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17.少女は昔馴染みと出会う

その日私が寝たのは3時すぎ。寝坊しないギリギリの時間です。

少し無理をした自覚はありますが【言語】は無事に【言語学】へと進化させました。

派生形で【古代語】を期待しましたが、いいです。またその辺が気になったら一から【言語】のレベルでも上げます。

【言語学】になったと同時に“識字”というアクションが使えるようになったおかげで、紙に文字を書くことができるようになりました。今までは持ち出し禁止の上、まだ現時点でスクリーンショットを撮ることができないようなので、大変重宝しします。

まあその紙も道具屋に買いに行ったら羊皮紙しかなかったので、大変書きにくいですが……。

また、レベル上げに読んでいた“老狼の騎手”が思いの外面白かったですね。

でもまあこれで、明日……いえ、日付をまたいでいるので今日ですか。今日リードに説明することができます。



その日私はなんとか寝坊せずに学校に行きましたが、睡魔にほぼ勝てず。

授業を半分聞き流しながら過ごしました。

前の席に座っている日下部に何度か起こされましたが、起きることができなかったので、申し訳無い気持ちがわきますね。

前回も期末テスト前に本を読んでこのように眠りに負けてしまっていたことがあるので、日下部は時々気にかけてくれます。

それでも起きられませんので、あとで日下部には何かお礼をしましょう。


お昼休みになり、本来ならここで情報を共有。今日の夜にでも出来るかどうかなど精査するべきなのですが、私は睡眠には勝てません。

美奈や理織との会話も話半分で、お昼寝することを伝えて夢の中へ向かいます。

あぁ、この感じ好きな本を読破したあとの余韻にも似た心地よさですね……。



気が付けば放課後でした。

私はいつの間に午後の授業を乗り切ったのでしょうか?

ノートを確認しても文字はぶれていますが、しっかりと書き込まれています。

眠りながら書いたのでしょうか?



「やっと頭動き始めた?昨日何時までやってたの?」


帰りの仕度を済ませた理織がこちらを見て問いかけます。


「えっと……午前3時」

「結構してたんだね、無理しちゃダメだよ?」

「うん、そうなんだけどね……ちょっとムカつくことがあって」

「昨日のチャットでもそうだったけど、何かあったの?」

「そう!理織に話というか、相談というか、乗ってほしいことがあってね?」

「ん?なになに」

「草原の裏ボスみたいな存在を倒して欲しいの」


私の発言に理織は唖然としています。

いえ、唖然というか笑みというか、徐々に顔がニヤついていきますね。

しまいにはその場に座って笑い始めました。なんでしょう怖い。


「ははは……そっか~裏ボスか……はははは」

「理織?」

「ううん。いや、何かするかな?って思ったけど、最初の提案が裏ボスだもんねー」

「裏ボスかはわからないけど、設定的にそんな感じ」

「序盤でエンドコンテンツ見つけた感じかな?」

「近いかも。どんな強さであっても私じゃどうにもならないからさ」

「いいよ?まず話を聞かせて。」


理織はカバンを机の上に置き、椅子をこちらに向けて座ります。

私も向き合うように椅子を向けて座り、事のあらましを答えます。

街でのクエストを片付けようとしたこと、【調合】がダメで【錬金】を探しに行ったところ草原の話を聞いたこと。

微細なことはゲーム内で渡しますが、倉庫で見つけた“黒狼”のこと。

レベルを上げて【言語学】にしたあとに確認をしたら、脆い場所は結局読めませんでしたが、どうやら黒狼は寒さに弱く氷系統なら効くかもしれないということがわかりましたので、そのことも伝えます。

理織は楽しそうに話を聞いてくれますが、最後の黒狼の話になると真剣な顔で要所毎に携帯端末にメモをとっています。あとでゲームで渡すといったのですが、頭の隅に置くためのメモだからと。


