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再会

戻った部屋は相変わらず暗闇だった。疲れ切った人質たちは、ぐったりと身を寄せ合っている。


「入れ」

 

 扉から射す光を頼りに部屋の隅で壁にもたれているアルスを見つけ、そそくさと隣に座った。

 お互いの無事を確認し、安堵の息をつく。薄明かりの中で見たアルスはやっぱりきれいな顔立ちをしていて、その喋り方と同じように感情の読めない表情をしている。

 それが逆に私の心を落ち着かせてくれた。


 すぐに扉が閉じて暗闇にされるのかと思ったが、逆だった。突然照明が点き、暗闇に慣れていた人質たちは目をパチパチとしばたいている。


「食事だ」


 と言って私を誘導してきた男たちがビスケット状の栄養食品とボトルに入った水を配り、腕の縄を解いて回った。

 皆食欲などあるはずもなかったが、励ますように頷きあってから口をつけ始めた。


 良かった。まだみんな希望を失っていないようね。


 私も慣れない食べ物をもそもそと口に運ぶ。ぼそぼそとした食感で口に含むと水分を持っていかれる。むせそうになって慌ててボトルの水を流し込んだ。

 これは、一般的な食べ物なのかしら?

 じっと包装袋を見つめていると、左隣のアルスが小声で問いかけてきた。


「おい、その足どうした」


「え?」


 アルスの視線の先には包帯が巻かれた右足。

 失望させてしまう気がして、できる事なら隠していたかったのですけれど。

 さすがアルス。目ざといですわね。


「これは・・・・・・少し騒ぎすぎてしまいまして・・・・・・。でも、歩けないほどではありませんし。大した事ありませんわ!」


「撃たれたのか?」


「掠っただけですわよ!問題ありませんわ」


 変わらず無表情なのに、アルスの瞳が凍ったように冷たくなった気がした。

 やはり失望させてしまっただろうか。


「・・・・・・そうか」


 一言だけ言って、アルスは私から視線を逸らした。

 釈明の言葉が浮かんでは消えたが、結局何も言えずに残りのビスケットと一緒に飲み込んだ。


 再び部屋は暗くされたが、食事のお陰でみんな少しだけ生気を取り戻していた。


「悪かったな」

 

 ポツリとアルスがつぶやいた。なんの事だろうか。話が見えずに、声の方を見つめた。向こうからは、私の表情が見えているはずだ。


「俺が、余計な事を言わなければお前も無理してそんな怪我をする事もなかった。単独行動なんてしなければ守ってやれたのに」


 彼の言わんとしている事はすぐに分かった。と同時に頭に血がのぼる。つまり、アルスは私のケガは自分のせいだと主張しているのだ。

 

 一体、何を言っているの!?

 言葉にする変わりに勢い良くアルスに体当たりした。


「うわっ!おま、何すんだ!!」


 勢いのまま、バランスを崩して二人して倒れ込む。

 周りの人質たちも何事かと注目している。


「失礼。悪い夢を見てうなされただけですわ。みなさん安心なさって」


 そう弁解して起き上がる。

 それから、声のトーンを落として言った。


「いい?誰がいようがいまいが、私に起きた事は全て私の責任によるものよ!だいたい、あなたみたいな子供が私を守るだなんて10年早くてよ!!」

 

「子供って、人の事言えるのかよ。・・・・・・全く、強気なお嬢様だな」


「何か言いまして!?」


「いや、なんでも」


 ようやく空気が和らいだ。


「それで?この船は反FA軍の支部に向かってる・・・って、言ってましたわね」


「ああ・・・あいつらの仲間うちの話からの推測だ。”ゲート”って単語、分かるか?」


「ゲート?」


「そこから支部に行けるような話し方だったから、てっきり惑星名か何かだと思ったけど、違うのか・・・」


 このボートで行けるような距離にそんな名前の惑星はなかったはず。


「分かりませんわ。隠語か何かなのかも知れませんし・・・仲間の宇宙船の名前って事も考えられますわ」


 ふるふると頭を振る。考えても仕方がなさそうだ。


「そうか、俺の掴んだ情報はそれとこの船内の配置くらいだな。お嬢の方は?コンタクトは取れたのか?」


「それが・・・」


 一通り起きた出来事を話す。


「そうか。通信システムが・・・」


「ええ。見たところ簡単には起動させられそうにありませんでしたわ」


 このまま通信できなければ、恐らくアルスが聞いた計画通り反FA軍の支部へ向かうだろう。ゲートが何を指すのか分からない以上、そこで行動を起こすのも難しそうだ。


 一旦頭を空っぽにしようと、息をついて後ろの壁に背を預けた。ドレス越しに伝わるひんやりとした感触が心地よい。

 緊張が緩み家族の顔が思い浮かぶ。きっとみんな、心配しているわ。

 

「お父様。お母様。エミリア・・・」


 私のつぶやきに、アルスが反応する。


「そういえば、攫われたた時は一人だったのか?家族もメイドも、ペアも連れずに出歩いてたのか!?」


「あ、あの時は・・・事情があって・・・たまたまですわ!」


 家族と口論になって屋敷を飛び出したなどと、自分の幼さを強調するようで言いたくなかった。


「それに、クラウン家では子供にペアを持たせませんの。お父様は仕事で使っているけれど、お母様は必要ないと言って使っていないし、メイドや執事たちも持っている方が珍しいくらいよ」


 話の方向を変えようと、ペアの話題を膨らませる。


「へえ、中流階級以上は大抵持ってるもんだと思ってたけど、そういう訳でもないのか?」


「どうかしら。私の住んでる惑星では同年代の子供も大抵持っていたし、学校へ通うのに必要な地域もあるくらいだから、その認識で良いんじゃないかしら?」


 実のところ、私も持たせてもらえないかとお父様に掛け合ったことがある。その時にはペアの機種や性能、普及率やどれだけ有用かというところまできっちりと調べ、お母様やエミリアも味方につけた。

 基本的にお父様は私たち姉妹に甘く、ねだれば大抵のものは手に入った。だからペアもすぐに許可してくれるものだと思っていたけれど、それについては頑として聞き入れてもらえなかった。


「あれは良くできた、できすぎたロボットだ。判断力も責任能力も無い子供が持っていい代物では無い」


 そう言ったお父様は、厳格な父というよりも、マスコミを通じて見た経営者の顔に近かった気がする。


「ふーん。無くても困りゃしない贅沢品なのに、一体何でそんなもんが必要なんだかな」


「それはそうですけれど、ペアを使えば宇宙船や機会の操縦が格段に行いやすいですし、危険な船外作業も任せられますわよ!それに、調べ物や論文の作成には欠かせませんし、ペアがいればどこでも誰とでもコンタクトが取れるんですのよ?やっぱりビジネスにも勉強にも欠かせない・・・」


「なんだって!?」


 アルスの声がワントーン大きくなった。

 いけない、私ってばついお父様を説得しようとした時のようにベラベラと・・・。自分の価値観を押し付けていると思われたかもしれない。


「ごめんなさい!私ったら・・・」


「ペアでコンタクトが取れるのか!?」


 二人同時に口を開く。

 アルスの言葉を反芻して、ようやく気がついた。


「そう!そうよ!!ペアを使えばいいんですわ!」


 どうしてこんな事に気がつかなかったのだろう。

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