day-to-day happiness
「お前彼女は作らないのか」
おそらく、酒の席の何気ない一言。若者の話題の種としてよくあるものの一つ。定型文、決まり文句。それに対し私も、相手がいないからね、と定型で返す。
「そうはいうがね、お前、何も周りに女がいないわけではないだろう?良い年して恋愛経験ゼロは何の勲章にもならんぞ」
そんなことはわかっている。結婚報告もちらほら聞こえてきていて、ある種の焦りがないわけではない。だが、相手がいない。最重要事項だ。
先に言っておくが私は、君を馬鹿にするつもりは全くない。これからしゃべることは個々の価値観に関することだから、どちらが正しいとかいうつもりも微塵もない。
その上で言うけれどもね、恋愛なんて物は人生においてさして重要なものではない。というと、少しばかり語弊があるな。もちろん、パンやスープだけではなく肉や魚の類いもなければつまらない。そういう意味では重要であるのは間違いないし、生物として子孫を残すことは大切だ。・・・だけど、君らが言う恋愛経験というものは、そういうものではないだろう。
君らは、大多数の人らは恋人がいない状態を、一種の恥であると考えている。童貞であることもね、そうだよ。だから、恋人を作るために奔走・・・合コンや婚活といったものかな、にも積極的に参加するし、クリスマスにペアがいなければ同士とその事を愚痴るし、繋ぎのための'とりあえず付き合っとく関係'なんてものも生まれる。・・・理解できない。
いや、理解はできるかな。私は自分のものと違う価値観を否定するような宗教家や政治家ではないから、理解はできる。わかる努力はする。
要は、君らは・・・君らと先程から言っているけど、君個人を批評、まして否定しているわけではないよ。世間一般は、誰と恋人になるか重要ではなく、恋人がいることその一点が重要なんだ。俺には、私には恋人がいる。故に勝ち組である、と。アクセサリーでマダムが着飾るように。そして、恋人のステータスはアクセサリーの値段だ。違う?違わないよ。「あなたの恋人どんな人?」「東大卒業した銀行マンなの!」「えー、すごーい」。どこが凄いのかね。東大卒業も銀行マンであることも素晴らしいことだと思うよ。私よりも優れている点だ。だけれど、恋人として、どこが凄いのかね?
一息話をし、渇いた唇を、酒で濡らす。
「・・・お前のそれは・・・結局のところ、言い訳だ。僻みとも言う。自分に恋人が作ることができないから、できるものたちを否定する。彼らはビッチである。たらしである。尻軽で性に溺れている。だが俺は違う。真実の愛を求めている、こういう事だろ?東大卒の銀行マンが良い女連れてるのを見てそうぼやくわけだ。
お前は恋人がいることをステータスのように扱うのが気に食わないらしいが、逆にそれの何がいけないんだい?真実、恋人ができないものに魅力がないのは違いない。・・・君個人のことをいっているわけではなく、世間一般としてね。また、ステータスの恋人との関係が愛の一つであることも違いない。仮に初めは愛の欠片もない、繋ぎの恋人だろうが付き合ってから生まれることもある。お見合い結婚は、あれは付き合うどころか愛の無い結婚だが、うまくいく家庭の方がおおい。
臭い、綺麗事だけどね。人間は勉学に励み社会に貢献し、結婚し子供を産み、定年後は趣味に励み、最後は孫に囲まれて死ぬ。これが最上級の幸せであることに違いはないのだから。もちろん、個々の能力による差はあるけども」
そんなものが幸せであると。
「社会がそれを幸せとしているし、俺らは幼稚園のころからそれを幸せだとして育てられている。なぜならば、俺らは日本人であるからだ」
ならば余計に恋愛とはくだらん。
「あのね、世間は君の評価なんてどうでもいいんだよ」
私にとっても世間の評価はどうでもいいことだな。
「一人で生きることは不可能だ」
生きづらいのは昔からだ、もう慣れたよ。
お前さ、深く考えすぎだよ。もてんぞ
「もてる必要がない」
この堅物には苦笑いしかでない、堅物というより、変人か。なぜ俺は友人をやってるのかね。・・・店員に追加の酒を頼んだ。
結局さ、お前のいう恋愛とはズバリどういうものなんだ?
「ズバリか。恋愛とはズバリ・・・」