、なんでしょうか。」
「ドデカイの放つからそれに合わせて黒狼を攻撃して欲しいの。それでダメでもジリ貧でしょうから、リードに参加して欲しいの。」
「その場合はすぐにでも“ウルフ”の群れが来るけどねぇ」
リードにギリギリまで抑えてもらうとしても、サクラさんの追撃を行えば、“ウルフ”の群れは即座に反応し、こちらへやってくるでしょう。
その場合は、リードがすぐにでもキルされてしまうでしょう。
「良いじゃねえか!サクラ!ドカンと放てよ!?ダメでもここまで弱らせられるなら、次で倒せるだろうしな!」
「それに、リードが“ウルフ”を抑えているなら、一番楽しみにしていたリード本人が、ほとんど攻撃を与えてないということである。」
「それはそれで、鬱憤溜まってそうだよねぇ?」
「そういうことだから、チェルカちゃんお願い。」
「わかりました。伝えてきます。」
*********
初めは一撃眼に攻撃を加えてから顔を中心に攻撃するつもりだった。
だけど、前回と違って最初に視界に入ったのは鎖だった。
黒狼の下半身を縛る大きな黒い鎖。
その鎖から無尽蔵に湧き出る“ウルフ”。
これをそのままにしていたら、間違いなくやられる。そう思ったら私は“ウルフ”を攻撃していた。
ここは私が抑えるしかない。もしかしたら湧き出る“ウルフ”にも制限があるかもしれないが、それが分かるまで放置していてはPTはもたないだろう。
「(ごめんみんな、そいつは任せた。)」
一番楽しみにしていた獲物。
一番倒したいと思っていたモンスター。
一番に攻撃なんてしなければ全員で対処していたかもしれない。
気づく前なら、PTに伝えることもできたかもしれない。
でも、気づいてしまった以上は私の役割はここでの足止めだ。
私は左手の白い大槌と右手の黒い片手剣を強く握りしめる。
「ボスを倒せばきっとなくなるんだろうけど、それまで私は無双ゲーだ!」
向かってくる“ウルフ”を時に斬り時に砕き後ろへは一切通さないように、片っ端から倒していく。白の大槌で砕かれた“ウルフ”のダメージエフェクトが身体にかかる。かかったポリゴンはゆっくりと消えていく。まるで返り血を浴びたように私の身体は赤く染まっていく。
「(絶対に通さない!)」
通さなければいつかは、“狼王ロボ”を倒してくれると信じて。
別に今回倒せなくても次回がある、そう思ってしまうと今すぐにでも倒されてしまいそうになる。そんなことは考えずに無心で襲いかかる“ウルフ”をなぎ払う。
数が多い。どれだけ払ってもどれだけ斬り倒しても、先が見えず足を噛まれ、腕を噛まれボロボロになっていく。
「はぁはぁ……はぁはぁ……はあああ!!」
それでも倒れない。倒れてもいいことはない。
私が倒れるなら、それはみんなが倒れた時“狼王ロボ”がこちらを相手した時だ。
今はまだそうじゃない。こいつは“白狼の毛皮”を出したプレイヤーを最後に倒すようで、こちらを見てはいない。
ならばこそ、私はここで粘り続ける。
「リード!!!」
不意に親友の声が聞こえた。後ろは振り向けない、振り向いてしまえば物量でやられてしまうから、だから私は声を上げる。
「チェルカぁぁぁぁぁぁぁ」
「大きいのがくるから、リードも全力で黒狼の額を攻撃して!!」
大きいの?普段本を読んでいるのに、あまりに伝わってこない。
ただ、してほしいことは伝わった。
「わかった!!!」
大きな声で返事をする。右手の剣が重たくなってきた。
スタミナの残りは少ないのか、それとも精神的に疲れてきたのかはわからないが、限界は近いのだろう。
全力の攻撃、それが恐らく今回の最後になるのだろう。
最初で最後、思いっきり攻撃するためには、多少なりとも余力を残さないといけない。
踏ん張りどころだ。
息を僅かに整える。大きいのということはきっとサクラの魔法だろう。ならどんなものであってもそれこそ大きな音がするだろう。
「(そこで跳躍法で駆け上がる)」
