運命の出会い
続けられるよう頑張ります。
ちょっとでも面白いと思ってくれたらいいな……
この小説を選んでくれたあなたに、最大級の愛を。ありがとうございます!
恋がしたかった。
物語のような素敵な恋がしたかった。
苦しいのは嫌い。痛いのもいや。
でも、恋がしたかった。
誰かに恋して、その人に恋されて。
そうしたらどれだけ幸せだろうか。
きっと人生が満ち足りたものになる。
そのためなら、多少の嫌なことでも我慢するから。
ただ、優しい恋がしたかった。
*****
「あらあら、またそれなの?本当にアリシアは好きねぇ」
「はい、おかあさま!わたくしもいつか、このようにしあわせになりたいのです!」
「そう……あなたなら、きっとなれるわ」
そのときの、母の困ったような微笑みがいまでも瞼に焼き付いている。
「おはようございます、お嬢様」
ふいに聞こえた声で意識がはっきりする。この瞬間がアリシアはあまり好きではなかった。
「……おはよう、ミイシャ」
そこにいたのは一人の女性。ミイシャという名のアリシアの優秀な侍女だ。綺麗な金髪に透き通った碧がとても美しい。その上なんでも出来る。アリシアの目標であり、姉のような存在であり、優しくも厳しい人だった。
「相変わらず早起きですね」
「そうでもないわよ。今起きたばかりだもの」
苦笑しているミイシャに笑顔を返す。アリシアはミイシャが起こしにきてくれるからこそ、起きることができるのだ、と自負している。
「お嬢様、今日から新学期ですね」
「そうね。ミイシャ、今日からまたよろしくね」
「はい」
アリシアは聖レムリナ学園に通っている。
アリシアの住むこの国、レクシリア王国は、貴族の子女、もちろん王族も含む、が12歳になる年から18歳まで、この学園に通うのだ。中等科4年、高等科3年。それは義務というわけではないが、通わない、というのは、その家にお金がなく学園に通わせることすら出来ない、と周囲に言っているのと同義であり、また、学園とは小さな社交の場。有力な貴族の子女は軒並み通い、年によっては王族までいる。一応学園内では身分平等を謳っているが、そこにはやはりれっきとした身分差がある。つまり、本来近づくのが難しい相手でも、一応平等を謳っているこの学園でならば、運がよければお近づきになる機会があるのだ。だから、多少無理してでも親は子を学園に通わせる。よって、貴族の子女は必ずと言っていいほど聖レムリナ学園に集まるのだ。そして、そこで勉学やマナーを学ぶ。と言っても、大半の貴族は幼いころより家庭教師によってさまざまなことを教えられているので、復習の意味合いが強いのだが。
アリシアは、学園で一番だった。勉学も、マナーも、ダンスも。剣は令嬢なのでやっていないが、それ以外のものは大抵一番だった。何故なら、そうならなければいけなかったから。たとえ相手が誰であれ、手を抜くわけにはいかないのである。完璧な淑女であれ。それが、アリシアの義務なのだから。アリシアはそうやって生きてきた。完璧を求められてきた。他に道はなかったから。アリシアの意思など関係なかったのだ。
長期休暇は終わった。だから、アリシアはまた戻らなければならない。学園の完璧な淑女に。初代王妃、レムリナ様の再来に。
「ミイシャ、行ってくるわ」
「はい、行ってらっしゃいませ、お嬢様」
アリシアは一つ深呼吸をして、学園内にある宿舎の自分の部屋から一歩踏み出した。
外はまだ風が強く、そして暖かな日差しがさしている。紛れもなく春だった。アリシアはそれを楽しむでもなく、足早と移動を始める。日に焼けて外見の美しさを損ねてはいけない。アリシアの紺碧の髪は雪の肌にこそ映えるのだと、今まで散々言われてきたのだから。
多くの生徒たちが歩いている。友人通しでお話をしながら優雅に歩いている。これぞまさに貴族の子女という光景だった。
ふと、足を止めた。アリシアの視界にある人物が入ったからだ。
あんなところで何をしているのかしら……殿下。
そこには丁度今友人であり、未来の側近である方々を先に行かせたレクシリア王国第二王子で、この国の王太子殿下がいた。
レクシリア王国第二王子、ジェオルシス=ルクエ=レクシャリアス。王妃を母に持つ正当なる王位継承者だった。
現王には今は妃は一人しかいない。ジェオルシス殿の母君、王妃殿下である。だが、それはあくまで今は、の話である。そもそも、ジェオルシス殿下は第二王子だ。殿下には一つ上の兄がいる。
