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プロローグ



 ジリリリリ!!!!


 ジリリリ!!!


 ジリリ!…


 けたたましく鳴る目覚ましの音で目を覚ます。

 最近は夢を見ることも少なくなった。

 理由が日々の勉強と、最近始めだしたバイトによる疲労であることは明白だ。


 睡眠時間も減った。食欲も朝にはない。寝ても体から疲れが抜けない。


 「ふわあ~、トイレ…」


 そんな悪循環をどう解決しようか考えながらふらふらの状態で階段を降りようとすると、いきなり視界がぐにゃりと歪んだ。

 そして、一面に広がる草原が重なって見える。


 幻覚?


 そんな思いも抱きつつ、階段を降りようとすると、




 落ちた。




 階段から落ちたわけではない、空中からだ。


 「…へ?」


 そのまま、地面に叩きつけられる。

 生えている草が多少はクッションになったが、鈍い衝撃が骨にまで伝わる。


 朝だったはず、起きたばかりのはず。

 それなのに周りが見えない。それは、目をつぶっているという間抜けな理由ではない。


 夜の暗さに恐怖を覚える。

 街灯の無い闇に星は綺麗に光り輝くが、僕は頼りなく感じた。


 パジャマに裸足


 こんな姿で外に放り出されて、狼狽えるしかなかった。



 闇に目が少しずつ慣れ、とにかく歩いた。

 呆然としながら、ただ歩いた。





 しばらくしてポケットの重みに気付く。


 「…携帯電話」


 落下の衝撃で大きくへこんではいるが、電源がついた。


 圏外、だがライトは点けられるだろう。点灯すると「何か」が叫ぶ声が聞いた。


 「オイ、アソコデ光っタゾ!」


 遠くの木々の隙間から松明を持った「何か」がゾロゾロと現れだす。


 「うわっ!!」


 遠目からその姿を見て思わず叫んだ。

 残っていた僅かな冷静さを振り絞って、携帯の電源を閉じて身を伏せる。


 「ナにもナイ」

 「ソンなはずはナイ」

 「ミマチガエデハない?」

 「オレノ目がワルイ?…」

 「イや、オマエはオレタチのナカ一番メがイイ」

 「俺ガいク」

 「アノ光ナンカイかミタことある」



 巨大な剣を持った豚顔の大男。簡易な服装と片言の言語は少しばかりの知性を感じさせる。

 松明が照らし出す醜悪なその姿は、凶暴さ、獰猛さを僕に見せつける。

 それはRPGをプレイしたことがある人間なら大方が予想できるモンスター。


 オークだ。


 「キヲつけろよ」



 ザッザッ



 ザッザッ



 「ソッチジャない、モット右だ」


 丹念に槍で地面を突き刺しながら、オークは他の仲間の指示通りに僕に一歩ずつ近づいてくる。


 「ムん?人間のニオイ?いやソレにシテは…」


 オークに気づかれたかと思ったその瞬間。ドサッという音の後に大きな声が聞こえてきた


 「うおー!!これ異世界転生だろ!!チートは!!チート!!」


 あと数歩踏み出せば、僕の体がくし刺しになるであろう位置にオークが来た瞬間。

 遠くで誰かが叫ぶ声が聞こえ、近づいたオークが僕を通り過ぎて向こうを振り向く。

 僕は声も出せずにただジッとその場で伏せたままだ。


 すると、オークはため息を吐きながら


 「マタ、イセかいテンセイか…」


 「ショクリョウガ増えるのはヨイことだが、ブキミだな」


 「マッタクダ」


 下品に笑いながら、声の主のほうへゾロゾロとオークが集まっていく。

 舌なめずりをするもの、空腹の具合を腹を押さえて確認するものなど様々だったが、その目は一様に「食料」を見つめ、それに向かっていく。


 「へへ、剣は?それとも槍?魔法?高速で動けるとか?」


 突然現れた声の主は背後から迫りくるオークに気が付かないようだった。