そのタイミングを逃さないように私は、集中して足止めを行う。
*********
「リードに伝えてきました。」
「ありがとうねぇ。それじゃあ下がってたほうがいいみたいだよぉ?」
先生が右手を上げながら手招きをします。
その隣では杖を中心に白い渦が出来上がっていました。
「これは、サクラさん?」
「一体どんな風に見えてるのかわからないけど、彼女君が行ってからすぐに杖を構えて集中し始めてねぇ。」
「白い渦がすごいよ……」
その光景はまるで神秘的です。ゆっくりと回転する白いマナはとても滑らかです。
一体何をどうしたらこうなるのでしょうか。
「すぅ……ふぅ……。離れててね。」
サクラさんが小さく深呼吸をすると、回転していたマナは一つになろうと杖の先端に集まっていきます。
集まったマナは徐々に徐々に赤と青と緑と茶が縞模様のようになっていきます。
そして、全てが綺麗な色になった時に、色が黒に染まります。
「“塵は山に風は嵐に、水は氷へ火は炎へ、相反する力は全てを飲み込み破壊する!暴食者”」
放たれた黒き光線は形を変え巨大な顎のようになり、黒狼の顔に噛み付きます。
そのまま抉らんとばかりに噛み付き、徐々に額へとその牙を侵食させていきます。
しかし、それでも黒狼は倒れる気配がありません。むしろ雄叫びを上げ内側から食い破ろうとしています。
「くぅ……きっつー」
「だ、大丈夫ですか?」
「支えてくれると嬉しいわね。」
「あ、はい!」
きつそうなサクラさんに、背中を押すような形で支えます。
支えているだけなのに反動からか、徐々に後ろに下がっていきます。
気が付くと先生も支えに加わっています。
「これはすごいねぇ!後で話してくれると嬉しいかなぁ!?」
「考えておくわ!!」
杖を握る手に力を込めるサクラさん。
対抗する黒狼。
強大な力のぶつかり合いの中、一つの影が間に入ってきます。
「“ブレイクインパクト”!!」
顎の横から赤色のエフェクトをまき散らしながら力強く大槌を振り下ろすリード。
拮抗していた力が新しく加わった衝撃により額が割れ、横に倒れる黒狼。
割れた額には水晶のようなものが見えていますね。
「これで倒れてくれると嬉しいんだけどねぇ」
「流石にこれ以上のは無いわよ?」
周囲が警戒している中、追撃しようとリードが近づくと、黒狼が眼を開き立ち上がります。
<<GRRRRRRRRRRRRRRRRGGGGGRRRRRRR>>
絶叫。割れた額からはボロボロと水晶が落ち、黒狼は暴れまわります。
とっさに盾を構えた月平さんも、暴れまわる黒狼のなぎ払いに巻き込まれ再び飛ばされてしまいます。
「ここからとかって言うんじゃないよねぇ?」
「そうなったら、やり直して作戦立てたほうが早いと思う……」
「少しはこのままやってみようかな!」
「厳しいだろ……」
「最後まで足掻くのは嫌いじゃないわよ」
飛ばされた月平さん以外は最後までやる気のようです。
しかしそこに、声が聞こえてきます。
『獰猛なる狼の王よ一旦退きなさい。人の子は枷があるとはいえ、あなたの眼を砕いた。一度退きなさい。』
「これは……?」
「イベント?」
黒狼は次第に怒りから別の感情のような声に変わり、こちらを一度睨んでからゆっくりと奥へと引き下がっていきました。
「え?え?」
「これはぁ?」
『勇敢なる人の子よ。かの狼の王は今一度別の場所へと移りました。安心しなさい。』
「ということは……」
「クリアってことじゃね?」
「やったー!」
「何もしてないけどね……」
「リーちゃんのおかげで集中できたんだから何もじゃないと思うよぉ?」
「月平拾ってこないと!」
安心したと同時に喜びを分かち合っていると運営からのログが流れてきました。
『獰猛なる狼の王は草原を離れた。リード、先生、チェルカ、サクラ、月平、(T_T)によって第一の街西の草原に平和が訪れた。』
とりあえず一旦戦闘面は終わりです。
もうちょっと続きます。




