11.少女は子供達と接する。
いいですかみなさん、体調を崩しやすい時期ですから気をつけるんですよゴホゴホ
中に入ると特に遊具などがあったりするわけでもなく、多少の本棚と小さい円形の机、あとは思い思いに走り回ったりしていますね。また、ここから庭先に出れるようで何人かは外に出て剣を振っているのが見えます。
ざっと見渡しても15,6人ぐらいでしょうか?シスターフォルのおかげで、あまり驚くことはありませんでしたが、それでもこの光景には多少なりとも衝撃を受けますね。
猫耳と尻尾を生やした女の子、まるっきり狼なのに二足歩行している子、背中に白い翼を生やした女の子、角を生やした大きな男の子。外見上に特徴がない子もいますが、ここでは少ないですね。
「これはまた……」
「お、驚きましたか?」
「ええ、私自身があまり街を探索しきれてないのであれですが、その半獣だったりは見かけてなかったものですから」
「そ、それはその……シスターエメダとゼズペットさんの決定で外出を許可していないのです。」
「それはまた……」
「じ、事情も事情ですのでわかっています。また、私も受けたことがありますので……だから、ここの子達にはそういうのは……」
「そうですか……」
うーん、ファンタジー特有ではあるけど、なんか妙に重いというか……。あんまりこういうのは経験してこなかったからちょっと反応に困ります。
あまり暗くなってもダメでしょうから、まずは簡単に子供たちに挨拶するとしましょう。
「えー、注目!はーい注目してねー!」
「は、はーいちょっと集まってねー」
私とシスターフォルは全体に呼びかけ、一度全員に集まってもらいました。
先にシスターフォルが口を開きます。
「今日一日手伝ってもらうことになりました、チェルカさんです、みなさんしっかり言うことを聞くんですよ!」
「今日一日一緒にいるチェルカです、よろしくね」
「はーいチェルカせんせーはひと?それともはんじゅー?」
額にちょこんと角を生やした女の子が聞いてきます。
先生という響きは少し慣れませんが、今日一日は頑張りましょう。
「先生は人だよ?」
「わたしたちのこと、こわくない?」
「怖くないよ?どうして」
「だって、ひとはこわがるってライムがよくいうから」
「お、俺かよ!……ここのシスターとか一緒にいるやつ以外は怖がるのが普通だから……」
他の子よりも少し大きい金色の毛を全身に生やした狼系の少年が答えます。
この世界の住人は半獣を怖がるものなのかもしれませんが、私にとっては、半獣とか天使とかは創作でよく触れています。確かに昔話などでも怖がるようなものはありますが、今のこの子達をみてそういう気持ちは抱きません。
「ほかの人はわからないけれど、私はあなたたちを見て怖いとかは思わないよ、だから仲良くしてくれると嬉しいな」
「うんー!わたしもよろしくしたい!」
「わたしもわたしも!」
「ぼ、ぼくもこわくない?」
「怖くないよ、だからよろしくね?」
角や耳といった比較的人に近い子は受け入れてもらえたようですが、動物が二足歩行しているというか、体毛ふさふさの獣よりの子はまだまだ警戒だったり、怯えていますね。
自己紹介が終わり自由行動となりました。さて私はどちらから動きましょうか。
「それじゃあ、すみませんがチェルカ、私は外の子達を見てきますので、中の子達を少し見ててもらえますか?」
「あ、はいわかりました。」
「中の子達は比較的大人しいので、大丈夫だと思いますが、何かあったら呼んでください」