 無邪気にこの世界に降り立った喜びを全身を使って表現している。


 「異世界に来たのはいいけどさ、ちょっと神様―?俺のチートは?」


 ハーレムは?エルフの女の子は?などと喚きながら、やがて、


 「う、うむぐっ」


 「ニンゲンいっぴきカクホー」


 オークの一人に頭をむんずと掴まれた。

 ジタバタもがき苦しむ姿は哀れだが、滑稽だ。

 しかし、さっきまで自分もああなる可能性があったのだ。


 「ヨシ、もってカエルか…いや、ソの前に…」


 喋った一匹がこちらに向き直り歩いてくる。

 この状況は不味い。


 後ろはオークたちがやって来た森だ。

 こんな奴らがぞろぞろいると思うと、森へ入るのは自殺行為だろう。

 後ろは駄目だ。


 対して、逆方向の今オークの集団がいる方向へ向かうという考えはどうだろうか。


 僕の足の速さでアイツらを撒けるとは思えないが、視界が悪く、勝手の分からない森よりは生き残れる可能性があると思われる。

 それに、だいぶ遠くだが、舗装された道がうっすらと見えるのだ。

 一か八かやるしかない。


 そして、少しでも生き残る可能性は上げなければならない。


 そう思い、足元にあったできるだけ大きな石を遠くへ放り投げる。




 ゴトッと鈍い音が周りに響き渡る。


 「マタ、イセかいテンセイか?どれどれ…」

 「ハハハ、ニゲレルトオモッテルノか?」


 僕は食料に期待するオークたちの嬉しさを隠せていない声を確かに聴く。

 さっきまで迫ってきていたオークが、石を投げて音を鳴らした方向を向いた瞬間に違う方向へ地を蹴って走り出す。


 もう目は街道の方しか向いていない。

 少しでもわき見すれば捕まえられそうで、怖かった。




 ただ走る。





 ただ走る。





 「なンてな」


 背中に強烈な衝撃を受けたのを感じた。


 そのまま吹き飛ばされ、痛みで転げまわる。


 「二回モヨソミスルわけないだろ。まあ、馬鹿なヤツにはヒッカケルコトがデキタカモシレナイガ俺ハダマせないぞ」


 痛みで目が眩むが、僕はまだ逃げることは諦めていない。


 「ニンゲン二匹メ」


 握りしめていた拳の中に入っていた砂。


 「カクほ…ぷあっ!!テメエ!!」


 僕は、それを顔ができるだけ近づいた瞬間に思いっきりぶん投げた。

 オークはうずくまり、目を押さえている。



 背中は相変わらず痛みでズキズキする。

 それよりも足を止めれば死ぬという恐怖のほうが上回った。



 「オイ!!ニンゲンがいたゾ!!」



 全力で走る。声の方向には振り返らない。



 「ニンゲン、ニヒキ目!?ソッチ?!」



 足音が



 「肉!肉!」



 徐々に増えていく。



 「マテ!!クソ!!ばらばらに散開スベキダッタ!!」



 背中が熱い。体は寒い。


 走っていれば身体は熱くなっていくはずなのにだんだん冷えていく。



 「アイツ足遅イ!!ニガサナイ!」



 足からどんどん力が抜けていく。


 脂汗が全身を濡らし、寒気は明確な悪寒へと変わった。



 「ナンだコイツ?タオレヤガッタ」


 「フハは、セナかにキズをウケたのがフウンダッタナ」


 「イマのうちにダマラセテおこう」



 頭から掴まれる。


 抵抗する力は、腕を振るってオークの顔を一回殴りつけて全て消費した。


 頑張ったがどうにもならないこと。それは運だと悟る。

 どうやら、僕にはそれが無かったらしい。死の恐怖より悔しさで頭がいっぱいだ。


 「ニンゲンのクセにこんじょうアルじゃないか。ナカナカちえが回るからイマのうちにコロシテおこう」

 「いぎナーシ」「サンせーい」「がハハハ」



 剣を取り出すオーク。よく研ぎ澄まされており、刀身は僕の真っ青な顔を映しだす。


 (こんなに太い腕なら首を切るのに失敗しないんだろうな)