「ゲームに対しては真面目だよね」

「そりゃ好きなことだもん。真面目じゃなくてどうするのさ」

「それもそうだね……ふふ」

「どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ」

「そっか?……で、問題の黒狼だけどさ、出現方法わかってるの?」

「出現方法は憶測って感じかな。それに場合によってはリスクが大きいよ。」


黒狼のモデルを考えれば何となくですが、出現方法はわかります。しかし確証が持てない以上他に情報を見落としているのか、それとも実際にやってみろということなのか……。


「うーん。そうなると……私一人だと流石に無理だね」

「多分だけどフルパーティか、レイドクラスだと思うよ……?」

「発見もされてないから断言はできないけど、多分フルパーティの方だと思うんだよね。なんとなく。」

「理織のなんとなくは当たり外れ酷いんだよね……」

「そうだけど!……いっそのこと先生巻き込んで大掛かりで行う?」

「そこは理織に任せるけど……?」


私自身が戦闘系をあげてなさすぎて、情報は提供しましたけどきっとPTには入らないでしょう。

私としてもドロップは気になりますが、今は【錬金】で出来るポーションが気になります。

なので、最悪誰が倒そうがどうでも良いのです。こういうボス攻略は他の人にお任せするのが一番です。


「うーんといっても今回のパーティーリーダーは智歳だから、メンバーの選別はお願いしたいんだけど……」

「え?なんで私?」

「え?だって、見つけたのは智歳だから、当たり前でしょ?」

「無理。だって私【言語】以外レベル5いってないぐらいだよ?戦闘じゃ地雷にしかならないよ。」

「……パワーレベリングする?」

「そんな強行軍するなら倉庫で本を読む」

「大丈夫だって、そもそもこのボスの発見がされてないんだから、慌てる必要もないし」

「嫌!戦闘系はそのうち上げなきゃなとは思ってるけど、ボス戦のために上げるつもりは無いよ!」

「はぁ……わかったよ。とりあえず私だけだと無理だから、先生巻き込むよ?」

「いいよ。私もまだ会ってないから、会いたいし」

「となると……今日の夜噴水前で待ってて?ログインしたらフレンドチャット送るから。」

「わかった。あースッキリした。それじゃあ帰ろっか?」

「私はモヤモヤしてるよ……」


私の手に余る情報でしたので、正直助かりました。対する理織は困り顔ですがどこかワクワクしているという顔ですね。

私たちは荷物をもって教室を後にしました。


ログインすると見慣れた本の山。

いつもの倉庫ですね、それにしても他に誰もここを利用しないのでしょうか?いい加減誰かしら使うと思うのですが……。

今のところこの教会で会ったのもあの落ち着きの無い男性だけですからね……

まあ今はフィールド開放とかで他に向かっているのでしょう。

今の時間は朝なのでしょうか、教会へと向かう渡り廊下からさす日差しはとても眩しいです。

私は教会へ向かうと、もはや見慣れたゼズペットさんの読書姿が見えます。

教会の倉庫が図書館代わりになったのは、ゼズペットさんが本を読みたかったからなんでしょうか?


「おはようございますゼズペットさん。」

「あ、おはようございますチェルカさん。」

「今日も出てきますね」

「はい、行ってらっしゃい」


さて、約束の噴水に向かいますが……理織(リード)が言ったのはゲーム内の夜なのか、現実の夜なのか確認していませんでしたね。

普通に考えたら現実での夜なのですが……。

まあ、噴水前で待っておきましょう。ログインしたら連絡でもくるでしょうし。


初期スポーン地点であり、死んだ場合やどこかでスポーン地点を登録しない限りログインしたらここに出てくるようです。

近くのベンチに座って行き交うプレイヤーを眺めます。

噴水にスポーン地点を設定している人は綺麗な状態で現れて歩いていきます。

逆に死に戻りしたような人はどこか装備が傷ついていたり、汚れていたりします。

戦闘系はいまだ触れていないので、眺めてるだけでも結構面白いですね。


鉄の鎧に背中に盾を背負ったプレイヤーや、革の装備に腰に長剣を備えて歩くプレイヤー。

珍しいところだと、口元を長い布で隠した軽装のプレイヤーなどがいますね。

やはりどのゲームでも、舞台が中世とか宇宙とか世紀末とか全く関係なく、和装系、特に忍者を好む人はいそうですね。


大体そういうのは運営も好きで和の国とか実装されるものですが、このゲームではどうでしょうか?

