これからの生活
「「「え?」」」
え?って何?
まさか「はい、ついて行きます」とでも言うと思っていたのだろうか?
「ど、どういうことだセシリア?この人なんじゃないのか?」
「そのはず、何ですが……あの、お名前は『ルアナ』様で間違いないですよね?」
「……そうだけど」
なぜこの人は私の名前を知っているんだろう?
おかしい、ここに私が住んでいるのはエルフはもちろん、モーゼスや両親も知らない筈だ。
アイツらにここの存在を知る術はない筈……まさか!
「神託?」
「はい、私は教会で神託を授かる事が出来ます。あなたの事は、主のお告げによって知りました」
何で私?
神に目を付けられるようなことは……まさか転生者だから?
「まぁ、私はついて行かないから」
「待ってくれ!俺たちには君の力が必要なんだ!」
「えぇ……私は要らないし」
「えっと、主の命は大変光栄な事なのですよ?」
「ごめん、宗派が違うから」
「ですよね~」
事実、この世界には紙が実在する。
人間には二つが三つくらいの宗派が存在するんだっけ?
あの自称聖女が何を崇めているのか知らないけど、エルフは人間と違い、世界樹様を崇める事で統一されている。
まぁ私はそこまで熱心な教徒という訳ではない。
世界樹様はどうやら里に魔物が近づきにくくなる結界を張ってくれているようで、その感謝の意を込めて、一日に一回ちょっとした祈りを捧げているくらいだ。
ぶっちゃけそれ以外何もしていない。
「そもそも、何で私の力が必要なの?」
「……とある街に、謎の木が生えてきたんだ。厳密には結構昔から生えていたんだけど、真っ白で綺麗な木でしかなかったんだ。葉も花もつけない不思議な木だった。でも、数か月前、いきなり葉が生えてきたんだ。そして数週間前、花が咲いた。そして、それと同時に、街を妙な霧が覆うようになってしまって。その時から、街に住んでいる人々が幻覚や幻聴を訴え始めたんだ。その街は、今では外部からの立ち入りは禁止になってしまって、街は殆ど機能していないんだ」
「そこで、私の元に神託があったのです。ここに住む、ルアナと言うエルフなら、街を元に戻せると……」
なんじゃそりゃあ。
「ろくでもない神様だな」
「何てこと言うんですか!」
ん~、真っ白い木で花が咲いたら霧が出る。
幻惑効果がある植物…………ん?
「あのさ、もしかしてその街、急に暑くなったりしなかった?」
「それならあたしが知ってるわ。確かに数か月前、葉をつける前に珍しく暑くなったって話を聞いたわよ」
「めんどくさ……」
「な、何か知っているのか?」
知っている。
そしてそれは、エルフ皆が知っている植物だ。
「『夢のなる木』。特定の気候条件を満たすと突然葉や花が生い茂る有毒の植物だよ」
エルフ、そして獣人ならだれでも知っている植物だ。
エルフと獣人が友好的になったきっかけの植物である。
間抜けにも、コイツらは私の話をまともに聞いている。
本当に間抜けだ。
私がやっていることにも気づけない愚か者。
「そ、それで、どうすれば街を助ける事が出来るのですか?」
「それはね……自分で考えな、バカめ。アー君飛んで!!」
「…!!」
私の合図でアー君が勢いよく飛び上がる。
とんでもなく巨大な鳥になって。
私がやっていたのは、家の敷地と森の大地の分断、そしてそれをアー君に繋げること。
ドラゴンの様に巨大化したアー君は、家を分断した敷地ごと体にぶら下げて飛び上がった。
「みあげだよ、そーれ」
下で呆然としている勇者組に向かってある植物の種を投げつける。
私は会話の最中、家の敷地の下に植物の弦を網目に這わせ、その弦をアー君の身体に固定した。
あとは私の合図でアー君が飛べば脱出成功と言うわけだ。
これは前から何かあったときのために考えていた事だ。
この家にはエルフ的に大事なものや貴重なものが沢山ある。
そう簡単に置いていける物ではないため、このような形に落ち着いた。
ドカァアアン!!!!
「始まったね」
下を覗けば、巨大な『植物の魔物』が暴れている。
先ほど投げた種から産まれたものだ。
あの種は、吸収した魔力の量で成長した時の大きさが決まる魔物。
そして、種を投げた場所は私が森の守護者を使った場所。
私が集めた膨大な魔力が溜まっている場所だ。
その魔力を使って成長した魔物は、必然的に強大な力を持つ。
中々えげつない植物だと思う。
この辺りではまず手に入らない。
「ま、いっぱい持ってるんだけどね」
私がこの家を手放さない理由はこれだ。
私の家では、こういうヤバい物や貴重な物が複数栽培されている。
おいそれと家を空け渡すわけにはいかないのだ。
取られたら不味いというよりも、新しく手に入れるのが大変だから、という理由ではあるけれど。
「実際に栽培できるのはエルフだけだと思うけどね。植物魔法があってやっとだし」
家の前に座り込んで手足を伸ばす。
「さて……次は何処に行こうか」
アイツらはまた来るかもしれない。
神託とか言うクソみたいなサポートがある限り、私の位置は丸わかりだろう。
「安全地帯を作るべき……かな?アー君はどうしたい?」
「…………」
「どこでもいいって感じかな?まぁ、アー君がいいならいいけど」
だが、安全地帯を作るのはいいかもしれない。
あんな奴らの為に逃亡生活をするなんて馬鹿げている。
あの自称勇者共が来れないような家を作ろう。
誰も来れない程危険で、私の事を守ってくれるような場所。
いつか訪れる『約束の時』を待ち続けるための場所。
「うん、作ろう。新しい家を。そして、里の皆に届くように、世界に宣言する様に。『私はここに居る』と。砦を、城を作ろう。それがいい」
「…………」
疲れているから頭が上手く回っていないような気もするけれど、実際なかなかいい考えだと思う。
「アー君、前に住んでいた場所と似たような所を探してくれる?」
「…………」
「それじゃあお願いね」
というわけで、私は家に入って片付けでもしていよう。
多分だいぶ散らかっていると思うからね。