13.少女の日常
どれだけゲームをしていても学生として、日常描写はどこかで入れたいと思っていました。
最初に入れておけば次以降はログインスタートで出来ますし、何より学生主人公なのに、学校出てこないとか……。
湿気のせいで跳ねた髪の毛を手櫛で軽く直しつつ私は見慣れた校舎を歩きます。
空は鉛色をしていて、気分を少し落とそうとしてくるが、今の私はまだ見ぬ本に心を奪われていました。
新しい学年になって早2ヶ月。私はいつものように教室の後ろの扉から入ります。
何人かのクラスメイトが朝の挨拶をしてくれるので、私はそれに応じ、自分の席で今日の準備を始めます。
1限目は現国のようですね。教科書とノートを用意して朝のHRまでのんびりとしていましょうか。
空の影響か今日は少し暗い雰囲気ですね。
しかしそんな雰囲気さえ諸共しないような活発な声とともに教室の前の扉が開かれます。
「おっはよー!」
赤いカチューシャで前髪を上げ、長い後ろ髪はそのままの元気が取り柄な私の幼馴染です。理織は周りに挨拶をしつつ、隣の机に荷物を降ろしこちらを見ます。
「智歳おはよう」
「おはよう理織、今日も元気だね。」
「そりゃ色々と面白い情報ゲットしたから、共有をしたくてね!」
「それもいいけど、今日は1限目現国だからその準備はしなよ?」
「わかってるよー!」
どうやら、向こうも面白そうな情報を持ってきたようですね。これはお昼休みはいい話題になりそうです。私たちが軽く挨拶と準備をしていると、私の前の席に座り、そのままこちらを振り返るのが視界に入ります。
「おはよう二人共。理織っちは相変わらず元気そうだね」
「日下部おはよう。」
「おはよう涼っち。今日も朝練終わり?」
「まあねー雨は降ってなかったから外周を少しね。」
話しているのは、日下部涼子さん。中学の時からの知り合いですね。
現在もバスケットボール部に入っているようで時々勧誘を受けます。
私の場合中学までは親の勧めもあって体育会系でしたが、理織の場合は私のせいとも言えなくはないので、少し申し訳ない気もします。
「その元気を理織っちはバスケに向けてくれないのかい~?」
「うーん今は私別のゲームにご執心だから無理かな~?」
「相変わらずのゲーマーめ……あ、そうだ智歳っちは何か面白い本とかない?漫画以外で。」
「日下部が本を聞くなんて珍しいね。どういう系がいい?」
「うーんなるべく難しくなくて、没入できると嬉しいな……難しい評論系はパス。」
「涼っちが本とは……どうしてまた」
「両親にね……身体を動かすのはいいことだが、本も読みなさい!って言われてね……。私自身漫画とかもほとんど読まないし、だったら小説とかの方がいいかなって」
「そうだね……じゃあ“臓器シリーズ”か“左手添えて”とかどう?」
「概要プリーズ。あ、でも臓器シリーズってドラマになってなかったけ?」
「ドラマにはなってたかな?あんまり見てないからわからないけど。小説自体は刑事と法医学者のコミカルミステリー。“左手添えて”はバスケ選手の話だから入りやすいと思うよ。」
「小説でバスケかーいいかもね。ありがとう智歳っち!」
私たちはある程度雑談を交わすと、予鈴がなりました。
さて、一日の始まりです。
「おわったぁー」
「理織だらけてないで、机くっつけて」
「はいはい、お昼だもんね!」
午前中の授業が終わり私と理織は机を向い合わせにして、お互いにお弁当や菓子パンなどを用意します。
日下部は部活の子と食べるので別のクラスに向かったようです。
大体は私と理織の二人でご飯を食べたりするのですが、時々乱入者が混ざることがあります。
「まーぜーてー!」
「来たな猫娘!」
「ふしゃー!誰が猫娘だっ!」
「遊んでないで美奈もこっちに座ったら?」
「座る座る!ありがとうちーちゃん。」
猫海美奈。私と理織のもうひとりの幼馴染です。
美奈と理織は仲はいいんですが、時々こういうじゃれあいをします。
今のクラスでは美奈だけが別のクラスなのでお昼の時だけ絡むことがあります。
「そういえば、ちーちゃんは最近何か新しい本読んだ?」
「んー電子書籍限定版の“臓器シリーズ”と“全力眼球飛ばしは身体に悪い”“憧れ憶い儚きは夢”……ぐらいかな?」
「あー全球悪いは気になってるんだよねー臓器と憧れ夢は読んだよ。」
「略称はわからなかったけど、そうなんだ。全球悪い?もあの作者が好きなら読んでも損はないと思うよ。」
「ありがとう。今日の帰りに買ってみるよ!それでりーちゃんは最近何か面白いゲームでもあった?」
「最近はあれだよ!智歳と一緒に系統樹やり始めたよ?」
「系統樹っていうと……これ?」
「そうそう!AIのクオリティが高くて驚いたよ~」
「へーそうなんだ?」
美奈は私たち二人に対して順番に話題を振ってくれます。クラスでもムードメーカーなことが多いようで色々なところで話を聞きます。
また、美奈も結構本を読んでいるようでお互いにオススメの本なんかを時々話したりします。