「わかりました。」
シスターフォルは活発な子を連れて外に、私は割と内向的な子が多い室内を担当します。
すると早速近くにいたキツネ耳の女の子が話しかけてきます。
「チェルカ先生は何ができる人?」
「ある程度なら本が読めたりできるよ。あなたはさっきの子達よりもしっかりしているんだね」
「私はここだと一番お姉さんだから……」
「そっか、偉いね。お名前はなんていうのかな?」
「フォン……」
「フォンちゃんだね、よろしくね。とりあえず読み聞かせでもする?」
「うん、それならみんな集める?」
「そうだねお願いできるかな?」
「うん、わかった。」
私はキツネの女の子が集めてくれている間に、何か変わった本が無いか小さな本棚を探します。
・さんたいのビックボア
・かけろペガサス
・はなさけトレント
・さばくのくにのじょうおう
・うそつきウルフ
どれも実在する物語の改変のようですね。今回はさんたいのビックボアを軽く読んでみましょうか。
「チェルカ先生集まったよ」
「ありがとうね、フォンちゃん」
「せんせいー!なんのごほんよむのー?」
「今日はさんたいのビックボアを読むよー?」
「わーい!わたしそれすきっ」
「わたしよんだことなーい!」
「たのしみぃー!」
「はいはい、静かにねー?それじゃあ読んでいくよ?」
昔々あるところに、三体の暴れん坊なビックボアの兄弟がいました。
色々な町に行っては暴れるビックボアの兄弟に父親のビックボアはこう言いました。
「お前たちももういい年齢ダ巣立ちするんダ」
父親に言われた通り三体のビックボアは各々が気に入ったところへ移動していきます。
長男のビックボアは住みやすさ優先ということで街の近くの川場に。
次男のビックボアは移動しやすさ優先で平野に。
三男のビックボアは安全性優先で森の中へ住みました。
三体は好きに色々と暴れました。
時々来る冒険者などを驚かしたり、街に行って食料を奪ったり。
そんなある時、巨大なドラゴンの噂を聞きます。
三男は危ないから森へ来ないかと兄たちに言いますが、兄たちは聞き入れません。
そしてしばらくして、長男のビックボアのいる川場に巨大なドラゴンが降りてきました。
「これはこれは、丸々と太ったビックボアだ。お腹も空いたしちょうどいいだろう。」
ドラゴンは長男のビックボアをやすやすと捕まえひと呑みにしてしまいます。
味をしめたドラゴンは近くの平野に探しに行きました。
平野に生えている草木よりも大きな次男のビックボアはあっさりと見つかってしまいました。
「うむぅ……もう少し食べたいな」
そして巨大なドラゴンは森の方へと向かいました。しかし大きな木々が邪魔をしてその身体を思うように動かせません。
これに困ったドラゴンはブレスを放って森を焼こうとしますが、大きな森のため上手く燃え上がりません。
「これでは、せっかく食べに来たのに意味がない、別のところへ行こう。」
こうしてドラゴンは飛んで行きました。
最後に残った三男は安全性のおかげで、最後には森の主として末永く過ごしたそうです。
「おしまい……。」
「わぁー!」
「長男も次男も可哀想……」
「さんなんのいうことをきかなかったからしょーがないよ!」
「せんせーよむのじょうず!もっと読んでー!」
なんともまぁ、デフォルメされた絵柄で弱肉強食を教える本でした。
三匹の子豚のような雰囲気ですが、最後に残った三男は森の主になってますね、これはどこかの森にビックボアの主が居るという伏線なのでしょうか?
