プロローグ
本日中に完結予定です。
小作人の父の手は、どの指も硬くひび割れて、爪にまで黒い汚れが染みこんでいる。
厳しい生活を送っている人間の手だった。
満子は、貧しいけれども健気に咲いてる一輪のひなぎく。
貧しいけれど一生懸命生きている、幸薄く健気な女である。
暮らしているのではなく、ただ生きているだけの生活から、脱するために生まれ故郷を捨て一家で、樺太への移住を決断した。
そんな満子達にとって樺太は、冬の寒さは厳しいが、夏は涼しく花々が咲き乱れる、自然豊かな地上の楽園のようであった。
移住後、満子の父は製紙工場で毎日遅くまで働き、母は樺太の豊かな海産物で干物を作り、本土へ売却し生計を立てていた。
干物は評判が良く、国境警備の為に、駐屯している国境警備隊へも納品していた。
国境警備隊への納品は、満子の仕事で、毎週納品へ訪れていた満子は、能戸直利と出会った
直利は、気立てが良く、働き者の満子に惚れ、満子は正義感が強く、真っ直ぐな性格の直利に惹かれ、この時代にしては珍しく、何のしがらみのない恋愛結婚をする事になった。
二人の間に子供は恵まれなかったが、一軒家を建てる事も出来て、近所でも評判のおしどり夫婦となっていた。
結婚後、太平洋戦争が始まり、日本は戦渦の渦へ巻き込まれるが、南方での激戦や本土への空襲が繰り返される中、樺太はソ連の脅威と対峙しながらも、平和な日々が続いていた。
しかし・・・
日ソ間には、日ソ中立条約が存在し、1945年8月時点でも有効期間内であったが、ソ連の対日参戦は、実施されるのであった。




