1945年8月16日
日本のポツダム宣言受諾後も、ソ連軍との戦闘は止まず
ソ連軍と師走陣地守備隊は、お互いに大量の血を流し、激しい戦闘を繰り返していた。
地の利を活かし、塹壕戦で必死の抵抗を続けていた師走陣地守備隊であるが
時間がたつにつれ、続々と来る援軍で火力が増したソ連軍は、後方からゲリラ戦を仕掛けてくる八方山陣地の直利らを十分過ぎる戦力で警戒し、前方は被害をものともせず、強引に戦車で塹壕を蹴散らし、多くの師走陣地守備隊は、戦車に潰され戦死していった。
貧弱な装備の僅か百名程度の守備隊相手に、ソ連軍は、戦車3台を潰し千名近い負傷者を出しながら、やっと軍道を突破し古屯まで進軍する事が出来た。
師走陣地守備隊が壊滅してから、半日後に大きな荷物を背負った輜重兵4人が八方山陣地に辿り着いた。
「鈴木二等兵、到着いたしました! 大隊長小林少佐は、戦死いたしました!」
ソ連兵に囲まれながら、補給物資を背負い到着した輜重兵4人が直立不動で播戸に敬礼をしていた。
「ご苦労であったな、敬礼はいいから、そこへ腰掛けろ」
儀礼的な事を好まない播戸は、彼らを気遣い休ませる事を優先した。
しかし、輜重兵4人は直立不動を崩さず続けた
「少尉殿! 我々は、小林大隊長のご命令で、生き恥を晒し、早々と戦場を離れ、持てる限りの物資を運んで来ました!」
播戸は、ねぎらうように輜重兵の肩を叩き
「弾薬と食料は、非常にありがたい。貴様らが命懸けで運んでくれた物資は、必ず役に立つ」
輜重兵達は、最敬礼し八方山陣地を出て行こうとした。
「おい! 貴様らどこへ行くんだ!」
輜重兵達は、振り返り
「地雷を抱え、ろ助戦車へ玉砕を仕掛けます!」
「ならぬ!!!」
播戸は、禿頭のてっぺんまで赤くして大声で吠えた。
大声でびっくりしたのか、極限の疲労がピークに達したのか解らないが、輜重兵達は、床に腰を付いて座り呟いた。
「軍道では、皆、地雷や手榴弾を抱いて玉砕して散って行きました・・・我々も最後は、茂みに隠していた弾薬を爆発させ、ろ助を道連れに玉砕するつもりだったのです・・・そこへ大隊長が来て、弾薬を八方山陣地へ持って行けと・・・大隊長に玉砕を志願すると、八方山陣地へ弾薬を持って行ってからにしろと・・・」
播戸は諭すように語る
「まだ、死ぬことは許さん。ここで俺達と一緒に戦ってくれ! お前たちのお陰で弾薬も増えた。」
輜重兵4人は、黙って頷いた。
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播戸と直利は、八方山陣地の頂上で、輜重兵が持って来た煙草を吹かしていた。
「播戸これからどうする?」
「新たな命令が出るまでは、大隊長からの命令通り、ここを死守するよ。直利」
「そうだな、軍道は開通してしまい進軍は止められないが、敵に取ってここは大隊長がおっしゃっていたように、トゲのような存在だ、必ず攻略に来るから徹底抗戦の準備をしよう」
直利は播戸へ、斥候の数を増やし敵の動きがある方面に、地雷と罠を仕掛ける事を進言すると、播戸は直ちに命令を下した。