episode5: 「ゼロ」と「イチ」の狭間
chapter2:繋がる世界
・・・どれくらい眠っていたのだろうか。
意識がぼんやりとし、曇った鏡のように記憶が曖昧だ。
ふと、手に持った剣を見る。先のほうに付着した血をみて、あぁまた人を殺めたのかと思う。
辺りには腐敗臭が漂っていて、不気味な空気を醸し出している。
剣に付着した血は、みるみる黒へと変わっていった。
・・・酸化した血はきれいだ。剣に付着し不気味な輝きを放っている血を見ているだけで、魂が揺さぶられるような気分になる。
ふと考える、いつから俺はこんな人間になってしまったのか・・・。
答えは簡単だ。なんでこんなことを考えてしまうのかわからないくらい答えは明白なのだ。
そう、答えは最初から・・・。生まれてから今に至るまで、俺はこんな人間なのだ。
人を殺すという快楽にのみ身をゆだね、血を血で洗い流すことしかできない、死神なのだ。
いや、死神などという高貴なものではない。ただの薄汚い・・・そう殺人鬼のような人間なのだ。
立ち上がり、砂を払う。
砂埃が舞い、咳き込む。
今日もまた、戦場で人を殺し、自分という存在を捜し求める。そう私は機械のような人間。
ゼロかイチか、それだけでしか思考を許されない、悲しい人間・・・悲しい?
何が悲しいのだろうか?
俺は最初からそう作られていた。だったらなぜ悲しむ必要があるのだろうか?
―――プツッ
頭の中で音がした。何かが切れたような音。ここちよくもあり、不快な気分にもなる。
首を横に曲げると、コキコキと気味のいい音が鳴った。
剣を握り、上段に構える。
「来たか・・・。」
呟いた口はなぜかにやけていた。
ブルンッ。
空気を切り裂く音が聞こえた。
シュパッ。
それと同時に何かが切れる音も聞こえた。
剣はさっき拭いたばかりなのに、血が付着していた。
「私に歯向かうとは愚かな人間だ。」
ニヤリと、引きつらせた口は、いつの間にか大きく開かれ、喉の奥からは、息が激しく吹き出されていた。その音は、大きな笑い声になり、空気を震わせていた。
あぁ死神さ、私は死神だ・・・。
醜い、剣を振るうだけの魂の媒介になるだけの、ちっぽけな器。
私に許された快楽は目の前にいる物を破壊することだけだ。
目の前にいる物・・・か、不思議な言葉だな・・・。
剣をずるずると引きずりながら歩く。
今まで歩いてきた道には、剣で引かれた一筋の線が残っている。
ゼロかイチか、まだ答えは出ないまま、今日も私は今を生きている。
“ツギハ、「イチ」ト「ニ」ノハザマダ”
頭の中で重低な声がした。頭が締め付けられるように痛い。
そして、その場に倒れてしまった。
to be continued




