となりの魔境
「うんうん、良い所だね。土も肥えていて、魔物もそこそこいる。この森が豊かな証拠だ。それに……」
人里が近い。
割と大きな街だ。
現在、アー君が見つけてくれた新たな住居の場所に来ている。
日当たりのいい場所も多いし、明るく綺麗な森だ。
「これならいろいろな実験も出来そうだ。街が近くにあるなら有効活用しないとね」
生活必需品を買いに行くもよし、街に喧嘩を売るもよし、実にいい場所だ。
ミニ・ラピュタ状態だった家も、土の部分を埋め込んで前と同じような感じになっている。
ここからドンドン拡大していこう。
「川が近くにないけど、地下水を引っ張ってくればいいか。水が無いと植物たちの状態を維持できないからね」
温泉も探さないとなぁ。
住む場所が変わっちゃったせいで、家の風呂は現在空っぽだ。
「でもまずは、この辺りを自動で警備できるようにしないと。また誰かが家に来たら厄介だしね」
という訳で、ここで取り出したるは……
「ニードル・プラント・マザーのなえぎぃーー」
この苗木、何と魔物を生み出すのだ。
ニードル・プラントという棘を射出する植物の魔物なのだが、この苗木から十分な大きさになったら勝手にボトッと産み落とされる。
後は、このマザーを中心にある一定の範囲内で勝手に生きていく。
とっても便利な植物なのだ。
ただ、とても弱い。
飛ばす棘には毒もないし、棘を打ち尽くすと何も出来ない。
全部の棘を打ち尽くすまでガードして待機していれば勝てる。
そんな悲しい魔物なのだ。
「ただ数が増えやすいしお世話を気にしなくていいし、環境の変化に強いしで植物としてはこれ以上ない程優秀なんだけどね」
という訳で設置。
「ほーれ、エルフ特性液状超絶ハヤクソダーツDXだぞ~」
くそダサいネーミングの赤い栄養剤をぶちまけ、そのまま放置。
一日もすればニードル・プラントを生み出し始めるだろう。
膝下程のサイズから一気にブドウの木位のサイズになるはずだ。
「あ、水も引いてこないといけないか」
こうして、新たな森での生活は幕を開けた。
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「フフフ、ハハハハハハハハハハッゲほッ!?む、むせた……」
しかし、この光景を見ては笑わずにはいられない。
「ふふん、私が本気になればこんなもんよ。一週間で平和な森が要塞に早変わりさ」
見た目は殆ど分かっていない。
強いて言うなら、棘の生えた植物が根っこを使って歩いていたり、食人植物が自生していたり、地面からいきなり触手が飛び出す様になった位だ。
まさに森の要塞!
「予想外だったのは、天然のトレントとかが移住してきた事かな。まぁ、トレントはエルフを攻撃しないし、天然の森の警備兵って(エルフから)言われているくらいだし、凄く助かるからいいんだけど」
更に、これらの魔物植物は、別名、魔法植物とも呼ばれ、常に微弱ながらも魔力を放出し続ける。
これにより、更にこの森は魔物や魔物植物が増え、魔物植物に至っては周囲の魔力濃度によって大きさや力が変化するものが結構いる為、このまま放っておけば勝手に強くなってくれる。
そして、地面の中には、中が空洞になっている蔓型の植物が張り巡らされている。
コイツは勝手に遠くに水を運んでくれるのだ。
井戸の水をここら一帯の地面に撒いてくれる便利植物。
「後は時々栄養を補充してやればいい。完璧だよね、流石私、超凄い」
本当はこれをエルフの森でやりたかったのだが、何故が止められてしまった。
なぜだろうか?
「……でも、まだ足りない。恐らくあのクソ勇者どもならここを切り抜けてくる。まぁ、植物の魔物は数は増えやすいけど弱いからね、仕方ないね」
今後の課題は、森に人工物をいくつか作って植物たちが有利に戦えるように地形を整える事かな。
後自生する『普通の植物』もちょっと改良しちゃおうか。
「って、ん?……魔物じゃない、人?」
もう来た?
