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お気に入りの場所

 程なく、私は再びコックピッドに連れ戻された。

 策などもちろん用意できないままに。


 私が椅子に座らされると、ペンタが目の前にやってきた。

 先ほどは無かった足元から伸びたケーブルが、スクリーンに繋がれている。

 ホログラムに比べてスクリーンの方が、画像が大きくて明瞭だ。

 

 メインスクリーンには、引き続きACNのニュースが流されていた。

 先ほど女性キャスターが座っていたスタジオの椅子には、中年の男性キャスターが座っている。青い顔をして、額の汗をハンカチで抑える仕草が目立つ。

 時折繋がれる中継には、ACNのロゴが入ったボートにあの女性キャスターとカメラを担いだ青年が乗り込んでいる映像が写っていた。

 周囲では数人のスタッフが、女性キャスターに話しかけたりボートの整備をしたりと、行ったり来たりしている。


 ボスは満足そうにその映像を見ていた。

 私がその様子を伺っているのに気づき、余程機嫌が良いのだろう、ニヤニヤしながら話しかけてくる。


「どうだ、気分がいいだろう?お前のためにこれだけ大勢が必死こいてるのを眺めるってのはよ!!これが俺たちみたいなドブネズミなら見放されて終わりってもんだ!!」


 何が面白いのか、ボスは声を上げて笑っている。


「そうかしら?この人たちは例え誰が人質だろうと、必死で救おうとするんじゃないかしら」


 答えてはみたものの、ボスには私の声など届いていないようだ。

 今度は手下たちに自分が売られかけた時の武勇伝を語り出した。


 1時間前とは違い、私の口を封じようとはしない。

 先のコンタクトで要求された、人質との会話をさせる気があるということだろうか。

 やはり、ここで何かヒントになるようなものを発信できれば。


「次のコンタクトで大人しく奴らの言うことを聞いておけば、

 また次の機会が得やすい。間違っても、早まるなよ!」

 

 数分前のアルスの言葉を思い返す。

 でも、もし次が無かったら?

 せっかくのチャンスをみすみす手放す事になりかねない。

 気ばかりが焦って、さっきから堂々巡りだ。


 ピーッ。ピーッ。


 通信回線の受信音がコックピッドに響き渡る。

 仕方ない。やっぱり、アルスの言うとおりにしよう。

 そう覚悟を決めた。


 ニュース画面が小さくなり、開かれた回線の映像がメインスクリーンに広がる。

 女性キャスターが電子パッドを片手に写っている。


「こうしてコンタクトしてきたって事は、当然、準備は整ったんだろうな!?」


 第一声はボスからだった。


「もちろん、クラウン氏の協力があって口座と認証チップは用意できたわ。

 でも、氏の条件はアルフェッカちゃんの生存を確認する事。

 アルフェッカちゃんと会話をさせてもらえなければ、このチップは渡せないわ」


 先刻は無かった現実感が突如湧き上がってきた。

 自分の名前が呼ばれる度に身体が強張る。


「ああ、こちらもそのつもりだ」


 ボスの視線と、手にした銃口が私に向けられた。


「だが、何でも答えさせるわけにはいかねえ。分かったな?」

 

 これは、私と彼女二人に向けたものだ。

 声を出さずに頷く。


「・・・・・・ええ。分かったわ」


 画面越しにも了承の声が上がった。



「アルフェッカちゃん、ケガはしていない?体調は?」


 会話は、体調を気遣う言葉から始まった。

 穏やかで優しい、心なしか震えている女性キャスターの声。


「ええ、大丈夫です」

 

 包帯の巻かれた右足を、少し引きながら答える。


「良かったわ。あなたの声を聞いて、きっとお父様も安心するはずよ。

 あなたが本物のアルフェッカちゃんか確認するために、

 いくつか質問をするから答えてくれるかしら?」


 ボスに視線を送る。

 彼は銃口をこちらに向けたまま、小刻みに頷いた。


「はい」


「それじゃあ、あなたのフルネームと年齢を教えてくれる?」


「アルフェッカ・クラウン。10歳です」


「好きな食べものは?」


「・・・ホットチョコレート、かしら」


「あなたの、ペアの名前は?」


 なるほど、これは的確な質問だろう。

 アルスのように、多くの人たちはクラウン家の娘とあればペアの一体や二体持っていて当然と考えるでしょうから。


「クラウン家の方針で、ペアはいません」


 スクリーンの女性キャスターは電子パッドを見て頷いた。


「お気に入りの場所はある?良く行く公園とか」


 一番に頭をよぎったのは、父の書斎だった。

 けれど、それは私しか知らない秘密の場所。

 本物の私だと証明するためには、もっとみんなが知っている事じゃないと。


「町の広場の噴水に腰掛けて、よく本を読んだりしているわ」


 パッドから視線を上げて、彼女はもう一度問いかけた。


「それは素敵ね。・・・他にはない?例えば、お屋敷の中とか」


 屋敷の中?それなら間違いなく書斎だ。

 スクリーン越しにキャスターと目があう。

 直感した。


 知っているんだ。彼女は。

 いいえ、お父様は。

 知っていて、それを許していたの?

 知らないふりを、してくれていたっていうの?


「それなら・・・父の書斎です。たくさんの宇宙船の資料があるから。それを見るのが好きで、私」


 女性キャスターはにっこりと微笑み、再び視線を落とした。


「あなたがそこに連れて行かれる前に、家族で食事をしたのを覚えている?」


「もちろんです。私、家族と口論をしてしまって・・・。一人で屋敷を飛び出したんです・・・っ!!?」


 話している途中で、手下の一人に口を塞がれた。


「残念、タイムアップだ。十分、本人だと分かっただろう?」


「待ってください!まだっ!!」


 女性キャスターが慌てて画面に近づいてくる。


 ダンッ!!


 足元を光線が掠める。


「ひっ!!」


 女性キャスターの声が響いた。

 

 思わず瞑った目を開くと、真っ青なキャスターの姿。


「あ、アルフェッカちゃん!?大丈夫!??」


 こちらに向かって問いかけてくる。

 私は無事を伝えようと体を捻るが、口をふさぐ手は外れてはくれなかった。


「当たっちゃいねえよ!交渉を続けたければいちいち騒ぐんじゃねえ!!」


 ドスの効いた声に、女性キャスターも身を縮こまらせた。


「人質の無事も確認できたんだ。次は認証チップの引き渡し場所だ!中継を切れ!!」


「!!?・・・・・・」


 言いたい事を飲み込み、キャスターは眉間にシワを寄せて頷いた。

 スクリーンの右下で小さくなっていたACNの画面が切り替わり、あの中年の男性キャスターがいるスタジオへと戻っていった。


「中継を切ったわ」


「よし、それじゃあ引き渡し場所だ。・・・おっと、ここからは大人の時間だ。お嬢ちゃんには戻ってもらわねえとな」


 ボスがそう言うと、口を塞いでいた男にそのまま持ち上げられた。


「アルフェッカちゃん!?必ず、助けるから!もう少しの辛抱だからね!!」


 扉の閉まる気配がするまで、女性キャスターの声が届いていた。

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