「美奈もゲームしたらいいのに~」
「りーちゃんはいっつもそれを言うけど、私はゲームよりも友達と遊ぶこと優先なの!」
「美奈らしいよね。私は美奈がそれで楽しんでいるならいいと思うよ?」
「ちーちゃんありがとう!まあゲームは色々と時間取られるからなぁ~時間があったらかな?」
「美奈がいたらもっと色々と楽しいけど、しょうがないよね。」
「そうそう!私は私で楽しんでいるんだから、ちーちゃんもゲームでちゃんと楽しみなよ~」
「わかってるよ!そうそう、智歳に聞きたいことがあってね!!」
理織がこちらを見て口を開き、何か聞こうとしたのとほぼ同時に昼休み終了の音楽がなれがます。
「はっ!それじゃあ私はクラスもどるね!二人共じゃあね!」
「うん、美奈またね。」
「あぁー!美奈じゃあね!智歳帰りに!帰りに話そう?」
「はいはい。次は科学室に移動だから準備して向かおう?」
お腹もいっぱいになりましたし、午後は睡魔に襲われないように頑張りましょう。
特に何か問題があったわけでもなく、すんなりと午後の授業も終わり放課後になりました。放課後は各々が部活に行ったり、バイトに向かったりします。私や理織はその中でも帰宅組ですね。
クラスメイトに挨拶をして私は理織と一緒に帰宅し始めます。
「理織帰ろう?」
「うん!あ、そうそう、今朝からずっと話したかったんだけどさ!」
「うん。どうしたの?」
興奮気味に話す理織曰く、東の森林をローストチキンってプレイヤーが踏破して、北の洞窟を人助けというプレイヤーが通過したらしいです。
「二人共トッププレイヤーだから不思議じゃないんだけどね。おかげで鉄と木がいいの手に入りそうなんだよね!」
「どっちも助かるね。装備の基本だし。」
「そうなんだよねー!特に私は鉄の消費がすごいし……。ということで、智歳に武器を作って欲しいんだけどいいかな?」
「残念ながら、今だに【鍛冶】レベル1だよ私。」
「あぁ……今1だとうーん……」
「あと2週間したら夏休み入るから、そこで一気にレベル上げるまでは他のプレイヤーを頼ったほうがいいと思うよ?」
今は6月の下旬。私たちの学校は夏休み自体が少し早いので、期末を終えればあっという間です。
「2週間は長いよ……うーん。それに、レベル1ってことは練習クエストもやってないよね?」
「練習クエスト?」
「そのクエストをやらないと、鍛冶場や、調合施設が開放されないから、作ることができないんだよね。アクセサリーだってそうだし。」
「え、そんなのもあるの?」
「智歳ずっと、図書館のところに籠ってたからなんだかんだまだ街の中ちゃんと確認してないでしょ?」
「うん……」
「先にそっちを開放したほうが楽だと思うよ?」
理織のいうとおりゲームが始まって最初の時に図書館を探すために軽く見て回っただけで、武器屋はおろか冒険者ギルドなどにも行っていません。
プレイの仕方は人それぞれとはいえ、流石にこれではこの先に進むのも苦労しそうです。
「そうだね、わかった。今日帰ったらその練習クエスト一通り終わらせてくる。」
「失敗するとクエストクリアの時にもらえる報酬が減るから気をつけて?」
「ありがとう。あ、冒険者ギルドにも行ってないんだけどそっちも行ったほうがいいかな?」
「そっちもかー!……うーん。あそこは討伐クエストとかそういう系で、基本的にモンスターの素材の買取とかそういうものだから。一応登録しなくても問題ないよ」
「今のところフィールドもろくに出てないからね……。」
「本当に本の虫だね?」
「そう!理織に聞きたかったんだけどさ。“世界の始まり”っていう本知らない?」
「“世界の始まり”?すごく惹かれるタイトルだけど知らないかな。そもそも、私もだけど今の段階でそこまで本を調べてるプレイヤーはきっと智歳だけだよ?」
「え!?探索の基本は本でしょ?」
「今はレベルを上げて物理で殴るが出来ちゃうから……。あとシナリオ自体も人によっては別のプレイヤーが開拓してくれたら乗っかる場合もあるし。」
私はお祖父ちゃんが割とゲームが好きな人だったので、RPGなどは必ず住人に話を聞き、部屋を探し、本を見て情報を得るものだと思っていました。
以前やっていたゲームでもそれを行っていたのですが、運営のあまりにもな仕様に嫌気がさして途中でやめてしまったんですよね。
今回はそういうことはなって欲しくないのですが……。
「そっか、わかった。フィールドの方も新しいところが開拓されてるみたいだし、私はまず街の中のクエストを片付けるよ。」
「わかった。まあ智歳が楽しんでるならいいんだけどね……あーあー智歳と一緒にフィールドに行くのは当分先かな~」
「はいはい、ある程度わかったらちゃんと一緒に行くから……ね?」
「わかってるよ!それじゃあ何かあったらフレンドチャットとか送ってね。」
「うん、それじゃあね理織。また明日。」
「うん、また明日。」
私たちは別れ、そして今日もゲームにログインするのでした。