 僕はそんな後ろ向きなことを考えたが、最後に視界に捉えたのはオークの背後に迫って攻撃を加えようとする人達だった。






 「まだ、生きてる」

 「ひっでえ怪我だな、助かりそうか?」

 「最善は尽くすよ。それより、そっちの少年は?」

 「心配いらねえ。こっちは強くつかまれすぎたせいで頭蓋骨にヒビ入ってるだけだ」

 「生き残りがいるなんて珍しいことじゃ!」

 「まあ、大体オークの餌だからな。誰ぶりだ?」

 「ギーツにいるショウタ以来じゃない?」

 「アサヒナ!担架持ってこい!!」

 「おい、しっかりしろ…ったく、最近は進んでオークに突っ込むキチガイが多いな。あちらの人間はどんな教育をしているんだ」

 「むこうからこちらへは一方通行でしょ…はい、持ってきたよ」

 「じゃが、普通見た目で危ないって気づくのでは」

 「これで助けだした来客の数は?いくつだ?」

 「二年ぶり、1376人目と1377人目じゃ」

 「1000年以上続いてこれか」

 「いいじゃない!助けられる命があるだけ!」

 「俺たちの先祖もこんな風だったのかな」








 声が聞こえる。

 耳がおかしいわけではないのなら、オークではない人間の女の人の声が二人分。


 しかも聞きなれた日本語だ。


 「朝食、起きたら食べさせてね。体動かすのは無理だろうから」


 バタンとドアが閉まる音がした。


 「はいはーい」




 目を開けてみる。眩しい。

 日差しが目をチクチクと攻撃し、思わず目を細める。


 「あら、早いのね。やっぱり見た目ほど傷はひどくないのね。良かったわ」


 目の前には、黒髪黒目、まさしく顔だちも日本人といった、まだあどけない少女が座っている。


 「君、誰?ここ…」


 すると、少女はスープをすくって慣れた手つきで僕の口へ運び質問を遮る。

 少女はにこやかにスプーンを僕の口から離すと、続けてもう一杯流し込んできた。

 いや、スープは美味しいのだが喋らせてほしい。


 「さて、マニュアル通りに説明するわ。あなたは黙ってスープを飲んでいてね。けが人はおとなしくしておくべきよ」


 そう言われて、スプーンを咥えこんだまま、うんうんと頷く。

 少女の手もそれにつられて動く。


 「本当に元気ね。なら、少しぐらい融通利かせてあげますか…じゃあ、あなたが気を失っていた間の話か、それともこの世界の話か、どちらからして欲しい?」


 「この世界」


 君は目の前の疑問は気になって仕方ない人間だねとよく言われたのを思い出した。

 そんなこともあったと、少し懐かしみながら差し出されたスープを啜る。


 「わかったわ。質問も少しぐらいなら聞いてあげる」


 返事代わりに首を縦に振る。

 あのオークは何だったのか、ここはどこなのか、様々な疑問が解消されるとなると嬉しさもあるが、どことなく不安もある。

 

 僕はそんな悶々とした感情を抱きつつ、目の前の少女の話に耳を傾けようと前かがみになる。


 「っつ!!!」

 

 背中に強烈な痛みが走る。

 昨日受けたオークからの傷であることは容易に想像がついた。


 「動かないでよ。傷は塞がったばかりなんだから!」


 「すみません…」


 「わかればいいのよ。わかれば」


 おとなしくスープだけ飲んでいよう。

 そう決めて、僕はまた差し出されたスープを啜った。


 「じゃあ、言うわよ。あなたはこの世界に飛ばされたの。あなたのいた日本どころか、地球ですらないこの場所に。環境はあなたのいた場所に似ているかもしれないけどね」

 

 頷きながら、スープを飲む。


 「いい?わかった?物分かりがいいのね」


 少女は少し意外そうな顔をして、スープをすくう。


 「あれを見たあとだよ。なんでも信じるよ」


 差し出されたスープを啜りつつ、僕は少女の話を聞いた。



異世界系をね、やってみたいと思ったんすよ。

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