10.少女は孤児院へと向かう
さあ三連休の始まりです!目標はここでストックを作ることです!
私がログインしたのは17時頃でした。昨日と同じようにシャワーを浴びて、休憩用に軽食と水を用意しておきます。
ログインしたら半ば見慣れ始めた倉庫ですね。
「それにしても……良かったなあ」
ログインが遅れた理由ですが、思いの外“臓器シリーズ”の電子書籍限定版が面白くて、読み返したり1巻の“左心房は嘘を付かない”を読んで伏線を確認したりしていました。
なにせ、今回の電子書籍限定版は、初期プロットをそのまま原稿に起こしたものらしく、一巻の内容ではあるものの、差異があったりまさかの犯人と法医学者が兄弟だったり、実際の犯人の動機が左心房に関係したりと……まさしく限定版。場合によっては0巻と表しても良いものでした。
「読書後の余韻も楽しみのひとつだよね……」
私は教会へと続く廊下を歩きながら呟きます。
教会へ行くと何やら知らない人とゼズペットさんが話をしています。
「申し訳ありません。お力になれそうにありませんね」
「そうっすか、じゃあ失礼します」
「はい、また何かありましたらどうぞお越しになってください」
「そうするっす……あれ?あんた今どこから来たんすか?」
どうやら奥から来る私に気づいたようです。
この様子だとプレイヤーでしょうか。
皮の装備一式に背中に矢筒、腰にポーチをつけた男性ですが、どこかの義賊かはたまたシーフとか、レンジャーみたいですね。
「どこからって奥からですけど?」
「奥に何かあるんすか?」
「そこは自分で調べてください」
「まあそれもそうっすね……ちなみに図書館かそれに類似するものがどこかにないか知らないっすか?」
「知ってますよ?」
「本当っすか?!」
図書館の存在ぐらいは別に教えても問題はないでしょう、そもそも昨日の時点でテロップみたいなのは流れてましたからね。あれが見つけたプレイヤーだけに流れているならまたわかりませんが、昼間理織に話したときに流れていたという話は聞いています。
「知っているのは事実ですよ」
「是非とも教えてほしいっす!」
「ちなみに【言語】はもってますか?」
「レベル2っす!」
レベル2ということは軽く看板を見ただけでしょうか?それともNPCと話したから?
「持っているならゼズペットさんに聞いて教えてもらいませんでしたか?」
「ゼズペットさんって誰っすか?」
「私になにかご用ですか?」
教会の端で話していたとはいえ、ゼズペットさんが会話に参加してきました。PLの会話にNPCが急に参加してくるんですねこのゲームは……
「あんたがゼズペットさんっすか?!さっき聞いたらお力になれない。みたいなこと言ったじゃないっすか?!」
「こんにちはチェルカさん」
「え、あ、こんにちはゼズペットさん」
「無視っすか?!おじいちゃん俺のこと無視っすか?!」
「随分と騒がしい御方ですね、私は確かにお力になれないとお答えしました。」
「そうっすよね!」
「どうしてですかゼズペットさん?」
「旅の方の言葉とは多少違いますので、その御方に教えるの悩みまして。また、図書館については色々とありましたので、ある程度信頼できる方でなければご案内はしておりません。」
「それは俺が信頼できないってことっすか?」
「少なくとも本を読むには、ですね」
……私探索してその流れで来たから、信頼を上げる系のイベントは行ってない。
ということはフラグは2種類以上あるのかな。例えば“【言語】のレベルを5以上”や“一定以上街にいる”とか?すぐにフィールドに行ったりする人には難しいし、逆に看板見ながらゆっくり街を探索している人は簡単だ。
もしくは今のゼズペットさんの話から街の中での友好度みたいのをあげて聞くことができるのかもしれません。
あまりここで騒がれても嫌なので、少し助け船をだしましょう。私は男性の服をつかみ軽く引っ張る。
「ちょっと良いですか?」
「おおー……ゲームとはいえちょっとキュンとくるっす!なんっすか」
「ネカマだったらどうするんですか……って違います。ちょっと耳貸してください」
「え、あ、はいっす!」
「これ所謂フラグです。おそらくあなたは【言語】のレベルが低いのか滞在時間が短い、もしくは街のNPCとの友好度が低いんだと思います。」
