2.少女は新しい世界で身体を作る。
連続投稿だー!初投稿だからまずは勢いって大事!
日付が変わり土曜日。
私は切るのがめんどくさくて伸ばしっぱの前髪を横にピンで留め、普段はポニテにしている髪を結ばずに遊ばせ、部屋着のパーカーにショートパンツとラフな格好でベッドの上で本を読んでいます。
意識が本に集中し始めた頃、三回ほどドアをノックする音が聞こえてきました。
「智歳入るよー?」
「どうぞー」
今日は、先日理織が話していた“phylogenetic tree”の発売日です。そのため、理織はゲームショップで買ったらそのまま、うちに遊びに来る約束となっていました。
「じゃーん!これだよこれー!はい、こっちが智歳の分ね」
「うん、ありがとう。聞いてたけどお金は足りた?」
「大丈夫!それよりほら、ゲームスタートは今日の15時からだけど、キャラクリまではもうできるからしちゃおう!」
「そうだね、今VR機器用意する……理織は持ってきたの?」
「もっちろん!ヘッドギアタイプだけど、持ち運びは楽だからちゃんと持ってきたよ」
お互いにVRヘッドギアを準備して、頭に装着します。2代前のVR機器なら腕とかにもパーツをセットしないといけなかったのですが、今では簡略化が進み頭に装着するだけで済むので技術の進歩は凄まじいです。
「それじゃあ布団は敷いてあるから、理織はそっち使ってね」
「はいはいーまぁ、キャラクリに時間かけてもいいし、終わったらログアウトして時間まで過ごそうか」
「いつものキャラ感じで作るからそんなにかからないと思うけど、了解。」
そして意識はゆっくりと沈み仮想電脳へと進んでいくのでした。
※※※※※※
ゆっくりと意識が覚醒していく感覚に襲われました。
目を開くとそこには無数の光り輝くラインと、球体状の鏡。
仮想電脳。22世紀初頭に既存の論文を元に完成された脳波を使用した電脳空間。
今では見慣れたその空間を歩いていきます。
真新しい球体の鏡にNEWの文字がぐるぐると回っています。
私はその鏡に触れると“start or no”と表示されたので、迷わず“start”と選択します。
「これだね、さてさてどんなAIがいるのかな?」
VRMMOのゲーム自体はそこまで数多く行ったことはありませんが、今までのゲームでは全てサポートAIと呼ばれるチュートリアルなどを取り扱うAIが存在していました。
それぞれが個性的で私にとってキャラクリエイトはそのAIとの対話の意味合いが大きいです。
「んー?おやおやご新規さんデスね?いらっしゃいデース!」
移動した先で目に付いたのは、にっこりと笑う道化師。
辺りは大きな舞台があるだけで、私は非常扉から出てきたようになっています。
お粉化粧に真っ赤な鼻、特徴的な目のメイクにくるくるとパーマのようになっている髪の毛。
メイク自体に涙の模様が書いてないから、きっとクラウン……でも、ピエロとクラウンの違いは追求されることが少ないから、気にするのもあれですね。
でもこれ、道化恐怖症でしたっけ、道化師がダメな人だと中々に嫌な導入になるような気がしますが……まぁ、万人受けとか関係ないのでしょう。
「初めましてデース、ボクはペルーペ、管理AIデース」
「初めましてペルーペ。早速キャラメイクとかしちゃいたいんだけど、いいかな?」
「オーゲーム慣れしてるみたいデース。こちらの部屋でキャラメイクが可能デースよ?」
いちいちオーバーリアクションな道化師を横目にさっさとキャラメイク部屋と移る。
変更可能なのは、基本的なVRMMOと同じで、髪、顔、体格の機微、若干の初期装備の変更。あんまり体格に差をつけると実際の動きの時にズレてしまうことがあるため、基本的に推奨はされていません。それでも、腕の長さや指の大きさまでは変更することが出来ます。設定概要には種族について記載されていなかったことから、初期は人間だけしかできないのでしょう。
私は今までやったゲームとほぼ見た目を変えません。決まった設定で行います。
