episode12:社長室前
chapter3:失われた秘法
「あれは・・・」
と言いかけたところで、貴博さんは話すのをやめた。
“チン”
エレベーターの動きが止まった。
ドアが開くと目の前には、数百もの戦闘員が乱立していた。
戦闘員は、統一された服装で、同じ銃を、同じように肩から提げて構えていた。
「さてと、簡単には進めないか・・・。」
裕樹さんは呟いて、一呼吸置いてから、詠唱をする。
貴博さんは、目の前の戦闘員になど見向きもせず前へと歩き出していた。
「退け!」
大きな声で叫ぶ。
それとほぼ同時に戦闘員は貴博さんの前に道を作る。
「そうやって嫌なことは全部部下に任せて自分は部屋に籠もっているつもりか?」
貴博さんは、誰かに語りかけるように言った、そして前へ前へと行った。
勿論、返事はない。
戦闘員や俺たち一行の中で、動こうとするものは一人も居なかった。
「そりゃ楽だよな。自分は何もしなくていいんだからよ。でもな、今から俺はお前の許に行って、お前の面をぶん殴ってやる。そうしなきゃ、お前は変わらないみたいなんでな。」
貴博さんは、更に言葉を続けて、歩き続けた。
「止めろ・・・止めろー!!」
戦闘員の一人が叫んだ。それとほぼ同時に戦闘員は一斉に貴博さんに向かって銃を構えた。
一人が撃つのと同時に、他の戦闘員もそれに倣って銃を撃つ。
銃撃音が辺りに響く。
しかし、貴博さんはまったく見向きもしない。それどころか、血すらも出ていない。どれだけ撃っても、当たる気配もない。
「なぜだ、なぜ当たらん。」
「無駄だ、お前らごとき雑魚に俺を倒せるものか。命が惜しいならばさっさと退け。」
貴博さんは、こちらを見ずに叫んだ。歩みは止めない。
そして、目の前にある、ドアに手をかけた。
「そこまでだ。」
と、俺と貴博さんとの間に、いきなり人が五人現われた。
先頭に居るのは、フードを目深に被った背の高い男。その両脇に居るのが、同じ服を着て、同じ顔をした女だった。左脇に居るのは、背の低い、小柄な男だ。右脇には、メガネをかけた、秀才顔の男が立っていた。
「私たち、終焉の騎士−ナイツ・オブ・カオス−が君たちを華麗にたおしてあげよう。」
先頭の男が言った。
貴博さんは構わずに社長室のドアを握り、捻った。
「・・・やはりな。」
呟いて貴博さんはこちらを振り向く。
俺は、貴博さんを避けて中を覗いてみた。中には、誰もいなかった。
「ラグナはどこに行った?」
静かに、本当に静かな気配で貴博さんは尋ねる。
「知らん。それより、ここまでやっておいてただで帰れると思うなよ。」
なんちゃら・オブ・カボス?のリーダーらしき男が言った。
貴博さんは何も言わずに、その男をにらみつけた。
直接睨まれたわけでもないのに、俺は、足が震えているのを感じた。
どれほど時間が経ったのか。何時間のようにも、数瞬のようにも感じられるように時が過ぎた。
貴博さんはまったく微動だにしない。
「や・・・やっちまえ!!」
リーダーが叫んだ。それと同時に、男が二人、貴博さんに襲いかかる。
まず、メガネの男が上に飛んだ。小柄な男はかがんで、小さい背を更に小さくした。
「水におぼれて死んじまいな。」
まず上に跳んだ男が叫ぶ。
「氷付け・・・死ぬ。」
次にかがんだ男が小さく言う。
そして、二人が言い終わったすぐ後、上からは水が落ちてくる。そして下の男の能力がその水をすぐに氷に変えてしまう。
「・・・・・・・・」
貴博さんは、何も言わずに手を空に掲げた。
その瞬間、水はおろか、氷すらも消え去ってしまった。
何が起こったのか、俺にはわからなかった。
そして貴博さんがさらに手を空に掲げるのを、俺は見逃さなかった。
「雷に焼かれろ。そして死ね。」
低く小さな声で呟くと、貴博さんの上空から雷が落ちてきた。
to be continued