予想より早い。
まぁ街も近いし、人が来てもおかしくないか。
まだ植物地獄ゾーンには来てないから何もないけど……
「丁度いいか。気配を消して様子を見に行こう。私が用意した植物たちがどこまでやれるか気になるし」
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で、今見に来てるわけだけども……
「ん~、四人か」
四人の男女、見た感じ冒険者だ。
かなり周囲を警戒している。
まぁ私はバレてないけどね。
「会話は聞こえないし……しばらく様子見かな?」
植物たちが迎撃出来るかテストもしたいし、手を出さない方針でいいかな。
エルフがいるってばれたら毎日のように来そうだし。
「ん?ッ!!」
瞬時にその場から離れる。
木の上に移動し、ぴょんぴょん飛び回りながら場所を変える。
そして下から見えないように裏に隠れる。
「(バレたッ!?今絶対に目が合った!!)」
冒険者の内の一人。
魔法使いみたいな恰好をしている女。
ヤツと目が合った。
「おかしいな……索敵の類を誤魔化すのは得意なんだけど……」
エルフの魔力は森にただよう魔素に近い。
ゆえに、索敵をしても見分けるのは非常に難しい。
それに気付ける程の力量だとしたら……
「あいつら、めっちゃ強い?」
だとしたら、マジのマジでヤバい状況だ。
さっきのが偶然じゃ無ければ、アイツらは勇者達よりも強い。
「なんでこんな面倒なのばっかし寄ってくるかね?」
出来れば逃げたい。
この場をやり過ごしてこの森にはエルフは居ないって事にしたい。
くっそ、誰だよ!近くに街があればいろいろ実験できるとか言った奴!!
実験されるのこっちなんだけど!!人体実験的な意味で!!
「ん?あれ?四人?」
今感じるのは三人。
どこかへ行った?一人で?
「違う、うっすらと感じる。さっき見張った場所から奴らは動いてない。この感じ……」
エルフ?あの中に?
あの魔法使いみたいな恰好をしているのが、エルフ?そんな馬鹿な……
「ん~、例えエルフが居るとしてもなぁ」
信用できない。
奴隷って感じではなかったけど、けどなぁ……
「あいつらあの場所から動いてない感じだし、迎撃しようかな?」
うん、それがいい。
姿は見せないように、植物たちを使おう。
自分は最終兵器って事で。
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side.冒険者
「どうだエリカ、接触できそうか?」
「どうかしら。私たちエルフか警戒心が強いし……多分、あっちは私がエルフだって気付いてる。それでも出てこないってことは……」
「様子見か、敵対か、か」
エリカが森の様子が変わったって言うから来てみたが……確かに変わってる。
魔素が明らかに増えているし、空気が重い。
エリカはむしろ居心地がいいって言ってたが、多分エルフだからなんだろうな。
「どうするリーダー、一旦帰るか?それともここで待つか?」
「私としては、待機するのがいいと思うわ。危害を加えるつもりがないと分かれば、出てきてくれるかもしれないし」
「そのエルフちゃんてエリカちゃんは追っかけられないんすか?」
「無理ね。身体能力的にも、魔法的にも厳しいわ。多分、あの子は守護者。エルフの中では最強の部類の実力者よ」
「マジで!?エリカちゃんよりも強いんすか?」
「比べるまでもないわね」
「頭の痛い話だ……こちらに敵対する意思が無くても、あちらが理解してくれるかは別だからな」
歴史的背景、エルフの種族特性、それ故に異常なほどに警戒心が強い。
人にとっては遠い昔の話でも、エルフはまだ、その歴史を生きて経験した人がいる。
人族を異常に警戒するのはそのせい。
わかっちゃいるが……
「ん?なぁ、おい、気のせいか?」
「え?どしたんすかリーダー?」
「気のせいじゃない!!全員戦闘準備!!ごめん気付かなかった!!この森ッ」
「魔物だらけだッ!!」
周りの木も……全部!?
おいおい、いつからこの森は魔境になったんだ!?