私はただ他のプレイヤーを眺めることで時間を潰していると、リードからフレンドチャットが飛んできました。


「ごめん……いま噴水にいる?」

「何に対して謝ってるのかわからないけど、噴水近くのベンチにいるよ」

「了解ー……先生は捕まったんだけど他にもいるからよろしくね。」

「え?ちょっと?」

「じゃあ待っててね」


……この場合リードが用意してくれた攻略プレイヤーだと思うのですが、今日の今でそんな簡単に攻略してくれる人を見つけられるでしょうか?

私とは違いβの時の知り合いなど交友関係は広そうなリードですが……いったい誰を連れてくるというのでしょうか?


「あ、いたいたチェルカ!」

「おおー!チェルカくん~変わらない姿で僕は嬉しいよ!」

「あれがリードの知り合いか、ちんまいな」

「初対面相手に些か失礼である。」

「些かどころか思いっきり失礼だからね?特に相手は女の子だよ?……泣き顔には関係ないかもしれないけどね」

「どういう意味かなサクラ???」

「そのまんまだけど?チャラ男風!」

「そこまでである。話が進む前に喧嘩するのはやめるのである。」

「……うわぁ」


なんでしょうこの参加したくない気持ちは。

三日ぐらいご飯を食べていなくて、いざ食べるとなったときに目の前に大盛りのカツカレーが置かれたような……これは胸焼けですか?

私は思わず後退り知らないフリでもしようかと思うと、すぐにリードに腕を捕まれてしまいます。


「いやーごめんねチェルカ。PTが昨日のままで解散せずにこのまま狩りに行こうかって話になってさ。私はそのまま解散を提案したんだよ!」

「うん、それでなんでここにいるのかな?」

「だって、リード嘘つくの下手だから、すぐに顔に出るんだよ?つついたらウルフ系で新MOB倒しにいくとか言うから、付いてきちゃった。あ、私サクラね。よろしくチェルカちゃん」


そのまま話に割り込んでくるのは、如何にも魔女ですと言わんばかりの装備を身につけた女性です。

身長はリードよりも低いですが、スタイルが良いですね……。まあこのゲームはそういう細部も弄れますから、私もいじっていますし。


「いきなり話に入るのは如何なものかと思うのである。」

「ちょっ下ろしてよ月平(げっぺい)!」


大きいです。ひょいとサクラさんを持ち上げて、少し距離をとってくれました。先程からキャラ付けなのか、特徴的な話し方をしています。2m弱はありそうな巨体ですね、PTの諌め役なのかしっかりしてそうです。


「人のこと言えねえじゃねえかお転婆娘」

「なんですってチャラ男風!」

「その風ってつけるのやめろって!」

「チャラ男風じゃない!」

「んだと!」

「何よ!」

「話が進まないからやめるのである。」


先程から騒がしいのは、月平と呼ばれていた男性よりも小さいですが、それでも170以上はありそうです。革の装備と矢筒、腰に短剣ですからレンジャータイプでしょうか?

魔法使いに重戦士、弓使いでリードの軽戦士。

4人PTならかなりバランスは良いでしょうか?