私は子供たちに言われるまま、ほかの本も読んでいきます。
こうして時間を過ごしているとシスターフォルが庭から上がってきました。
「みなさーんお昼にしますよ、チェルカさんはお料理はできますか?」
「え、あー……」
現実ではある程度の料理などはできますが、このゲームでの判定はどうなのでしょうか……一度試してみるのもアリですね。
「どこまでお手伝いできるかはわかりませんが、多分できると思います。」
「それは助かります。では、ライムとフォンは部屋の片付けをして食器を後で並べてください!」
どうやら、フォンちゃんと先ほどのライムくんというのは、幼稚園などでいう年長にあたる子のようですね。小さい子を誘導したり、それなりにおっきい子は手伝い用に指示をしています。
私はそれを横目に、シスターフォルに案内されて厨房に向かいます。
少し広い厨房のようで私たち二人ぐらいならあまりぶつからずに作業なども出来そうですね。
冷蔵庫などは見当たりませんが、シンクの上には持ってきた野菜が置いてあります。
「そうですね、それではチェルカは野菜を切ってください。」
「わかりました。」
二人で分担をして料理をしていきます、火などを使う際にはどうやら【火魔】を使っているようで、微かにマナを感じました。意識しないと見えない【魔視】と違って【魔力感知】はパッシブのようでこういうところで反応します。
そして子供数人分と私たちの分の料理を大皿に乗っけて運んでいきます。
最初に案内された長机の並んだ食堂に向かうと、子供たちが行儀良く座っています。
「はーい持ってきましたよ。」
「準備は大丈夫ですね。みんなありがとうございます。」
「はーい!」
「おなかすいたよ~」
「うまそうっ」
「はいはい、待ってくださいね、それじゃあみなさんいただきます。」
「「「いただきまーす」」」
ゲームの中ですが、多少味を感じますが、この野菜炒めや新鮮な野菜のサラダなどとても美味しく感じます。こういう細かなところはゲームといえども力を入れているのがよくわかります。
孤児院では昼食後お昼寝を行うらしく、先程まで遊んでいた大部屋に各々が丸まったりして寝ています。
こうしてみると本当に色々な子供たちがいますね。
器用に翼を畳んだ子やその尻尾を枕がわりにしたり、されたりしている子など。
私は思わずこの光景に頬が緩みます。
現実ではやんちゃで、大変と聞きますのでなりたいと思ったことはありませんが、1日二日だけだったら、いいなと思ってしまいますね。
「はいどうぞ、チェルカ。」
「ああ、ありがとうございます。」
シスターフォルから、マグカップを渡されます。匂いを嗅ぐと紅茶のようなものでしょうか?
「これは、紅茶ですか?」
「はい、この街の特産品の“メギドの葉”を乾燥させて出来た茶葉です。」
「“メギドの葉”?」
「はい、使い方次第では毒にもなるのですが、乾燥させてちゃんとすり潰したりすると薬効が出るんです。この紅茶も疲労回復があるんですよ?」
「そうなんですね……あ、美味しい。」
「それは良かったです。」
あ、微量ですがHP自動回復がステータスに入っていますね。
後々料理などでバフなどをつけることも出来るのでしょうか。
私は軽くステータスやスキルを見ながらまったりとくつろぐことにしました。
新しく【料理】の【スキル】を獲得していたのと、【言語】のレベルが26になっていました。
やはり存在はしていたのですね、説明を読んでも料理ができる。としか書いてないのでここの運営は一度説明文をしっかりと見直したほうがいいと思います。
「それにしても、すごい人気でしたねチェルカ先生」
「読み聞かせをしていただけですけどね」
「それでもみんな楽しそうにしていたので、それだけチェルカの読み方が上手だったんだと思います。」
「ありがとうございます。あ、シスターフォルに聞きたいんですけど……。」
「はい?私でよければ」
この短時間でシスターフォルはだいぶ慣れたのか、私の目を見て話をしてくれます。私はあるかわからないけれど、あったら嬉しいなという思いで、あることを聞きます。
「私、読むことはできるんですが、書く事ができなくて、シスターフォルは文字を書く事ができますか?」
「文字ですか?はい。一応“識字”を使えますので。」
「ん?“識字”ですか?」
「はい、多分ですが、チェルカの話とかを聞く限りだと、もうちょっと頑張れば使えると思いますよ?」
「それは別に【スキル】とかじゃなくてですか?」
「はい【スキル】とは即ち才能ですが、チェルカはすでに読むことができてますので、書くだけならもう少し慣れたら出来ると思いますよ。」
これは……今まで【言語】には【アクション】がないと思っていましたが、レベルが低くて覚えていなかっただけということでしょうか……ということなら、もしやこのままレベルを上げれば自分で本を作ることも?
「そうなんですか……ならもう少し頑張ってみます。」
「はい!チェルカならきっとすぐにできるようになると思いますよ」
「ありがとうございます。シスターフォル。」
私たちは休憩の間他愛もなく話をして、午後に備えるのでした。




