prologue
処女作です。
「これから一年間よろしくお願いします」
教卓の前でぺこりとお辞儀をして、生徒がまた一人教卓へ戻っていく。
何度も、それこそ飽きるくらい聞いた言葉が飛び交い、正直うんざりとはしているけれど_____それを長年の経験で培ってきた偽りの笑顔のまま、ボク、月ヶ瀬現乃は眺めていた。
「次、陽谷さんお願いします」
その瞬間、ボクは耳を疑った。いや、『今回の生で』一度もしたことのなかった表情を浮かべていたのかもしれない。
陽谷...なんて名前、一度も聞いたことがない。それでも確かに、ボクは自己紹介の順番も、それぞれが言う台詞も、一つも漏らさず暗記している筈なのだから。
忘れてしまった?いや、それこそ有り得ない。だって、だって_____
先ほどの生徒と交代で席を立ち、教卓に向かう姿にも見覚えはまったくない。こんな事、本来ならありえない筈なのに。
「陽谷柚魔です。よろしくお願いします。」
これだけか、と思うような自己紹介、近寄るなと言っているような冷めた視線。そして…恐れを必死に隠している様な、その瞳。
間違いなく、彼女は〝今まで繰り返してきた世界〟にはいなかった。
過去が変わる、なんてそんなのありえない。頭の中ではそう理解している。
けど、それでもボクは陽谷柚魔と名乗った少女が現れたことが嬉しかった。
これから始まる退屈な未来が変わるんじゃないかって_____そう思えたから。