そして後ろでにやにやしているのが、眼鏡に白衣と一人だけ世界観壊している女性ですね。

話しかけたいところですが まずは横のリードですね。


「ほらリード。怒ってないし、逃げないから離して?」

「本当?」

「本当本当。教授と話したいからさ」

「うん、わかった。……ほら!そこの三人も騒いでると目立つから静かにして!」


リードは腕を離すと騒いでる三人の元へ行きました。

私はそのまま後ろで見守っていた教授のもとへ行きます。


「お久しぶり、教授。」

「久しぶりだねー。そして残念ながら教授が使えなかったから、いまの僕は先生と呼んでくれると嬉しいな。」

「あ、ごめん。それは聞いてたから意識してたんだけどな。」

「まあ久々だししょうがないよね~」

「それでえっと、先生は今回も検証というか情報集めてるの?」

「もちろんだとも!ちゃんと君用に副マスターはとってあるよ、どうかな?」


以前のゲームで私は教授……現先生のギルドで副マスターをしていました。なにもしなくても情報を扱えるというのは、大変魅力的ではありますが、現状を考えると……。


「うーん……魅力的だけど、いまの時点で先生よりも情報を持ってると思うよ?」

「そうなんだよねえ。残念ながら、戦闘の仕様はともかく誰かさんが図書館独占状態だからねぇ」

「独占なんかしてないよ?」

「独占だよ?何せあの牧師のイベントが発生しないんだもの。」

「え?ゼズペットさん教えてくれないの?」

「そうだよ、あのイケオジ牧師。レベル上げたりしてから行ってもダメ。お力添え出来ませんだって~……だから現状チェルカちゃんだけの独占状態なんだよねえ……」

「うーん……鍵を私が持ってるから?」

「ほぼ間違いなくそうだろうねえ?とりあえず、はい。」


会話の流れでスッとフレンド申請を先生が送ってくれました。

しかし、これで納得しました。今まで他の人を見なかったのは、私のせいだったんですね。確かにそこまで広くない倉庫ですから、鍵を渡した人しか入れないというのはわからなくはないですが、それが本当だとするとここの運営は無駄にリアル思想なのでしょうか?


「そもそも、ここ最初の街で図書館を見つけるのはもっと後か、偶然じゃないと見つからない仕様だと思うんだよね~」

「確かに偶然だったけど、もっと後っていうのは?」

「その教会の牧師へのイベントフラグだけど、かなりめんどくさそうなんだよねぇ」

「え?【言語】のレベルを上げて話しかけるか、友好度とかじゃないの?」

「そうだね、間違いではないけれど正確に言うなら、

・【言語】のレベルを看板で上がる5まであげる。

・隠しパラメータの友好度をあげる。

の二つなんだろうけどね?この友好度っていうのが曲者でねぇ……」

「私その友好度ほぼ0だったと思うけど、発生したよ?」

「多分だけど、初日からずっと街の中を見て回ってそこから教会に入ったんじゃないかい?」

「うん。だから友好度って言われてもあげてないと思ってる。」

「それがね……プレイヤーは恐らく初期スポーンの段階で友好度は100。そこからフィールドに出るたび、またはモンスターを討伐するたびに減少していくタイプだと思うんだよねぇ?」

「え、初期100?」


普通旅人という設定ならば初期の段階では0のはずです。

そこから街の中での友好度を上げるために色々とお使いクエストなどをするはずです。

それが最初から100というというのはどういうことなのでしょうか?


「まぁ、その辺の仕様はあとでかな?ほーらそこの四人組も一緒に行くんだろ?」

「そうですよー!それじゃあすみませんが、先生お願いします。」


先生は少し離れている位置で未だに騒いでる人たちに向かって一声をかけると、すぐにリードが答えます。


「お願いしますって?」

「言ったでしょ?僕は副マスターの位置を君用で取っておいたって。」

「つまり、これから先生のギルドへ行くということ?」

「正解~!さあさあ、向かうは僕のギルド“探究心”の会議室だよ?ゴーゴー!」


妙にテンションの高い先生が私の腕を掴みながら進んでいきます。

ギルドですか、このゲームではどういうところなのか気にはなりますね。

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