「俺……耳元は結構敏感あんっ」
「気持ち悪っ」
「しょ、しょうがないっす!人間誰しも弱いところはあるっす!」
「…………」
「ああ、ちょっとつり目なんっすから睨まないで欲しいっす!」
「とにかくそういうことです。」
「よくわかったっす!とにかく【言語】上げるために看板とか色々と話してくるっす!」
「はい、そうしてください」
「よし!これで先生に怒られなくて済むっす!それじゃあお嬢ちゃんとゼズペットさんまたっす!」
一方的に話すとそのまま教会を出て街中へと走っていきました。
……あの人最後に先生って言ってましたね。先生のことですからもうギルドとか立ち上げてそうですね。まぁ、そのうちコンタクトとったりに来るでしょうから、あんまり気にしなくて良いですね。
それよりも私は私で要件を済ませてしましょう。
「騒がしい方も出ていったので私も行きますねゼズペットさん」
「あ、それでしたらチェルカさんにお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
「え、はい。なんですか?」
「今朝は先程の御方や他にも色々とありまして。隣の孤児院に、教会の庭でできた野菜を渡せませんでしたので、それを届けて欲しいのです。お願い出来ますか?」
「はい、むしろこれから孤児院に向かうところでしたので問題ないですよ。」
『クエスト:教会の野菜をシスターエメダに渡すを受理しました。』
ん?初のクエストですね。このゲームでのクエストは返答次第で勝手に進んでしまうようですね。まあお使いクエストですから問題はないでしょう。
「それじゃあこれも一緒に孤児院のシスターエメダに渡してください。」
「手紙ですね、わかりました。それじゃあ行ってきます。」
「はい、お願いしますね。」
私は、手紙を受け取りしまうと、大きめのザルにいっぱいに乗ったトマトやキュウリといった野菜を渡されました。
瑞々しくて美味しそうです。
そもそもこのゲームはまだ空腹度とか実施されてませんが、食堂とかこういう食品系のアイテムがあるということは実施予定なのかもしれませんね。
さて、予定が追加で増えてしまいましたが、目的地自体は変わっていません。
ザルに乗った野菜はアイテムボックスことインベントリには入らないようで手で持っていくことにします。
……それ以前に私図書館で頭いっぱいでそのあたりの仕様を理解していませんね。あとで確認しておくとしましょう。
孤児院といっても別に寂れた廃墟だったり、潰れそうな家屋というわけではありません。どちらかというとちょっと公民館のようなイメージでしょうか、少し大きめの建物です。
普通ならそこに何か置いてあったりするわけはないのですが、これはゲームですので、しっかりと看板というか標識みたいな形で孤児院と書かれています。
「すみませーんシスターエメダさんはいらっしゃいますかー?」
「はーいどちら様でしょうか?お野菜?」
出てきたのは20代後半ぐらいの女性ですね。しっかりと修道服に身を包み目鼻が整っていますが変に作り物のような感じを受けないので、ゼズペットさんといいこのあたりのキャラデザは優秀ですね。
「あ、ちょっと用があって来ました。先にこれをどうぞ。そこの教会からの品物です。」
「まあ!ありがとうございます。どうぞ何もありませんが、どうぞ中へいらしてください。」
私はシスターエメダにザルを渡すとそのまま、中へと案内されました。
中に入ると質素なイメージを受けますがそれでも、貧しいといった雰囲気はなく、どちらかというと児童館や学童のような印象を受けます。
少し歩くと食堂なのか、少し足の短い長机が2つほど並んだ場所につきます。
「よいっしょと、ふう。えっと改めましてわたしはここの管理をしています。エメダです。」
「チェルカと言います。あ、それとこれもゼズペットさんからの預かり物です。」
私はインベントリから手紙を渡します。
どうせなら来る途中で読んでおけばよかった気もしますが、それをすると友好度とか下がりそうですから、読まなくて正解ですね。
「ありがとうございます。えっと……まぁ……そうですか……。」