現王には、なかなか子供が出来なかった。だからこそ、王妃殿下のお願いを受け、しぶしぶ、それはもうしぶしぶと側妃を迎えたのだ。その側妃こそが王妃殿下の一番信頼を置いている、子爵家の出身の侍女だった。側妃はすぐに子供を身籠った。それからしばらくして、側妃が臨月に入った直後。王妃殿下が身籠ったことが発覚したのだ。その事実を知ったとき、側妃がどう思ったのかはわからない。ただ、難産だったらしい。その結果、側妃は王妃に看取られて死に、赤子である第一王子だけが残された。王妃はお腹の子だけでなく、侍女の忘れ形見も大切に育てた。愛した。そして第二王子が産まれ、殿下には兄が、第一王子には弟が出来たのである。ただし、王妃殿下の家の侯爵家の関係もあり、第二王子が王太子となった、とそういうわけなのだ。そんなどこにでもあるような話だが、王太子には重い責任がのし掛かる。どちらがよかった、などは一概に言えないし、本人次第だ。
と、それはおいといて、話を戻そう。
ジェオルシス殿下は人気の少ないほうへ歩いていく。アリシアが見守っていると、ふいに一本の木の前で立ち止まった。その木を見上げ、殿下はうろたえた。よく目をこらすと、何かがいるような……
「きゃああああ!」
次の瞬間、甲高い悲鳴が聞こえた。それほど大きなものではなかったが、殿下の行方を見守っていたアリシアには十分聞こえる大きさだった。
「危ないっ!」
殿下の声がしたと思ったら、殿下が消えた。その一部始終を見ていなければそう思っていただろう。そこにいたのは女子生徒一人だけ。殿下は女子生徒の下敷きになっていたのである。本来なら心配して駆け寄らねばならないのだろうが、アリシアは近付くことが出来なかった。何かしらの予感がしたのだ。
「ごっ、ごめんなさい!あのあのっ、お怪我はありませんかっ?」
「いや、俺は大丈夫だ」
「よかった……猫ちゃんも無事!?……みたい、あっ」
女子生徒が抱えていたのはなんと猫だった。どうやら猫を助けるために木に登っていたようである。それでも、仮にも淑女が木登りとははしたない。アリシアは密かに引いていた。ちなみに猫はさっさと女子生徒から逃げていった。恩知らずというか、猫らしいというか、である。
「おまえは怪我はないのか?それに木登りなんて……」
「怪我はないです!ってああ!もうこんな時間!ごめんなさい、今度お詫びしますから、お金はかけられないですけど、急いでるのでこれで!」
「あっ、おい!」
女子生徒は走り去っていった。まったくもってなっていない女子生徒である。淑女として恥ずかしいくらいだ。あれでも貴族の令嬢なのだろうか。アリシアは関わらないようにしようと決めた。自分の品位を落とすわけにはいかないのである。
殿下は女子生徒を呆然と見送ったあと、しゃがんで何かを拾った。それはハンカチらしきもの。しかも女物だ。どう考えても女子生徒のものである。それをどうするのか、多少気になりはしたが、面倒にもなったし、もうあらかた見終えたのでアリシアは教室に向かうことにした。内心、時間を無駄にしたかしら、と思いながら。
授業が始まる前に、担任教師が言った。このクラスに特待編入生が来ると。それは予感だった。面倒ごとの予感。アリシアの大嫌いな予感だった。
この高位貴族の集まるクラスに特待編入なんて、余程の成績優秀者である。聖レムリナ学園は、成績の優秀な平民も、特待生として通うことが出来る。ただ、普通は高等科一年からだ。今日から、アリシアたちは二年になった。それはある意味異例の編入生というわけである。
入ってきたのは女子生徒。今朝散々淑女失格の烙印を押した、あの女子生徒がいた。
「はじめまして、特待編入生の、マリエル=スーオンです。よろしくお願いします」
クラスの雰囲気がざわついた。
無理もない。編入生は平民だ。そして一般的に見れば美少女だろう。小動物を彷彿とさせる。桃色の髪に焦げ茶色の瞳。いかにも活発そうである。
だがしかし平民である。大抵の貴族子女には受け入れがたいだろう。まあ、人によりけりだが。編入生がクラスメイトを見たとき、まるでパチリ、というような音が聞こえた気がした。
「「あっ」」
小さな声が二つ。編入生の視線の先には、まごうことなく、殿下がいた。
それは、高等科二年の春。まだ風が強い日のこと。
アリシアは、運命の出会いを見てしまった。
よくある名前かもしれませんが、初連載です。
亀以下更新ですが、気長に見てください、お願いします。
あなたの心に少しでも何かを残せることを願って。
……まあ、まだ一話ですけどね。