表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

1945年8月10日


暗い砦の中に、明るい光が平たい板のような形に射し込んできている。


直利の部隊は、一晩中警戒していたが、ソ連軍に動きはなく朝を迎えた。


「ろ助の野郎共は、何してるですかね?」


「大本営が言ってた外交交渉が、上手く行ってるかも知れんな」


「伝令兵、司令部から何か連絡はないのか?」


「申し訳ございません。何度か電話をしておりますがまったく繋がらない状態です」


「電話機が壊れているのか?」


「確認しましたが、こちらの電話機は故障しておりませんが、他にも繋がりませんので、途中の電話線か交換機の故障と思われます。」


「またか・・・しょうがない、我々は現場判断で動くしかないな、ろ助の動きもないから各自早まった行動は慎むようにな!攻撃は、相手の攻撃を見てから始めるようにする。我々は、息を潜め敵を待ち受けよう」



「「「承知いたしました。少尉! 」」」


直利は、明確な命令がない状態で、部下に偵察を指示する


「金山と阿波加で、国境を越えた丘まで行って偵察して来てくれ、途中で敵に遭遇したら何もせず戻ってこい」


「了解しました」



昼前に陣地を出発した偵察が、3時になると戻って来た


「能戸少尉!金山戻りました!」


「どうだった?」


「国境を越え、丘まで登り敵陣を偵察して来ましたが、今の所大部隊の集結は無く戦車も見えませんでした。」


「そうか、変わった所はあったか?」


「途中に、敵偵察兵の物と思われる、バイクのタイヤあとがありましたので、向こうも偵察はしているようです」



「宣戦布告して来たんだから偵察は当然だが、それにしても不気味な位動きが少ないな」



「上が宣戦布告しても、現場はビビッて何もしないじゃないですか~ハハッハッハハー」


「浮かれるな! 戦力は向こうの方が上だ!」


軽口を叩く部下を直利は叱咤する


「申し訳ございません・・・」



西に傾いた陽が裏山の頂に触れそうな時、地上には、夏といってもまだまだうすら寒い北国の夕風が流れはじめていた。


「少尉、不気味な位に動きがありませんね。」


「動くなら、完全に陽が落ちてからかも知れん」



結局、日が暮れてもソ連軍に動きはなかった


ドドドドドードドドドドードドドドドードドドドドー


地響きが地の底で大太鼓でも打つ不気味さで、少しずつ少しずつ大きくなり、まっしぐらに接近してくるようであった。


「少尉殿!これは」


「ろ助が動き出したようだな」


「しかしまだ何も見えません」


「監視を続けろ! あと司令部に連絡は取れんのか!」


「申し訳ございません。電話はまったく通じません」


「少尉殿、橋は爆破しておきましょうか?」


「いや、こちらから先に動き出す訳にわいかん」



戦闘の自重命令は、既に解除されていたのだが、直利の部隊へ伝わる事はなかった。



暫く国境方面を監視していると、小さな光が見え始めた


それは、車両のライトで、綺麗に二列に並んだ細長い光の川のようにこちらに流れてきた。


通信兵は、無駄と解っているが電話器のハンドルを、グルグルと回し始めるとすぐに叫んだ。


「もしもーし!もしもし!もしもーーし!」


「少尉殿、突撃しますか!」


「我々の任務は時間稼ぎだ! 突撃しても30分しか足止め出来んし、まだ、ろ助は撃って来てないから、こちらから攻撃する訳にはいかん!」


「それではどうするのですか?我々は囲まれて孤立してしまいます」


「逆に考えるんだ、我々の存在に気が付かず、進軍していったら、我々は敵の背後から奇襲出来るんだぞ」


直利の部隊は、息を潜め監視しながらソ連機甲部隊をやり過ごしていた


「これは正規の独立戦車旅団だな」


「機関銃しかない歩兵小隊30名で、どうやって旅団を攻撃するんですか! 一蹴されて終わりですよ」


「今の帝国陸軍小隊で、重機関銃2丁、軽機関銃3丁もある部隊はそうそう無いんだぞ。小銃一丁で、アメ公の戦車と戦った英霊達に笑われるぞ、やりようはいくらでもある」


「我々の命は、少尉殿にお預けします! 名誉ある死に場所を作って下さい!」


「俺達の使命は、本土からの援軍と避難民の為の時間稼ぎだ、死ぬ覚悟で生き残り、ろ助を一人でも多くぶち殺してやる。だから時が来るのを待て」


直利の率直な話ぶりは、まるで将軍のように立派であった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球へ転移してきた地下迷宮都市~セシリア札幌戦記~
老後の満子が活躍しますので読んで貰えると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