シスターエメダは手紙を読んで徐々に暗い顔になっています。
私は少し手紙の内容が気になりますが、お使いはこれで終了でしょう。それに、孤児院にきて様子を見るつもりでしたが、何かあるような気はしないんですよね……。
すると、ひょこっと入口とは別の扉から、金色の塊が見えます。
じーっと凝視していると、手紙を読み終わったシスターエメダが話しかけてきます。
「あの、チェルカさん、まずは届けてくださってありがとうございます。」
「いえ、大した距離でもありませんでしたから。」
「それと、いきなりで申し訳ないのですが、ひとつ頼みを聞いていただけないでしょうか?」
おや、この流れは先程似たようなものをしたような……お使いクエストからの派生はRPGの基本ですもんね。断る理由はありません。
「良いですよ、なんでしょう?」
「ありがとうございます。その、わたしは少し出なければならなくなりまして……。この孤児院にはわたしを含めシスターがもうひとりいるのですが、そのシスターの手伝いをしていただけませんか?」
「孤児院の手伝いですか?別に構いませんが、何をすればいいですか?」
「ここの子達は言葉を覚えていない子もいますので、そういう子に教えていただいたり、もしくは魔の力を使えるなら、少しの雑務を……そのあたりは……いい加減出てきてくださいシスターフォル!!」
シスターエメダが少し声を大きな声を出すと、先程からチラチラと視界に入っていた金色の塊がびっくと震え、ゆっくりと扉から出てきました。
「あ、す、すみません……フォルです。」
「……キツネ?」
「ひぅ……」
そう、金色の塊だと思っていたのですが、どうやら尻尾だったようです。シスター服に身を包み私よりも少し身長の低いぐらいでしょうか、目線が合います。金色の耳が少したれた状態でベールから出て、尻尾を前に持ってきて顔を隠しています。
「その、彼女は見ての通り恥ずかしがり屋で基本的に人前には出れません。子供たちの前だとちゃんとしてくれるのですが、それ以外の方だとダメでして。」
「え、はぁ……」
「す、すみません……」
「いえ、大丈夫ですけど……その、獣人?なんですか。」
「え、あ、えっと…………」
困ったのかそれともあまり聞いてはダメな単語だったのか、尻尾で顔を隠したまま無言になるシスターフォル。
「……彼女は半獣です。特に人要素が強いですね。」
「半獣?……そうなんですね、まあ私は気になりませんから、改めてよろしくお願いしますシスターフォルさん」
気になる単語です。まあ獣人ではなく半獣という括りの時点で色々と察することはできますが、このゲーム一応は全年齢ですが大丈夫なのでしょうか。
まあそれでも、この世界にそういう方々がいるのを知れただけでも良いでしょう。もしかしたら後々そういう方々に転生できるシステムとかありそうですし。
とにかく今はクエストです。私はシスターフォルに対して手を前に差し出し握手を求めます。
「あ、えっとはい……よろしくお願いしますチェルカさん」
「これで決まりですね。それではチェルカさんすみませんがしばらく宜しくお願いします。シスターフォル、チェルカさんのご迷惑にならないように頑張るんですよ。」
「が、頑張ります!」
そう言ってシスターエメダは頭を下げるとどこかへ移動していきました。
『クエスト:教会の野菜をシスターエメダに渡すをクリアしました。
クエスト:教会のお留守番を受理しました。』
ログが流れてきましたね。さてこれからどうしたものでしょうか。
「まずは、シスターフォルさん、子供たちはどこにいるんですか?」
「はいぃ!えっと……今はこの奥の大部屋で遊んでいます……その、さん付けを外してもらえませんか?」
「え?うーん……じゃあこちらもさん付けを外していただけるなら。」
「え……あ、じゃあチェルカ」
「はい、シスターフォル。とりあえず子供たちと顔合わせしないと何も始まりませんから、案内をお願いしてもいいですか?」
「わ、わかりました、こっちです!」
子供は別に嫌いではありませんが、どんな子供がいるのか楽しみですね。
ひとつやってみたいことがあるんですよね……24時間で24回更新。
連続か、1時間に1回かどっちがいいんでしょうかねぇ