メガネを外し、髪を短く短髪に、髪の色は薄緑にして胸は……ちょっと縮めます、お腹の脂肪とともに。そこまで太ってないとは思うのですが、やはり全体的な脂肪が多いので、ゲームで動くとはいえあんまり大きいと動きにくいのです。
お腹周りの微調整を終えると部屋から出ます。
すると、再びペルーペが声をかけてきました。
「オー!これはまた可愛いデース!」
「ありがとう。今はスキル設定とかもできるの?」
「はぁい!ゲームはまだスタートはできないデースが、スキル設定までは可能となってるデース」
「このゲームは職業性じゃなくて、スキル選択性でいいんだよね?」
「そのとおりデース!簡単に説明するデースよ?スキルは11個まで選べるデース。以上デース!」
「本当に簡単ね……。武器スキルを絶対ひとつ取らないとダメとか、制限とかはないの?」
私はスキル一覧を右手でスライドさせながら、ペルーペに聞きます。ざっと確認しているだけでも200個ぐらいスキルが確認できますね。ソート機能などがあるのでじっくり考えた上で色々とできそうですが。
「特にはないデースよ?全てを生産系のスキルにするのも、全てを武器スキルにするのも、それはあなた方の選択デース」
「そうなんだ……それでも安定型にしちゃうかな……あ、スキルって実際のゲーム中でも取得はできるの?」
「それはもちろんデース。ただし、今回みたいに自由選択というわけではなく、行動によって開花するという形になるデース。なので特殊なスキルに関してはここで取ってしまったほうがお得デースよ?」
話を聞く限り、魔法系のスキルは現実でもってないから、取っておいたほうがいいんでしょうね。
そうなると、私のスキル構成は決まってきちゃうのですが……何か面白いスキルとかないですかね。
「ペルーペオススメのスキルとか何かない?」
「ホへ?ボクノオススメデスカ!?」
予想外の質問だったのか、一気にカタコトになったペルーペ。私は素直に頷くとペルーペは腕を組み考え始めました。その間約10秒ほど。
「そうデースねぇ、ボクとしては【言語】【跳躍】【魔力感知】【観察】【歌】【生産】あたりがオススメデース」
私はオススメされた、スキルを一通り確認した。
【言語】……世界の言葉。
【跳躍】……高く跳ねれる。
【魔力感知】……マナを感じ取れる。
【観察】……普段は気づけないものを気づけるようになる。
【歌】……マナに働きかけ効果を得る。
【生産】……上手に物が作りやすくなる。
「なるほどね……じゃあこれと、これ、あとこれは入れ込むかな……でもこれあったら楽なんだろうな……うーん。」
「この世界のスキルは才能と同じデース。あなたは生まれる時の才能をどう選ぶデース?」
「才能か……。なら私はこれは今は抜くかな、あとで努力でゲットできるかも知れないから。」
「努力。いい言葉デース。それではこのスキルでよろしいデースか?」
「うん、これで良いよ。」
私は自分のスキルを確認し、ペルーペに出された確認ボタンを押す。
「それではようこそ“phylogenetic tree”へ。最後にお名前をお願いデース。」
にこっと笑うペルーペは手を差しのべ聞く。
「私は、“チェルカ”よろしくね。」
私はその手を握り、この世界を後にした。
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面白そうな人だ。
ペルーペは素直にそう思った。
スキル構成はありふれた後衛職だが、真っ先にとったスキルは【言語】
オススメする前にこのスキルをとった人は今のところ彼女を含めて4人。
プレイ人数予定5万人のゲームでこのスキルを最初に取る人は少ない。
もちろん、その後ペルーペがオススメとして表示させたりすることで、取得した人もいる。
ペルーペは期待を胸に一人つぶやく。
「どうか末永くその樹を伸ばし、ゆくゆくはボク達を……」
そしてペルーペは再び舞台の真ん中でプレイヤーを待つ。