episode2: 月間荘
chapter1: 始まりの始まり
「お〜い雄大、すまないが地下倉庫に行って資料を取ってきてくれないか?」
「資料ってなんのですか?」
「あぁ・・・とにかく、地下倉庫のE−6にある資料全部持ってきてくれ。」
「わかりました。」
俺がこの旅館に来てから、約一ヶ月が経った。
ここの生活にもやっと慣れてきたところだ。おじさんは、まだ旅に出たきり戻ってきていない。
地下倉庫というのは、この旅館にある資料庫の総称で、様々な文献や、過去の宿泊客、そしてよくわからない資料などが散乱している。
E−6の資料区画について、言われた資料を持っていこうと思ったら、CD−ROMが2〜30枚あるだけでそれ以外は何も無かった。
「裕樹さん、言われたとおり全部持って来ましたけど・・・これなんですか?」
浅倉裕樹、年齢23歳、浅倉夫妻の夫。妻である小恋さんとは、高校時代に知り合ったらしい。この旅館では、おじさんが居ない間の支配人代理をやっている。けっこう人情に篤い人で、ここに来てからどれだけ助けてもらったことか・・・。
「うん、いやちょっとな・・・。」
と言い、裕樹さんはビデオルームに行ってしまった。
玄関に行くと、小恋さんが居た。
浅倉小恋、年齢23歳、浅倉夫妻の妻。裕樹さんとはとても仲が良く、喧嘩してもすぐに仲直りする。月間荘3大美女の一人で、正直、裕樹さんが羨ましい・・・。
「あ、雄大くんおでかけ?」
「はい。ちょっと三都まで。」
「はい、今日も雨が降りそうだから、傘持っていったほうがいいよ。」
差し出された傘を受けとる。
気配りができてすごい美人で、やっぱり裕樹さんが羨ましい・・・。
玄関の階段を降りると、看板が掲げられている。古ぼけた看板には、今にも取れそうな電灯で月間荘と書かれている。
階段を降りて少し歩くと、バス停があり、バスに乗ると、駅に行くことができる。
バスに揺られること、15分、駅に着いた。
駅に着くと、空模様は旅館のそれとはうって変わって灰色の雲で覆われていた。
その模様は、これから起こる何かを予感させた・・・。
「今日も雨か・・・。」
呟いて、券売機に100円玉を3枚、50円玉を1枚、10円玉を3枚入れて、三都行きの切符を買う。
今日も雨かとは、ここ数日、不可解な雨が続いていることで、原因不明の雨雲が街を覆い、雲が移動することも無く、不定期に雨が降ってくる。
三都に着くと、“中央街”と呼ばれる通りの、中央館に入った。
中央街には、専門店が立ち並んでいる。
その中でも、中央館はアニメ関係や、まんが関係の本がたくさん並んでいる。
目的の商品を買い、三都の駅に戻ろうと、中央街の外を歩いていると、雨が降り始めた。
傘を広げ、頭の上にさす。
月間荘と大きな字で書かれているその傘は、街の中ではいささか目立ってしまった。
赤石市に着くと、雨はすさまじいものになっていて、交通機関が麻痺していた。
バスに乗って帰ることができないので、俺は、車で迎えに来てもらうことにした。
電話を切った瞬間、シュパッと空間が割れ、車が現われた。
「おらっ迎えに来たぞ。」
瞬間移動車、旅館の人は、そう呼んでいる。
おじさんの親友である、貴博さんが作ったもので、貴博さんの魔力を込めることによって、空間を無視して走ることができるらしい・・・。こんなものが街中に氾濫しないことを願う。
旅館に着くと、不思議と雨は止んでいた。
「あれ、雄大君どこ行ってたの?」
「ちょっと三都まで・・・。」
「それよりも千尋知らない?さっきからさがしてるんだけど・・・。」
「見てないなぁ・・・。」
「そう・・・。ありがとう。向こう探してみるね。」
そういうと手を振り、2号館のほうへと走っていく。
夜島明恋。年齢は俺と同じ17歳、可愛らしい女の子で、天然なところもあり、実は、ちょっと気になる存在だ。今はここに住み込みで働きながら、高校に通っている。
千尋というのは、百鬼千尋。明恋ちゃんの親友で、明恋ちゃんと同じ高校に通っているらしい。小さい頃からの幼馴染で、この旅館にも明恋ちゃんに着いてきたらしい。
「あ、雄大。乙姫さんが探してたぞ。」
「えっ、まじですか?」
「あぁ、早く喫茶店に行って来い。」
乙姫さん、おじさんの妻で、おじさんが旅に出ている間は、この旅館と喫茶店の経営を任されている。おじさんとは、高校時代に知り合ったらしい。なにか隠された秘密がありそうな感じだが、誰も触れないので、俺も触れないことにしている。
喫茶店は、旅館の玄関をでて、右手にある階段を降りたところにある。
木々が生い茂っていて、春になると、この階段を桜が埋め尽くすらしい。
「乙姫さん、用事ってなんですか?」
中に入ると、乙姫さんと、涼奈さんが楽しそうに話していた。
神井涼奈。おじさんの親友の貴博さんの妻で、月間荘三大美女の一人。貴博さんとは、幼少時代からの付き合いで、なにか不思議な感じの方だ。普通の人(この旅館の人はほとんど普通ではないのだが)には無い雰囲気を持っている。
「あ、雄大君。いいところに来てくれた。」
と、なにか楽しそうな顔で、乙姫さんは俺を手招きする。
近寄ると、なぜ乙姫さんがこんなにも楽しそうな顔をしているのかがわかった。
乙姫さんが座っているテーブルの上に、手紙が一通封を切られておいてあるのが目に入った。
おそらく、おじさんからの手紙が届いたのだろう。
「その手紙は・・・?」
一応、建前上聞いてみる。
「実はね、耕輔から手紙が届いたんだー。」
と、満面の笑みを浮かべる乙姫さん。
その純真無垢な笑顔を我が物にしているおじさんが羨ましくもあり、妬ましくもあった。
「へぇ〜見せてもらっていいですか?」
「そのために呼んだんだよ。」
“乙姫、雄大、その他大勢へ”
“おそらく、そろそろ雄大がやってきたころではないかと思う。正直、雄大にこのことを伝えるべきか伝えないべきか迷ったが、伝えることにした。俺たちは、実は月間荘という旅館業のほかに、公にさらせないある仕事をしている。それは、何でも屋というもので、今この旅に出ているのも、そのためだ。今はそこまでしか言えないが、いずれは、お前にもわかるだろう。”
最初、読み進めていって、何を書いているのか解らなかった。
それは、俺の理解力が足りないとかではなくて、わけがわからなかっただけだ。
しかし、一週間後、俺は、その言葉の意味を身をもって体験することとなる・・・。
to be continued




